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第11話 三度目のタイムリープ《14歳》②




 池の中を探してみるものの、中々見つからない。

 刺すような冷たさの池の水に凍えながらも必死に探す。


 早く見つけなければイザベラ様が舞踏会の時間に間に合わないだろう。何よりクロードに会って「好きな人はいない」と言わなければ私の監禁ルートが確定してしまう。

 

「ソフィーさん、もう良いわ!寒いでしょう?出てきて頂戴!」

「ですが………」


 このままではイザベラ様の指輪が池の工事によって紛失してしまう。

 どうしたものかと頭を悩ませた、その時。

 

「ソフィー?」


 どこからともなく私を呼ぶ声が聞こえてきた。

 ふと上を見れば、中庭を一望できる2階の窓からクロードが顔を出していて、私の姿を見て驚いている。

 

「クロード………じゃなくて、ヴァインハルト君!」

「そんなところで何を………って、イザベラ様も?」

 

 怪訝そうにした後、クロードは「ちょっと待ってて」と言って2階の窓から顔を引っ込めた。


 


 ───池から上がって、中庭に降りてきたクロードに事情を説明すれば「なるほど」と納得してくれた。

 そして現在、ありがたいことにクロードにもシグレットリングの捜索を手伝ってもらっていた。


「あの、ヴァインハルト君。寒いでしょ?無理しなくて良いから………」

「そういう君こそ池から上がったらどうだい?僕はともかく君は女の子なんだから」

「二人ともよ!早く上がりなさい!」


 言い合う私達にイザベラ様が慌てた様子で声を上げる。


 けれどもうすでにびしょ濡れになっているのだ。

 ここまで来たら見つけ出した方が良いだろう。

 

「本当にごめんね。ヴァインハルト君に手伝わせちゃって。もっと早く見つけられた良かったんだけど………」

「一人より二人の方が効率が良いだろう。…………それより君は何でイザベラ様を助けようと?見返りほしさにやっているようにも見えないが」

 

 後半クロードが小さな声で尋ねてくる。

 何で?何でと言われても困ってしまう。

 だってそんなの放っておけなかった以外ないのだから。

 

「えっと、イザベラ様が困っていたからとしか………」

「それで何の交流もないイザベラ様のために冷たい池の中へ?」

「それはヴァインハルト君も同じでしょ?」


 この子も池の中に入ってるくせに何を言っているんだろうと返す。

 すると彼はくすりと吹き出した。

 

「…………そうだね。そういえば君は、誰かの大切なものを身を呈してでも守ろうとする子だったね」


 どこか懐かしそうに目を細めるクロードに首を傾げる。

 イザベラ様がはらはらとした様子でこちらを伺っているのを横目に、池の中の窪みや岩陰を探す。

 

 その時、指先にコツンとしたものが当たった。

 小石じゃない。

 円形で、輪っかのついたこれは………


「───ありました!イザベラ様!ありましたよ!」


池の中から金色に輝く指輪が現れる。

 

それをイザベラ様に向けて掲げれば、曇っていた彼女の表情はぱあっと明るくなった。

 目尻には涙も溜めていて、やっぱり不安だったんだろうと思う。

 

「あ、ありがとう!!何てお礼を言ったら良いか………!」

「それよりも早く行かないと舞踏会が始まっちゃいます!ウィリアム殿下が待ってますよ!」


 じゃぶじゃぶと慌ててクロードと一緒に池の中を出る。

 そしてクロードによって浄化魔法をかけられた指輪は、そのままイザベラ様の手に収まった。


 感激したように何度も礼を言う彼女に、私達は早く舞踏会へ向かうよう促す。


「二人とも本当にありがとう………!この恩は絶対に返します!」


 そしてイザベラ様は指輪をはめて、その場から去って行った。


 残されたのはびしょ濡れの状態のクロードと私。

 お互い顔を見合わせて、笑みを浮かべる。

 しかし私の口から盛大なくしゃみが出てきてしまった。


 駄目だ。全然恰好つかない。

 

「大丈夫かい?早く中へ入って温まろう」

「うん、そうだね」

「……───シモンズにヴァインハルト?そんなびしょ濡れになってどうされたんですか」


 その時、声をかけられた。

 声のする方向を見れば、学年主任のトレメイン先生が目を丸くして立っている。


 そして彼女は慌てた様子で私達のもとへ駆け寄ってきた。



 

 ・

 ・

 ・



 

「───つまり、イザベラ・モンフォールの紛失物を冬の池の中を這いずり回りながら探していたと。…………シモンズ、ヴァインハルト、正直に言いなさい。無理矢理脅されていたということはありませんか?」

「いえ、無いです」


 トレメインに連れて来られたのは彼女の研究室だった。

 クロードの個人研究室よりも広く設備も整っており、ミニキッチンも風呂も備え付けられていたため、私とクロードは順番にシャワーを借りた。

 

 そして制服を乾かしている間、先生から借りたシャツとスラックスを身に纏い、ソファの上で温かい紅茶を頂いている。

 トレメイン先生がどこか心配気に「イザベラ嬢に何かされたのか」と聞いてくるが、私達は素直に否定した。

 

「そうですか。それなら良いのです。イザベラ・モンフォールは品行方正でそういった下劣な行いをしない女生徒であると認識しておりますが、万が一のことを考え、貴方達に確認いたしました」


 優しい。ぬくぬくとした部屋でほっと一息つく。


 するとその時、研究室の扉がノックされた。

 入って来たのはどこか見覚えのある、体格の良い男子生徒だった。

 

(あれ、この人どこかで………って、)

 

 そこでハッと思い出す。

 この人まさか、クロードの個人研究室の鍵を奪って部屋をめちゃくちゃにしようとした上級生じゃないか!?


