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第5話 タイムリープの答え合わせ




 目が覚めると、そこはヴァインハルト家に用意された寝室だ。

 「何だか良い夢を見たなあ………いや、良い夢だったか?」と自問しながら着替え寝室を出る。

 するとそこにはロマンスグレーの髪を撫でつけた、初老の侍従長が待機していた。

 

「奥様、おはようございます。旦那様ですが、ここ数日は聖女奉祝(ほうしゅく)祭の準備で忙しいとのことですので、屋敷にはお戻りにならないそうです」

「は、はあ」

「我ら使用人心を尽くして奥様をサポートするよう旦那様から命令されておりますので、何かご不便等ございましたらぜひ仰せつけください。では朝食の準備ができていますので、食堂に案内いたします」

「よ、よろしくお願いいたします」

 

 侍従長の後に大人しく続く。

 確か彼の名はトマスといっただろうか。

 そんなトマスの後ろを歩きながら、ふと思案する。


 クロードはここしばらく屋敷に戻ってこないのか。

 

 まあ、そりゃあそうだろう。

 一生苦しめるために結婚した妻よりも、聖女エミリアによる祝奉祭の準備の方が大事に決まっている。

 正直顔を合わせなくてほっとしているところもあったりした。

 

(夢の中では色々とクロードの良い一面が見えたけど…………)


 うん、夢だしな。

 そう納得し、辿りついた食堂で席に着く。

 そして侍従長のトマスから温かい紅茶が注がれた。


「あ、これ月露茶ですね」

「奥様の好みは旦那様が全て把握しております。およそ一年前から使用人達に情報共有されましたので、奥様のお好きな茶葉を始め全ての嗜好品等ご用意しておりますよ」

「……………」

 

 ……………一生苦しめるために結婚したという割には至れり尽くせりだな?

 

 クロードの考えが全く分からないものの、とりあえず気を取り直して紅茶を飲んだ。



 

 ・

 ・

 ・



 

 結婚式に参列してくれた招待客リストを睨めっこしながら彼らへの返礼品を考える。

 すると昼時くらいになって友人のレベッカがやって来た。


 ちょうど作業もひと段落し終えたところなのでレベッカと共に小休憩のお茶をたしなめば、彼女は眉間に眉を寄せながら言い放つ。

 

「離婚するのに招待客への返礼品を考えているの?」

「まあ、一応ね………」

 

 離婚する夫婦からの返礼品なんて不吉でしかないが、アレンスティア王国の慣例なのだからしょうがない。

 送らなければ送らないで色々言われるだろう。

 

 レベッカも口では色々言いながら、私の手伝いをしに来てくれるあたり有難い。


 するとその時、不意に気付く。

 

(あれ?レベッカが袖のないドレスを着ているなんて珍しいわね)

 

 彼女の右腕には学生時代クリムゾンベアに襲われて残った痛ましい傷跡があるはずだ。


 そのせいでレベッカはいつも袖のある物を着ており、着れるドレスのデザインの幅が狭まるといつも悔しそうにしていた。

 なのに………

 

「…………………あ、あれ?レベッカ、腕の傷は?」

「腕の傷?何のことよ?」


 レベッカの右腕には傷一つ付いていなかったのだ。

 

「だ、だって中等部の頃、別荘のあるククル高原に行って、クリムゾンベアに襲われたって」

「へ?ああ、確かにクリムゾンベアに襲われたけど、冒険者ギルドに依頼して護衛を付けてもらったのよ。冒険者の方々が撃退してくれたおかげで、ぴんぴんしているわよ」

「な、」

 

(何だって――――!!??)


 何それ!そんなの知らない!

 確かにレベッカの右腕には傷跡があったはずだ。

 なのに無いってどういうこと!?

 

 するとレベッカが懐かしそうに笑みを浮かべた。

 

「当時話したこともなかったアンタがいきなり忠告してきたんだもの。変な子だなって思ったけど、ククル高原にクリムゾンベアが出るのは本当だし、念のために護衛を付けようってお父様に相談したのよね」

「え?」

「もう。忘れたの?ま、中等部の頃の話だものね。でもソフィーがああ言ってくれたから、襲われずに済んだかもしれないわね。本当にありがとう」


 くすくすと笑うレベッカに呆然とする。

 そしてその瞬間、昨夜見た夢の内容を思い出した。

 

 あの夢の中で、私は確かにレベッカに忠告したのだ。

 ククル高原に行く時はクリムゾンベアに気を付けろ、と。

 

「………………もしかしてその時、レベッカから手鏡を貸してもらった?」

「覚えているじゃない!バカンスが終わった後、本格的に話すようになったんだけど、ずっとソフィーのことが気になっていたのよ」


 レベッカの言葉に冷や汗が流れる。


 ということは、だ。

 つまり昨夜見たあの夢は現実で、私はというと………

 

(タイムリープしたってこと………?)

 

 どうやら私は神や精霊といった上位存在に目を付けられたのかもしれない。



 

 ・

 ・

 ・



 

 レベッカの話によると、昨夜見た夢が夢ではなくタイムリープであることが現実味を帯びてきた。


「えっと、中等部の頃、私が上級生相手に風魔法を使ったことは覚えている?」

「覚えているわよ。あの大人しいソフィー・シモンズが上級生に歯向かったって噂になったじゃない。でもクロードの研究室を守るためにやったんでしょ?

 理由が理由だから誰もアンタを責めなかったし、その上級生の生家だって逆に謝ってきたって聞いたわ」


 そうなんだ………。

 一応丸く収まっていたことにほっと安堵する。

 

 あの上級生も貴族なのだ。

 彼らの生家がうちの生家を訴えていたらどうしようと思ったが、そうならなかったことに胸を撫でおろす。

 

(あ、そういえば………)

 

「結晶病って今はどうなっているの?薬とか………」

「? 変なこと聞くのね。薬も何もクロードが12歳の頃に特効薬を開発したじゃない。天才魔術師の偉大なる功績の第一歩として有名な話よ」

 

 それを聞いて心から「良かった」と思う。

 詳細は分からないが、無事に薬を完成させ、特殊な魔素を生み出す絶滅危惧種の蝶を保全させたのだろう。

 

(でもこれって生態系を変えてしまったようなものだよね?)

 

 大きく歴史を改変させてしまった気もするが、果たして問題なかっただろうか。


 しかしそこでハッとする。

 

(もし次にタイムリープをする機会があって過去に戻れるのなら、クロードと結婚しない未来にも変えられるんじゃない………?)

 

 タイムリープに次回があるかは分からない。


 けれどもし出来たとして、過去に戻れたのなら。

 クロード・ヴァインハルトと結婚しないように動くことも可能ではないだろうか。





 



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