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第15話 未来は変わらない





 私宛の手紙には今後日記を書くようにということと、その日記は自分の一番好きな詩集の横に仕舞うよう指定した。

 そうすれば未来で日記を探す手間も省け、すぐに見つけることができるからだ。


 意識が浮上し、ハッと目が覚める。

 天井はヴァインハルト家の寝室のもので、隣にはクロードの姿がない。


 私は慌ててベッドから起き上がり、寝室に置かれた本棚に駆け寄った。生家から持ってきた本などがしまってあり、私の一番好きな詩集のその隣を確認する。

 

(あった)

 

 前回のタイムリープをする前にはなかったはずの分厚い本が3冊───おそらく日記に手を取る。

 それをぱらぱらと捲れば、やはり前回のタイムリープから今にかけての日記が記されていた。ところどころ日付をまたいでいるが、自分自身に褒めたくなる。

 

(え、偉い!私、偉いよ!ちゃんと今日まで日記を書いてる!)

 

 中等部3年から今日にかけて書かれているため、日記も複数あるのだろう。

 私は焦る心を抑えながら、一番古いであろう草臥れた日記を手に取った。

 

 あの恋文はどうなったんだろう。

 クロードは何と返してくれただろう。

 

「…………………あれ?」

 

 しかし日記に書かれていたのは、手紙の返信がなかったという旨であった。

 

(あ、あれ?確かに机の中に置いておいたよね?)

 

 おまけに恐ろしいことにその後聖女エミリアから呼び出しを受けたらしく「クロードに手を出したら殺す」と釘を刺されたようだった。

 

 こ、怖………。

 

 そういったことを含め、クロードとは疎遠になり───16歳の頃に彼から告白を受けたとのこと。

 しかし聖女エミリアの脅しに心底怯え切った私は、人格否定とまではいかないけれど「ヴァインハルト君のことはそういった目で見れない」と断ったそうだ。


 そしてそれに対しクロードはこう言ったらしい。

 『やっぱりドミニク先輩やヒース先輩みたいな男が良いのか』と。


(どうしてそんなことになっているんだ………?)


 一応恋文のことも尋ねたみたいだが「手紙?不審物は一括して捨てるようにしているが」と一蹴にされてしまったみたいで。

 そして結婚式当日、彼は私の存在に気付かずギルドの同僚とこう話していたらしい。

 

“ やっぱり初恋を拗らすのは良くないな。思い出補正で彼女のことを神格化していたが、相手は昔から体格の良い男が好きな───内面を少しも見ようとしない女だった ”

“ じゃあ何で結婚したんだよ?”

“ 別にアイツのことは好きでも何でもないがな。一生かけて自分が軽率に言い放った言葉によって青少年がどれほど傷付いたか分からせるためだ。別にもう少しも好きではないがな ”


 事細かに書かれたそれに私がどれほどショックだったかが伺える。


 そして私と結婚するために、私の生家を没落させかけたのはもちろん。その後レベッカが乱入して、彼らに気付かれる一連の流れは何も変わっていなかった。

 

 そっか。

 私のこと、もう少しも好きじゃないんだ………。

 

 それに前回のタイムリープで送った恋文は彼に読まれることなく捨てられてしまったらしい。

 

(一応差出人に私の名前も書いてあったけど………)

 

 それでも例外なく捨ててしまったのだろう。

 

 私のこと好きだと言ってくれたのに、手紙を捨てるとか。

 本当に私のことを好きなのかという疑問が湧き出るし、それなのに何故再び告白してくるのかも意味が分からない。

 しゅるしゅると私の中でクロードへの期待や熱が冷めていく。もうクロードのことが理解できなかった。

 

 するとその時、寝室の扉がノックされる。

 ショールを羽織り扉を開ければ、侍従長のトマスが立っていた。


「おはようございます。本日は聖女奉祝祭がございますので、用意されたお召し物を着替え次第、城へ参りましょう。すでに馬車も用意しております」

 

