Day2
昨夜、隣人から突如として告げられた「宇宙人」宣言。
部屋に入ってから、私はそのことが気になりすぎて、頭から離れず、「とりあえず寝よう!」と思ってもなかなか眠れなかった。
だからか、今超絶眠い。
いや分かってるよ? 隣人から突如として告げられた「宇宙人」だなんて、絶対頭追いつける訳ないじゃん。え、じゃあ、私が見てきたあの隣人は何だったの? 今までのあの隣人は全部宇宙人だったってこと? どういうこと?
──で、とりあえず高校と大学で同じの友人に話した。
「宇宙人? 居るわけないじゃん」
軽くあしらわれた。
「考えすぎだよ梅子。だって、常識的に考えて、宇宙人だなんて」
──普段から常識を疑ってるお前に「常識」だなんて言われたくないわ。
悪態をつきながら、唇を尖らせて、
「じゃあ彩矢はどう思うのさ。隣人に宇宙人が居たら」
「え~、宇宙人?」一度動作を止め、彩矢は考える素振りを見せる。「もし私が宇宙人と遭遇したら、まずは根掘り葉掘り訊くかな~」
「根掘り葉掘り?」
「例えばさ、どこから来たのか、とか」
「あ~、それは誰でも聞きそう」
「あとはまあ、宇宙人も「謎」に対して興味はありますか、とか」
「それは彩矢しか訊かないでしょ!!」
思わずツッコみを入れる私。目前の女性はただきょとんとしていた。
「いや、梅子も「謎」に対する意欲は失わせない方が良いよ」
「良いです」
「なんで~。頭が柔らかくなるよ」
「結構です」
「それに推理小説が好きになるし」
「本は前からとっくに読んでます」
「あとはまあ~……ってかさ、その宇宙人ってどこから来たんだろうね!」
話題変更早すぎるって……。心の中で疲弊を感じながら、私はテーブルに乗っているカルピスを一口啜った。
「さあ? どこから来たのか、知らない」
「それ訊いてみてよ~。じゃないとさ、チャンス、逃すよ」
「……チャンスねぇ」
私という人生、一度だけチャンスを逃がしたことがある。
大学一年生だった頃、人生で初めて好きになった人が居るのだが、その人は既に恋人持ちで、何というか、やるせない気持ちがどっと押し寄せてきたのだった。
その気持ちが今になって思いだしてきて、つい、「あ~」と。
「んっ? なんか嫌な気持ちでも思い出してきた?」
「やめてやめて。言わないで」
「アレでしょ、あの初恋の……」
ニンマリとした彼女の笑みに、私は頬を引きつらせる。なんで彼女は私に対しては、そういう性格になるのさ。いつもの彼女は誰に対しても優しいはずなのに。
「まあでもさ、一度訊いてみたら?」
「なにを?」
「その宇宙人に、何の目的で地球にやってきたのか」
※
「とは言ってもなぁ~……」
独り言が自宅アパートの廊下で、寂しく響かせる。
私はあの〈中西稔〉の部屋の前に立っていた。いつドアベルを鳴らそうか迷っていると、突如として横から声が聞こえてきた。
目線を向けると、噂の〈中西稔〉だった。
「……どうか、されたんですか?」
疑問口調だった。どうやら、疑っているわけでもなさそうだ。
ホッと溜息をついた後、
「あの……一つ、伺って良いですか」
「なんでしょう」
「…………この地球に、何の目的で、来たんですか?」
静かな間合いが数分。すると、目前の男性は「待ってました」と言わんばかりの表情で、笑っていた。まるで、私がその質問をしてくるのを待ち構えて居たかのように。
「地球を滅ぼすためです」
そう言った彼の口元は、少しだけ人間じゃないような気がした。