Day1
「俺、宇宙人」
自宅アパートの廊下で、男性は言った。隣で住んでいるという、〈中西稔〉はシュッとした顔立ちで、なかなかのイケメンで見惚れそうになる。そんな男性が、いきなり「宇宙人」宣言。
いやいや。まさか。なんで今頃になって、宇宙人宣言? なんで? SFじゃあ、あるまいし。きっと、何かの冗談でしょ。うん。これはおそらく、何かの冗談か、いたずらだ。確か中西さん、いたずら好きだったし。うん。
「またまた、ご冗談を」
「本当です」
真面目な顔つきだった。どうやら彼は嘘をついている自覚はないようだった。
「……えっ?」
「本当です」
「……本当に、宇宙人?」
「本当に、宇宙人です」
「う、うううううう、宇宙人?」
「そうです」
またもや真面目な顔つき。ただ、先程とは違い、彼の表情には薄らと血管が浮かんでいたような気がした。苛ついているのだろう。
「じゃあ…………その、宇宙人である、証拠って」
「証拠?」
彼はきょとんとしている。私はひたすら、頷く。
「……証拠ねぇ」
「──宇宙人と言えば、ほら! あの、テレポーテーション使えるでしょ!」
「使えません」
──使えないのかよッ!!
内心悪態をつきながら、私は『宇宙人と言えばの能力』を必死に考える。
「あっ、あとあれだ。モノを浮かす能力。あれなんだっけ?」
「テレキネシスですね。ただあれは──」
「あれやってみてよ!!」
「一部の人しか使えません」
──一部の人しか使えないって、どういうことだよッ!! もしかして宇宙人って、私が思っているような人じゃない!?
「……じゃあさ、何が使えるの?」
唇を尖らせながら言うと、目前の男性は「ああ~」と唸った。
「エスパー」
「え、えすぱー?」
「そう。エスパー」
「え……っと、それはつまり……人の心が、読めるってこと?」
「そうです。さっきも、何だかブツブツと聞こえていましたよね」
『──聞こえていたんかいッ!!』
私の心の声と、彼の声がこだました。つい、私はハッとした表情をした。
「これで分かったでしょ。俺が宇宙人だって」
そう言うと、彼はドアを捻って部屋に入ろうとする。が、私は「待って!」と思わず声を出していた。目前の男性はきょとんとしてこちらを見ている。
「……あなた、名前は?」
「……えっと、名前ですか? 俺は〈中西稔〉ですけど」
「じゃなくて! 本当の名前」
「え、本当の名前ですか?」
「そう。本当の名前」
なんかラブコメ展開になってないか、これ? そう思いながら、彼が答えるのをジッと待つ。すると、彼はゆっくりと口を開いて、こう言った。
「〈中西稔〉」
──えっ?
一瞬きょとんとしていたら、既に目前の男性──〈中西稔〉と名乗った男性は部屋の中に入っていった。その様子を見ながら、私はきょとんとしつつも、自分の部屋の前に視線を向けた。
ドアの左上に飾られている表札、101。その下に、私の苗字『梅田』。
「……何だったんだろ」
私の独り言が廊下に溶け込むのを感じながら、ドアを開けて部屋に入った。