3.さすが公爵家だわ…!
「この隅から隅まで高級そうな部屋は、なんでしょうか?」
呆然と天井を見上げる私を見て、ディーン様が笑う。
「何って、客間ですよ?」
「きゃくま…。」
「はい。急遽泊まられることになったので、一番狭い部屋しか用意できなくて… 申し訳ないです。」
「せまい…。」
ますます訳がわからない。だってどう考えても、ここはお城なんですもの!
「時間も遅いためあまりおもてなしはできませんが、ごゆっくりお過ごしください。」
「ひゃい…」
ごゆっくり…ごゆっくり… 家具を壊したらマズイという緊張で『ごゆっくり』なんてできないわね…
私は暗殺ように着ていた動きやすいドレスのまま、ベッドにそっと座ってみた。
…絶対に高級品だわ! 私の実家も伯爵家だったけれど、絶対にこんなに座っただけで包み込まれるようなベッドはないと思う。そして実家ではありえない趣味の良さ!
(実家はエステルの趣味が全面に押し出されていて、アサシン一家だというのにフリルとレースがちょっとどころじゃなく多かったから…)
数秒前のゆっくりできないとか言った私に攻撃魔法をぶつけたいわ。
私はそのままベッドに転がる。
「まさか公爵家に嫁ぐことになってしまうなんて…」
今朝は岩のように硬いベッドで寝ていたはずなのに、今はこんなにふかふかなベッドに転がっている。
人生、何があるか本当にわからないわ…
でもここでなら、自由に生きられるのかもしれないわね…
アレク様とディーン様のことを思い出す。
色々と事情があったけれど、あんなに優しく話しかけていただいたのはいつぶりでしょう。
その日フェリシティは、14年ぶりにぐっすりと眠った。
* * *
「さてアレク様? 先ほどのあの茶番はどういうことでしょうか?」
執務室のソファに向かい合うように座って話しているのは、眠気が完全に覚めてしまったアレクと、フェリシティを部屋に送った後のディーンだ。
「茶番というと?」
アレクは『なんのことだか』という顔で聞き返す。
ただしこれは悪巧みをしている時の定番のことなので、ディーンは聞き流した。
「スーヴェリス伯爵家のご令嬢、つまりあの女性はアサシンです。なぜ結婚などと?」
フェリシティは『バレてない!』と安心していたが、ちゃんと、もう完全にバレていた。
フェリシティが来ていたドレスは、もしも見つかった時に誤魔化せるようドレスの見た目はしているが、実際はただの動きやすい服で生地の上等さも何も無い。
スーヴェリス伯爵家の名前がなくても、令嬢が身につけるものでは無いため、バレるのは当たり前だった。
「ただ興味を持っただけだ。それに、任務には女性の同行が必須条件、ちょうどいいと考えただけだ。」
「しかし、アレク様は公爵です。言い方は悪いですが、女性も選び放題で縁談も絶えないのに、なぜあのような怪しい娘をわざわざ…!」
「スーヴェリス伯爵家の魔女の噂について、気になっただけだ。それ以外の何者でもないし、深く関わるつもりはないから安心しろ。」
「そうは言いましても…」
ディーンは不服そうに主人を軽く睨む。
ディーンはアレクの側近だが、同い年の彼らは幼馴染で親友だ。それは主従関係があっても変わらない。
「私はアレク様としても、アレクとしても心配しているのです。あなたは確かに強い。でも…」
フェリシティを妻とすることに不安なディーンに、アレクは笑う。
「俺は大丈夫さディーン。彼女はアサシンだが、何があっても俺を殺せない。そんなに心配すんな。」
そこには公爵としてのアレクではなく、親友としてのアレクがいる。
貴公子らしい言葉遣いを崩し歯を見せて笑う姿も美しく、年相応に見えてディーンは安心した。
「アレク、お前は本当に変わらないな。19歳の立派な公爵なのに、歯を見せて笑うなんて。」
「それを言うならお前もだディーン。俺は一応お前の主人だぞ?」
2人は深夜の執務室で楽しそうに笑っていた。
互いに公爵家の主人として、その側近や使用人のトップとして生活している彼らには、心を休める時間は無いに等しい。
アサシンが来たと言うのに、久しぶりに穏やかな気持ちになれているのかとても楽しそうだった。
「わかりました。あなたが大丈夫とおっしゃるのなら、それを信じます。」
「ああ。一応、しばらくは護衛という名目で彼女についてくれ。何か不審なところがあったら、その都度報告しろ。」
「承知いたしました。我が主よ。」
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