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第4話『あの、ごめんなさい。お父様。約束を守れなくて』

お父様に頼み込んで、見せていただいた羅刹の谷でしたが。


凄い映画でした。としか今は感想が出てきません。


お父様はお侍さんの役で、今よりも若い様子でした。


そしてお父様ともう一人。お侍さんと偶然一緒になった偉いお坊さんの役は宗近さんが演じていました。


二人とも流石ベテランという立ち振る舞いで、話す姿も殺陣も堂に入っておりました。


しかし、そんな……もはや無敵に思える二人すら圧倒する雰囲気を出しながら現れたのが、羅刹でした。


人を食らう鬼の羅刹は若い女の姿で現れて、その正体を明かし二人を食らおうとするのですが、その転じる姿が、その話し方が、立ち振る舞いが、目に焼き付いて離れません。


気が付けばお父様でも宗近さんでも無くて、羅刹にばかり目がいっておりました。


彼女はどうしてその様な悲し気な顔をするのでしょう。


彼女はどうして人を食らう様になったのでしょう。


どうして。どうして。


彼女はどこからきて、何処へ向かうのでしょう。


彼女は……彼女は……。


「佳織ちゃん? 佳織ちゃん!」


「……? 夢咲さん?」


「映画は終わりましたけど、大丈夫ですか?」


「え、えぇ」


何だか夢を見ていた様な心地でした。


今でも頭の中に羅刹が焼き付いて、あの笑顔が、あの狂気が離れない。


「うみゅー。これが佳織ちゃんのお父様が見せたくなかった理由かー。しょうがない。お兄ちゃん。このコップ持ってて」


「あ、あぁ。どうするんだ?」


「こうするんだよ!」


私はボーっと既に黒くなっている画面の方を見ながら、何となく夢の中にいる様な心地で夢咲さんたちの話を聞いていました。


しかし、やはり頭にはうまく入っていかず、頭には先ほどの羅刹が……。


「ひゃん! や、なに!? 何ですか!? 背中に何か冷たいものが!」


「おー。帰ってきた」


「陽菜! やり方を考えなさい!」


私は背中から冷たい感触が消えず半ばパニックになりながら、とりあえず服を脱ごうと上着を脱ぎました。


そしてもう一枚も脱ごうとして、誰かに止められてしまいます。


「ちょ、ちょっと! 駄目だって、駄目だから!!」


「どうした!? 佳織!!」


「あ」


「……は?」


「いや、これは」


「貴様ら! 人の娘に何をしとるんだ!!!」


私はお父様の声に正気を取り戻して、周りを見ました。


背中に何か冷たい物が入ってきた私は、動揺して服を脱ごうとしていましたが、それを夢咲さんが止めようとしていたみたいです。


しかし、見ようによっては夢咲さんが私の服を無理やり脱がそうとして、私が抵抗しているようにも見えます。


私はそれを察し、すぐにお父様へ弁明の為に立ち上がりました。


「ち、違います! お父様。夢咲さんは私を正気に戻す為に、ですね。えっと、してくれまして。それで私が混乱していただけで」


「正気に? 何があった。佳織」


「……それが、お恥ずかしいのですが、お父様の忠告を無視して、羅刹に入り込んでしまいました」


「そうか」


お父様はそれだけ言うと、ビデオデッキの所まで歩いてゆき、そのビデオを回収すると部屋に戻ってしまいました。


怒らせてしまった……!


私が言いつけを守れない悪い子でしたから。


そして部屋から戻ってきたお父様はどこか難しい顔をしていました。


「あの、ごめんなさい。お父様。約束を守れなくて」


「いや、良い。気にするな。予想は出来たことだ。そちらの二人はどうだ? 気分は悪くないか?」


「いえ。俺は大丈夫です。陽菜は?」


「私も元気いっぱいだよ!」


「そうか。君たちは強いのだな。良かったよ」


お父様は普段と同じ様に穏やかに笑うと、二人を連れてリビングへと向かい、ココアを出してくれました。


私はそれをチビチビと飲みながら、お父様の話に耳を傾けます。


「気になっているだろうから、一応話しておくが、ここで話したことは外では決して口外しない事。いいね?」


「はい」


私も夢咲さんも立花さんも頷いたのを確認してからお父様はゆっくりと話し始めました。


「もうかれこれ十五年は昔になるか。一人の少女が役者として私たちの前に現れた」


「少女の名は星野雛」


「彼女は恐ろしいほどの才能を持っており、それは一度でも彼女の演技を見れば分かる。そういうレベルの物だった」


「私たちは彼女を見た時に、これから彼女の時代が来るのだなと思った。が、それは現実とはならなかった」


「何故か分かるか? 佳織」


私は何となく最初の頃の夢咲さんを思い出して、頷きました。


「誰も付いていけなかったから」


「そうだ。私も宗近も天才だと言われていたが、彼女という大輪の花に比べればその辺りに生えている草花と大して変わらない。圧倒的な才能とはそういうものだ。そしてそんな才能を間近で見せられた人たちは心が折れ、去っていった。彼女はすぐに孤独となった」


