【日台友好】 日米が台湾について「曖昧戦略」をしなくてはいけない理由【苦渋の決断】
筆者:
ご覧いただきありがとうございます。
今回は高市氏の「存立危機事態」に関する発言について、個人的な意見を述べたいと思います。
世間一般の方の意見では、「高市首相よく言った!」「当たり前のこと言っただけなのに中国過剰反応し過ぎ(笑)」
と言う感じだと思います。
しかし、僕の感覚が認識が非常に異なるので、その「差」について、少しでも埋められればと思います。
もっとも僕の考えが絶対的に正義とも思わないので「参考程度に」ご覧になっていただければと思います。
◇これまでの政府発言と高市氏発言の「最大の違い」
質問者:
これまで安倍元首相が「台湾有事が日本有事」という発言をされた時もここまで問題にはならなかったと思うんですけど……。
どうして今回はこんなにも凄い反応を中国側は示しているんですか?
筆者:
まず発言自体を振り返ろうと思うのですが、立憲民主党の岡田氏に対する答弁で高市首相は「台湾が海上封鎖され、それを米軍が来援し、それを妨げるために武力行使(たとえば戦艦を使う)をともなうようなケースがあれば、存立危機事態になりうる」と具体的な話をしました。
ここで注目すべき点は「存立危機事態」が「法律上の定義」である点です。
「存立危機事態」は2015年の安全保障関連法の定義であり、
具体的に日本が部隊を出すケースについて発言をしたということです。
例えそれが米軍を伴うものだとしても、「中国本土と台湾が一体でない」と暗に発言したということも非常に大きいと思います。
安倍元総理は2021年の台湾のシンポジウムで安倍元首相が「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事である」と発言しました。
しかし、この内容は自衛隊の役割や日米同盟を通じた日本の責任を示すものの、「具体的にどの台湾の事態が存立危機事態になるかどうか」を法制度として明言したり、あるいは日本が必ず参戦するかについて言及していませんでした。
今回は確率が例え1%以下だとしても参戦を具体的に述べたという意味で大きく違うのです。
質問者:
でも「毅然とした対応」ということで評価されている方が非常に多いんですけど……。
筆者:
「毅然とした対応」という「国としてのメンツを保つための行為」をするべき瞬間は、母国の主権が侵害されたときだと考えます。
今回の発言はもはや「他国に対する干渉」になってしまうので非常に危険な領域だと考えます。
質問者:
高市さんはそうなるとどう答弁すればよかったのでしょうか?
筆者:
「存立危機事態」の話になった時点でもう「国防の観点から具体的なことは答えられない」の一辺倒で良かったと思いますよ。
ここで重要なのは一般的な概念として存立危機として語ったのではなく法律用語での「存立危機事態」の具体的内容を言ってしまったのが痛かったのだと思います。
◇現状は「日中友好」であり「台湾と断交」の状態である
質問者:
でも実際のところ台湾は一度も中国に占領されていないじゃないですか?
