消えた駅
私の通勤時間は長い。
無理をしてマイホームを購入したが、都心の家は高すぎて郊外の家を購入したからだ。
朝早い時間だし、電車内は数人。
会社の最寄り駅まで、あと1時間程もある。
最近は残業が続いていて疲れが溜まっている。私は少しだけ眠る事にした。
ガタン。と電車が強く揺れた。私は慌てて目を覚まし、腕時計で時間を確認する。なんだ、まだ30分もたっていないじゃないか。
私はもう一度時間を確認する。
腕時計は止まっていた。
急に、私は子供の頃に友達と大喧嘩をしたことを思い出した。友達は歯が折れ母が相手の親に謝っている。俺は悪く無いのに、母は頭をペコペコ下げている。初めての彼女の顔が浮かんだ。初めてのキスが浮かんだ。彼女と結婚した。嫁の顔が浮かんだ。子供が産まれた。息子の顔が浮かんだ。無理して家を買った。嫁と息子の笑顔が浮かんだ。今まで生きていたすべての思い出がグルグルとグルグルと思い出された。俺の全部が無くなってしまうと思った。
私はパニックになり、叫びながら運転席の方へ走り出した。運転席から見えた光景は、私の乗る列車が別の列車に衝突する瞬間だった。
時計は止まっていなかったのだ。
最後の瞬間の時間をゆっくりと感じていたのだ。
私の目的の駅は、消えてしまった。