 しかしトレメイン先生は「あら」と慣れた様子で立ち上がって彼のもとへ行く。

 

「ヒース・フロック、いかがなさいました?」

「魔石に関する論文の添削をお願いできますか?もうすぐ魔石鑑定士の試験もありますので………」

「ええ、もちろんです。シモンズ、ヴァインハルト、少々お待ちください」


 トレメイン先生がそう言って上級生のヒース先輩と話し出す。

 それを気にしていると、横に座るクロードが小さな声で教えてくれた。

 

「ヒース先輩はトレメイン先生の助手みたいなことをしていてね。その代わり魔石鑑定士の試験の面倒を見てもらっているみたいなんだ」

「そうなんだ………。え、何でヴァインハルト君がそれを知っているの?昔、その………」


 そう言い澱めば、クロードは何とでもないように話す。

 

「ああ。ヒース先輩とは色々あったけど、あの後すぐに向こうから謝ってくれたから気にしていないよ。トレメイン先生の指導もあって改心したようだし、最近だと魔石についての相談もしているんだ」


 彼のその言葉に思わず目を丸くする。

 ふとヒース先輩に視線をやれば、向こうも私に気付いたのか小さく会釈してくれた。


 それに「すごいな」と思う。

 改心できたヒース先輩も、指導をしたトレメイン先生も───そしてクロードも。


 当たり前のことだけど、他人の人生が確かに動いている様に感動する。

 

「……………そんなことより、今日は残念だったね」

「え?」

「舞踏会。君の好きなドミニク先輩は同じクラスのリリエット・ミュラーと行っただろう」


 どこか探るような瞳でそう言ってくるクロードに首を傾げる。


 しかしそこで思い出した。

 私がこの三回目のタイムリープでやらなければならないことを。

 

「ち、違うの!」

「…………違う?」

「ええと、前にヴァインハルト君にドミニク先輩のことが好きって言ったんだけど、やっぱりそうじゃなくて。好きかなって思ったんだけど、よく考えてみたら恋愛的な意味で好きではなかったみたい」


 しどろもどろそう言えば、クロードは目をぱちぱちする。

 そして「本当に?」と幼い子供みたいに聞くものだから頷けば、クロードはずるずるとソファにもたれた。

 

「ヴァインハルト君?」

「あ、いや、力が抜けちゃって。そうか。君はドミニク先輩のこと、好きではないのか」

「うん、ごめんね。ややこしいこと話しちゃって」


 そう謝れば、クロードが嬉しさを我慢するかのように微笑む。


 よし。これで監禁ルートは無くなっただろう。あとはどうやってクロードからの告白を阻止するかだ。

 しかしここから何をすれば良いか検討もつかない。あえて嫌われるように立ち回ることもできるが、どんなことをしたら嫌われるのかも分からなかった。


 その時、クロードがティーカップを置き、私の手にそっと触れる。

 どうしたんだろうと彼を見れば、クロードの顔は真っ赤に染まっていた。

 

「もう勘付いているかもしれないが、僕は君のことが好きなんだ」

 

(………………………へ?)

 

「でも、待っていてほしい。今ようやく自覚したけど、僕はまだ本当に未熟で。君の隣に立つ資格がないと分かった」

 

 そしてクロードが視線を落としながらこぼす。

 

「…………恥ずかしい話、ドミニク先輩のことをずっと思っているようなら、君のことを閉じ込めてしまいたいと考えていたんだ」

「そ、それは」

「今はもちろん考えていない!いや、ちょっとは考えているけど………!でもそれじゃ駄目だと自覚したんだ」


 熱に浮かされたように話すクロードに絶句する。

 監禁ルートを回避したら次は告白確定ルートだとか聞いていない。

 そして引き攣る私の顔に目もくれず、クロードが続けた。

 

「だから待っていてほしい。僕がもっと良い男になったら、改めて君に交際を申し込みたい」

 

 それに言葉を失ってしまう。


 正直言って悪い気はしない。

 悪い気はしないのだが………

 

(この場合、未来はどう改変されるの!?)

 

 するとその瞬間、私の意識ががくりと落ちかけた。


 ね、眠い。強烈な眠気がいきなり襲ってきたぞ。

 

「ソフィー、大丈夫かい?」

「ううん。じゃなくて、その………」


 何を言おう。

 何を言えば良いんだろう。

 

 しかしそう考えている間に、私の意識は暗転してしまった。




 


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