いったい何を根拠に中国は日本に抗議しているんでしょうか……。
筆者:
1972年の日中共同声明第3項では、
「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。
日本政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」
とあり、これを合意の下で締結しています
それと同時に大平正芳外相(当時)が「日華平和条約は存続の意義を失い、終了した」と宣言し、その発表当日に台湾側は日台断交の声明を発表しました。
この影響もあって1978年の日中平和友好条約にも繋がりましたので、大きな存在感があるのです。
質問者:
条約に根拠があるのは大きいですね……。
筆者:
中国としては台湾問題になった際にすかさずこれを掲げ、日本に対して圧力をかけていると言っていいでしょう。
世の中には「内政事情」であったとしても紛争があるために「内政問題でも有事」とカウントされることはあると思います。だから安倍氏の発言はギリギリセーフだったんです。
しかし、具体的に部隊を動かすかどうか、参戦するかどうかは話が別になります。
高市氏の発言はいわゆる「曖昧戦術」を事実上破ったに等しい状況であり、今までとは状況が異なるのです。
ですから中国としては「オイ! オイ! 話が違うじゃないか!」と怒っているんです。
◇台湾を守るための「曖昧戦術」
質問者:
「曖昧戦術」って聞いたことはありますけど具体的にはどんな事なのかよく分からないんですけど……。
筆者:
先ほどの日中共同声明第3項では「中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し」とありますが、具体的に台湾の帰属問題について日本が「承認」したわけではありません。
「政府として中国を承認した」だけに過ぎないのです。
これは1951年のサンフランシスコ講和条約では日本が台湾を「放棄した」だけでどうなったかについて触れなかったために国際法上日本の台湾の扱いは「宙ぶらりん」なのです。
政治的評価としては、「中国と国交改善とともに台湾と国交断絶したんだし、中台一体と認めたのではないか?」と思われるかもしれませんが、国際的に日本が台湾の帰属についてどう判断しているかは「曖昧な状態」なのです。
質問者:
へぇ~。実は「微妙な状況」を作れる環境だったんですか……。
筆者:
中国も当時旧ソ連と関係が悪化しつつあり、アメリカも旧ソ連と対立が激化しつつあったのでアメリカが仲介となり中国と日本とが接近することにメリットがありました。
そのためにお互いに「妥協できるライン」を探り、文言を「意図的に広く解釈できるよう」煮詰めたのではないかと思います。
因みにアメリカも中国を国家承認しつつも「台湾関係法」という台湾の軍事行為を選択肢とする法案を制定しています。
これも軍事介入が義務ではなくオプションであり、台湾の安全保障を完全には認めていないことから「ギリセーフ」のラインとして成立しているのです。
質問者:
逆にどうしたら「曖昧戦略」ではなく正規の安全保障を台湾は得られるのでしょうか?
筆者:
やはり日米から台湾が国家承認を受け、それぞれと安全保障条約を結ぶしかないと思います。
ただ、現状では中国がそれを受け入れる可能性はゼロだと思いますので「台湾にとって曖昧戦略が現状の最善」なのです。
これはやむを得ない苦渋の決断と言えるでしょう。
◇中国と断交すると起きうること
質問者:
こう言っちゃ難ですけど、中国と関係が悪化したことで渡航が控えられ、
むしろオーバーツーリズムが軽減されて日本が良くなるといった話もあると思うんですけどこのまま断交しちゃった方が良いとかそういう説は無いんですか?
筆者:
国民感情とすれば台湾に寄り添って中国とはオサラバしたい方が多いと思います。
そのために高市氏の発言を「当たり前」と捉えてプラスに評価した方が多いのでしょう。
僕も切れるものなら明日からでも中国と関係を断ち切った方が良いと思います。
しかし、現実は中国とは「切っても切れない関係」みたいな感じなんですね。
まず日本は中国にレアアースで大きく依存しています(24年は71%)。
レアアースが無くなればあらゆる電子機器は動かなくなり、生活にも影響が出るでしょう。
しかもレアアースのシェア率も中国は非常に高く(生産が7割、精製が9割)代替えは非常に難しいでしょう
質問者:
レアアースはスマートフォン、テレビ、パソコン、電気自動車、風力発電、LED照明など様々なものに使われているそうで、トランプさんも中国に強く出れないのはそのためでしょうね……。
筆者:
トランプ氏の大統領就任前は「台湾有事が起きたら北京を爆撃する」とまで言っていましたけど中国総領事の「首を切ってやる」発言に対しては静観する姿勢のようですからね。
更に中国には「国防動員法」や「国家情報法」が存在します。
実際に発動したことが無いのでどうなるかは分かりませんが発動すれば中国政府が在外民間人や施設などを軍事動員できるものです。
日本では猟銃許可使用すら国籍条項が無いというお花畑ぶりですが、中国の方が銃を持って法律発動と同時に蜂起する可能性もあり得ると思います。
更には旧敵国条項を名目に尖閣や沖縄に武力行使するかもしれません(外交は本来は旧敵国条項廃止が最優先されるべき)。
現状はプラスともマイナスとも断言できない渡航制限と後は水産物輸入停止が19日に発表されたぐらいで済んでいますが、今後はどうなるかは分かりませんね。
◇今後の見通し
質問者:
国防動員法が発動されるのは悲惨な結末ですね……。
しかしそれは最悪のシナリオだと思うのですが、現実的ににはどのようなことになる可能性が高いでしょうか?
