5.これは詐欺ではないですよね…?
「なぜ、私のようなアサシンと結婚する必要があるのですか?」
ハーブの香りが優雅に漂う執務室で、私は聞いた。
だって、ディーン様もおっしゃっていたけれど、アレク様は公爵。それも筆頭公爵なのだから、娘を嫁がせたい貴族なんて山ほどいるはずなのだ。
「確かに誰でもよかったんだが、せっかくだから興味の惹かれた女性にする予定だったんだ。」
「えっ! ということは、私に興味が湧いたと言うことですよね?」
「ああ。スーヴェリス伯爵家出身というのもあるのだが、一番はその容姿だな。」
え、見た目…?
私は珍しい髪色はしているけれど、特にものすごい美人といいうわけではないと思うし、体型も標準。
どこにそんな要素が…?
「それについては長くなるから、そのうち話すとしよう。」
「…わかりました。」
あまり納得はできないけれど、やっぱり何か話せない理由があるような気がする。
そこを無理に詮索するほど、私は無礼ではないので!
「契約の内容はこちらに。納得いかないところがあったら言ってくれ。なるべく要望通りにできるようにする。」
「ありがとうございます。」
えーっと…? 思ったよりも短いわね。
一つ、この結婚が契約上のものと、話してはならない。
二つ、妻はレイエスター公爵夫人として相応の振る舞いをし、品位を保つことに協力しなければならない。
三つ、この契約はレイエスター公爵家の任された『任務』が終わるまでとし、何も問題を起こさずに契約期間を終えた場合、一生暮らしていけるだけのお金と家を渡した上で離縁すること。その後は一切の関わりを持たない。
あれ、想像していたものよりもよっぽど素晴らしい契約の内容です!
罠があるか詐欺なのかもしれないと思って、隅々まで眺めても、何も見つからない。
「アレク様。本当にこの内容でよろしいのですか?」
「むしろ、この内容で納得してもらえるのか…?」
「こんな素晴らしい契約内容、滅多にないですよ!」
アレク様が眉を顰める横で、スラスラとサインをする。
これで、公爵夫人として生活した後には自由な生活が待っているというのね!
今までのアサシン修行は無駄になってしまうけれど、なんて素晴らしいのでしょうか!
「素晴らしい契約内容って… 公爵家の事情に巻き込んだ挙句、金と家だけ渡して捨てるんだぞ?」
「私は自由な生活を望んでいるのです! お金だけでなく、家までもらえるなんて条件が良すぎますわ!」
「条件が良い…だと…? 本気で言っているのか?」
「はい! アサシンとして殺されるはずだった私を契約上でも妻においてくれるどころか、その後の生活の保障までしていただけるなんて…! アレク様はお優しいのですね!」
「優しい…? 俺が…?」
貴公子らしい言葉遣いが崩れてしまっているが、幸せの絶頂にいるフェリシティはもちろん気がつかない。
指から血が出るまで窓を拭いたり、倒れるまで暗い部屋でアサシン修行をしたりする必要がないなんて!
なんて嬉しいの! これ以上の幸せが、私のこれからの人生にあるかしら!
「話は以上だが、本当に要望はないのか…?」
「はい! 全くありませんわ!」
私は全く作っていない満面の笑みで返事をする。
心からの笑みを浮かべるのはいつぶりでしょう!
「それでは、いつまでもお仕事の邪魔をしてしまっては申し訳ありませんから、これにて失礼致します!」
フェリシティはそそくさと執務室から出ると、スキップをしそうな足を暗殺用のドレスで隠しながら部屋に戻る。
(公爵家の品位を守るためだもの! スキップは部屋までお預けね!)
歩いているように見える走り方はマスターしている。
速さの調整が難しいのだが、散々スーヴェリス伯爵家で『走れノロマ!』と言われたり『廊下を走るなガキが!』と言われたりしていたので、どちらを言われても対処できるようにと練習したのだ。
ちなみに、主にそう怒鳴っていたのはメイド長である。
気づいたら使用人になっていたので、『自分はあなたの主人のの家族のはずなのに』という考えは、どこかに飛んで消えていってしまっていたのだった。
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