 ふと横を見れば寝室の奥にクロードの用意した、深い濃紺の品の良いドレスが立てかけられていた。

 するとトマスが続ける。


「旦那様から言伝を預かっております。聖女奉祝祭が終わった後、城に残っていてほしいそうです」

「城に?」

「何でもお話ししたいことがあるとか」

 

 トマスの言葉に素直に頷く。


 何を話したいんだろう。

 日記を読んだだけでも、こんなにも辛かったのだ。

 直接何か言われてしまえば、もっと深く傷付くのは明白だった。



 

 ◇




 クロード・ヴァインハルトは後悔していた。

 

 結婚式の日、ヴァインハルト家の中庭にて。

 ソフィーの存在に気付かず言い放った言葉の数々を。


“ やっぱり初恋を拗らすのは良くないな。思い出補正で彼女のことを神格化していたが、相手は昔から体格の良い男が好きな───内面を少しも見ようとしない底の浅い女だった ”

 

“ 別にアイツのことは好きでも何でもないがな。一生かけて自分が軽率に言い放った言葉によって青少年がどれほど傷付いたか分からせるためだ。別にもう少しも好きではないがな ”


 最低である。

 中等部1年からずっと好きだった女に告白したものの、見事振られたクロードは逆恨みから彼女と政略結婚した。


 16歳の頃、それなりに勝算はあったのだ。

 聖女エミリアが現れてから関わる機会がぐんと減ってしまったけれど、ソフィーとは仲が良かったし、中等部の頃はそれなりに特別な時間を過ごしたと自負していた。

 個人研究室で青く光る薬草を見せたり、イザベラのシグレットリングを一緒に探したりもした。


 しかし今思えばそれはソフィーにとって友人とのごく普通な思い出の一つでしかなくて。

 100個目となる新しい魔素を在学中に発見したクロードはこれで経歴諸共ソフィーにふさわしい男になったと、意気揚々と思いを告げたのだ。


 けれど結果は玉砕で。

 そういえばソフィーがドミニク先輩のことが好きだと言っていたり、ヒース先輩と仲睦まじくしていたのを思い出し「やっぱりああいう体躯が良い男がタイプなのか」と理解する。


 うんうん、そっか。そうだよな。

 そりゃ研究室に籠って顕微鏡を覗き、細々と魔素を見つけているような男はタイプじゃないよな。

 そうだよな………。


 しかしやっぱりソフィーのことをどうしても諦めきれなくて、あの手この手で結婚に漕ぎ付けたものの、披露宴会場であるヴァインハルト家の中庭で意地を張ってとんでもない暴言を吐いてしまった。


 ソフィーが気まずそうに植え込みから現れ、ぽろぽろと涙を流す姿が目に焼き付いている。

 本当に最低である。

 

「───なあ、いつまで落ち込んでるんだよ。今日は聖女奉祝祭なんだぜ?いくら嫌疑がかかっている聖女とはいえ、さすがに護衛はすっぽかせないだろ?」


 アレンスティア王国王城にて。

 魔術ギルドの同僚フランツがぼんやりとしたまま動かないクロード(現場責任者)に声をかける。

 それにクロードは顔を上げて、何とか頷いた。


「聖女奉祝祭が終わったら話し合え。な?」

「一応行事が終わり次第、話し合いの席は予定しているが………」

「なら良いじゃねえか!そこで誤解を解いて仲直りする。これで解決だ!」

 

 気持ちを切り替えるよう促すフランツにクロードも無理矢理自分を納得させる。


 聖女奉祝祭が終わり次第、ソフィーには城に残るよう伝えている。

 

 そこで結婚式の日の暴言を謝罪する。たとえ許されなくとも、謝らなければならない。彼女の生家も決して没落させる気なんかなかったことも言わなければ。

 

 その時、クロードはふと思い出した。

 16歳の頃、ソフィーに改めて告白した時、彼女は不安そうな顔をしながら聞いてきた。


“ ……………手紙は、机の中にいれた手紙は?”


 それに首を傾げればソフィーはショックを受けたような表情をした後、すぐに「何でもない」と苦笑した。


 あれは一体何だったんだろう。

 そのことが今もずっと気になっていた。



 


 

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