筆者:
まず高市氏がどう言う方針になりそうかと言いますと、この答弁の後に、
「政府の従来の見解に沿ったものなので、特に撤回、取り消しをするつもりはない」
としつつも、
「最悪のケースを想定した答弁だった」とし、
「今後は特定のケースを想定して明言することは慎む」
ともしています。
このことから「従来の政府見解である」ということを強引に押し通す可能性が高いように思います。
質問者:
高市さんが発言を撤回や取り消すということは無いんでしょうか?
筆者:
高市発言は国際法上は非常に怪しいと思うのですが、
国民としては「中国に対して毅然とした対応をした」「日米台連携が深まる」「安保法制の正統性強化」と前向きな評価ばかりなんですね。
また、高市氏は台湾と関係が強いとも言われていまして、
撤回することの方が支持者から総スカンを喰らうリスクになってしまうんです。
曖昧戦術としての価値は下がってしまい、実を言うと日本の安全保障にとってマイナスなんですけど、支持率や選挙戦術としては「保つことが合理的」と言えるのです。
◇左の人たちが問題を複雑化させている
質問者:
一方で高市さんに質問した岡田克也さんについて色々と問題があるようなのですが……。
筆者:
岡田氏は自らを団長とする代表団として25年3月20日、中国を訪問し、共産党中央宣伝部の李書磊部長と北京の人民大会堂で会談しています。
そのために「スパイ疑惑」が浮上しているのです。
根掘り葉掘り国家機密を聞き出そうとしている姿勢も「異常」とも言え、日本の国会議員としては評価できないでしょう(岡田氏がスパイだと仮にするのなら、中国が怒っているのはこれから先、意図をもって何かをする可能性が高いと思います)。
質問者:
ですよね……。
筆者:
ただ、高市氏が「誘いに乗った」というのもまた事実だと思います。
はぐらかしておけばこんな問題にはなりませんでしたからね。
(戦争を呼び込み徴兵制などを作りたいのであれば、”内閣のたびに同じ質問をしている”のに敢えて違う答え方をする理由も分かりますけど)
それとは別に中国の方が渡航を控えることによる経済損失が2兆円前後という試算がありますけど、オーバーツーリズムの問題が全く考慮されていません。
ホテルなどの供給力にも限界があるので、需要が減っても売り上げが下がらない可能性もあります。
文化財の棄損などを修復する費用などマイナスを軽減することもあり得るのです。
高市氏を叩いている側や追及している側にもこのように問題があることから高市氏を支持する風潮もあります。
正しい分析をしている方も中にはいますけど、それはどちらかというと「左側の人たち」です。
そのために、僕の感覚とは程遠いのが世論の大多数という感じなんです。
質問者:
なんだか複雑なことが色々と絡み合っているんですね……。
筆者:
皆さん台湾の方は震災が起きた際にも真っ先に支援してくれる。それに対して中国はいつも日本から盗もうとしている――と印象が真逆なために何かバイアスがかかっているんだと思います。
確かに僕も台湾の方の方が圧倒的に好きですし、台湾が危機に陥っているのであれば救いたいです。
ただ、国際法上の関係は個人の感情とは全く違う位置に存在しているということです。
僕個人の意見ではありますがまとめますと、
1 台湾を侵略させたいのではなく、台湾を守るための「曖昧戦略」だということ。
2 「高市発言」は「参戦する法律上の定義」を述べたことから「曖昧戦略」を危うくしたのが最大の問題だということ。
3 高市氏は日本国民と台湾の心の内代弁をしたのかもしれないが、皆が言って欲しいことが必ずしも国際的に良いとは限らないということ。
4 個人の感情、経済的関係、「左の人たち」の活動、国としてのメンツ、国際条約など
複雑なことが色々と絡み合っているものの国防動員法やレアアースを考慮すると中国との国際条約と「曖昧戦略維持」が一番重要だと思われるので今回の発言は評価できない。
こんな感じですね。
とにかく非常に複雑なので、様々な意見があってもやむを得ないと思います。
皆さんはどう思われたでしょうか? ご意見ご感想をお待ちしております。




