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第二十三章 芙蓉の扇の下にあったもの

 翌日、御殿で“評定”が開かれることになった。

 儀の夜は記録官が見ていた。

 だから禰宜側も、もう露骨には動けない。

 その代わり、言葉で潰しに来る。

 私は秋仁とともに御殿へ入った。

 怖い。

 でも、今の私は一人じゃない。

 廊下の角で、芙蓉公主が待っていた。

 扇を開かないまま。

「桜」

 名前を呼ばれて、私は立ち止まる。

 芙蓉公主は周囲を一瞥し、私にだけ聞こえる声で言った。

「昨夜の鏡片……役に立った?」

「はい。助かりました」

 私は正直に言った。

 芙蓉公主は小さく息を吐く。

「よかった」

 それだけで終わるはずだった。

 でも、芙蓉公主は一瞬だけ唇を噛んで、続けた。

「……羨ましいわ」

 またその言葉。

「あなたは願いを言って、叶えた。

 私の願いはまだ、扇の下に隠れてる」

 私は息を吸った。

 ここで私が言う言葉は、きっと彼女にとって刃にも救いにもなる。

「芙蓉さま。願いは……言っていいです」

 芙蓉公主の目が揺れた。

「簡単に言うのね」

「簡単じゃないです」

 私は言った。

「でも、言わないと……自分が消えます」

 芙蓉公主は扇を持つ手をぎゅっと握った。

 そして、ほんの少しだけ顔を上げる。

「……私の願いは」

 声が震える。

「私は、選びたい。国のための役じゃなくて、私の人生を」

 胸が締めつけられた。

 彼女の願いは、私と同じだ。

 “生きる理由”を、自分で取り戻したい。

 私は小さく頷いた。

「選べます。……少しずつでも」

 芙蓉公主は目を閉じた。

 扇が、ほんの少しだけ下がる。

「ありがとう。桜」

 その呼び方が、初めて“役”じゃない感じがした。

 芙蓉公主は最後に、いつもの冷たい声に戻して言った。

「評定では、私は禰宜側の理屈を代弁する。……でも、あなたの言葉を消さない」

 それは、彼女なりの“味方のしかた”だった。

 私は頷いた。

「……私も、芙蓉さまの願いを消しません」

 芙蓉公主は、ほんの僅かに笑って去っていった。



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