お父様の話を聞きながらそれとなく夢咲さんの様子を伺いましたが、真剣な顔の中にどこか寂しそうな、悲しそうな色があります。


自分と同じ様な人に同情しているのでしょうか。


「だから彼女は出番の少ない端役しか出来なかったし。やっても共演したがる人間は少なかった。おそらく、夢咲さんと彼女の最も違う点を上げるなら、ここだろう。彼女は演技以外では人と接する事が苦手だったのだ」


「ただ彼女は真剣に役者という仕事と向き合っていただけだったんだがな。それを理解できる人は少なかった。そしてそんな状況を悔しく思っていた男が居た。葉桜恵太という男だ。奴は映画を撮るという事以外は日常に何の喜びも見出さない変態だったんだが、そんな奴が生涯を通してでも撮りたいと願ったのが、あの羅刹の谷だ」


「そして羅刹役こそ、星野さんに相応しいと奴は熱弁していた。だが、問題は羅刹一人では映画は出来ないという事だった。最低でも後二人は役者がいる。そこで声が掛かったのが、私と宗近さ」


「まぁ正直悩んだがな。当時は今ほど達観しては居なかったし。自分が一番上手いという自信もあった。彼女の才能を間近で見る恐怖もあった。でも、それでも挑んだんだよ。結果はあのザマだった訳だが」


「佳織は純粋で、真っすぐに物事を受け止める。最も良い物を見つけ出して、それを追い求める。そんな佳織が、意識を完全に持っていかれるほどに羅刹を追っていたというのならば、それが答えだ。十年前に出た結論と何も変わらない」


「私と宗近は二人がかりでも、彼女には太刀打ち出来なかったのさ」


「それが悔しくて、悔しくてな。私たちは互いに協力しながらより高みを目指して、挑み、ある一程度の満足を得た。そして再び彼女へ挑もうとしたが、叶わなかった」


「彼女はあり得ない非現実を呼び寄せて、神の国へと行ってしまった」


「恨んだよ。神を。そこまでの才能を彼女に与えないで欲しかった。そうなると分かっていたのなら、教えて欲しかった。そうすれば、彼女に孤独な役者という世界以外を見せられたのにと、ね」


「だが、現実は非情だ。圧倒的過ぎる才能は、周りを滅ぼし、本人が消えた後にも強い禍根を残す。もう二度と同じような事を起こす訳にはいかない」


お父様の目が鋭く夢咲さんを貫きました。


夢咲さんは怯むことなく、その視線を受け止めます。


「でしたら、私を殺しますか?」


「あぁ、そうだな」


「お父様!?」


「人の世界で生きられぬ様になった者を、人は恐れ……その名を羅刹と呼んだ。彼らが疎まなければ、私はこの身を人食いの鬼になど落とさなかったでしょう」


「君は……誰だ?」


「とっくにご存じのはず。貴方もそう呼んだでしょう? 羅刹と」


突然物騒な事を言い始めた夢咲さんとお父様に驚きましたが、よくよく聞いているとさっき見ていた映画の話でした。


でも、なんでここでその演技をしているのでしょうか?


何か二人にしか通じない会話という事でしょうか?


もしかしたら、これが役者として高みへ上った人だけが辿り着ける境地という物なのかもしれません!


「ですが、もう人を喰わずとも、自分を見つける事が出来ました。私は歩みたい道を見つけたのです。誰かに決められた物ではなく、己が定めた夢を」


「そうか。君は、彼女とは違うのだな」


「はい。雛と陽菜は違う道を歩みます。運よく出会えましたから。こんな私でも共に歩んでくれる存在と。恐怖を与えられても、それでも隣で笑っていてくれる人と」


「……そうか。本当に必要だったのは、私や宗近ではなく、佳織の様な子だったんだな」


「はい。私も今になって気づきましたが」


何だか気が付いたら和やかな空気になっていて、場は落ち着きました。


話の大半が理解できなかったですが。きっと何かの映画とかドラマのセリフとかを使って行われた会話だったのでしょう。


もしかしたらお父様流の役者テストだったのかもしれません。


こんなセリフは知ってるか? 的な。


でも、そう考えると私は全然分からなかったですし。よく勉強しないと駄目だなと思います。


頑張りましょう!

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