第14話 四度目のタイムリープ《15歳》②
購買で便箋を購入し、人気のない図書室で手紙を広げる。
(何て書こう。学園に通っている期間は誰とも付き合う気はないとか?)
だからもし告白してきても受け入れない。クロードとは良い友人だという事柄を書こうか悩む。正直かなり調子に乗っていると思うが、そういった恥も含めて何かしらのアプローチをしなければ未来は改変されない。
(そう、私はクロードとは結婚できない。結婚は………)
しかしそこでふと思う。
別に彼と結婚したって良いのではないか、と。
私の家を没落させかけて、私に復讐するために結婚したクロード。それは元々私が聖女エミリアの目が怖くて、こっ酷く彼を振ってしまったのが原因だ。
けれどもし、聖女エミリアなんか気にせず、彼の思いを受け入れればどうなるだろう。そのまま交際に発展して、穏やかな流れで結婚するかもしれない。
それを考えた時、胸の内が温かくなった。
だってもう私はクロードのことが嫌いではない。
結婚式で酷いことをたくさん言われたけれど、タイムリープを通して彼が本当はどんな人であるのかを知ってしまったから。
「…………私、クロードのことが好きなんだ」
そう気付いた時、自然とペンが走った。
私はクロードのことが好き。彼に告白されるよりも前に、私から告白する。
クロードが「君に見合う男になったら交際を申し込みたい」と言ってくれたけど、それを待っているだけなのは嫌だった。私もクロードに「好きだ」と伝えたい。
クロードへ、から始まる手紙にこれまでの想いが溢れ出る。
中等部1年生の頃、個人研究室で青い光に包まれた薬草の───幻想的な景色を見せてくれた。
中等部2年生の頃、結晶病の治験に協力してくれた男性の、娘さんからの手紙を読ませてくれた。
舞踏会の日には、冬の寒い日だというのに一緒になってイザベラ様のシグレットリングを池の中で探してくれた。
そして私のことを好きだと伝えてくれた。
それを思い出すとクロードへの愛おしさが溢れる。
けれどクロードへの恋文をしたためる最中、もし断られたらどうしようと不安も沸き上がる。
でもクロードだってそんな気持ちを抱えながら「好きだ」と言ってくれたのだ。好いている相手が不安も恐れも抱き、思いを告げてくれたから。
私も彼に何かしたかった。
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授業が終わり、誰もいない教室でクロードの席に手紙を入れる。差出人に私の名前も書いたし、彼の想いもきちんと書いた。
私で良ければ、貴方の恋人になりたい、とも。
(多分聖女エミリアから目を付けられるよね。でも………)
聖女エミリアはもちろん怖い。
けれどもう「どうにでもなれ」という気持ちだった。
(あ、そうだ)
手紙を書いていて思い付いたのだが、明日の私宛にも手紙を書こうと思う。というのも、この時間軸の私に今日から未来にかけて日記を付けてもらいたいのだ。
日記の内容によって私がどういう行動をとり、クロードとの関係がどう改変されたか知ることができるだろう。
なので手紙に「今日から日記を書くこと!とりあえずクロードとの関係は必須!」という旨を書いておこうと思う。
この時間軸の明日の私がそれを見て、言う通りに動いてくれるか分からない。けれどやらないよりはマシだ。
流石にタイムリープしていて未来を知っているなんてことは、必要以上に未来を改変しそうで怖いが………。
多分、今回のタイムリープではクロードと会うことができないだろう。もうそろそろ眠気が襲ってくる時間であるのを何となく察していた。
「クロードと私、どうなるのかな………」
想いを告げた手紙でどう未来が改変されるだろうか。
そして私は誰もいない教室を跡にし、寮への自室へ向かった。
◇
「───なあに、これ?」
ソフィーが教室を去った後、一人の人影が現れる。
華やかな薄桃色の髪に可愛らしい白薔薇の髪飾り。天使かと見紛うの美しい乙女、聖女エミリアが誰もいない教室に現れる。
そしてクロードの机に無遠慮に手を突っ込めば、一通の手紙が入っていた。封を破いて中を見れば、クロードへの恋文がしたためられている。
「ふーん、ソフィー・シモンズかあ………」
エミリアはそれを一瞥すると、教室の窓を開けて破いた。破かれた手紙は風に乗って、遠くへ飛んでいく。
中等部3年、クロード・ヴァインハルトはエミリアのお気に入りだ。高等部にいる同い年のウィリアム達も良いが、美しい顔立ちをしたクロードには将来性を感じる。
結晶病の治療薬を開発したという経歴はもちろんのこと。その顔の作りや骨格、そしてどこかアンニュイな雰囲気から成長すれば、輝かんばかりの美青年に成長するだろう。
だからそれを邪魔する奴は許さない。
第一王子ウィリアムも、大臣の甥であるルシウスも、騎士団長の子息ドミニクも。そしてクロードも、自分から離れることは許さない。
「ま!気弱そうな女の子だったし、軽く釘を刺しとくくらいでいっか!」
聖女エミリアがにっこりと笑みを浮かべながら言い放つ。
その翌日、ソフィーのもとにやって来たエミリアは、人知れず「クロードに手を出すことは許さない」と忠告したのだった。
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