2.あれ、いつのまにか話が進んで…
「…け、結婚?」
「そうだ。」
「私が、公爵様と…?」
「公爵様じゃない。私の名はアレクだ。」
どうしましょう、勝手に話が進んでしまう…!
いつのまにか私の前に跪き、手をとっている公爵様が見つめてきますけど…いや、私あなたのこと殺そうとしたんですよ!?
「アレク様!」
寝室のドアが大きな音を立てて開くと、濃紺の髪をした若い男性が駆け込んできた。
(あれ、これまずい?)
「あなたは一体…?」
静かな殺気を向けられ、体がこわばる。
あれ、でも笑っているわね…?
笑っているのに怖いとかどういうことよー!
「まあまあディーン、俺の奥さんにそんな殺気を向けないでくれ。」
「えっ妻!」
「そうだ。」
「アレク様に!?」
「うん私に。」
「寝室に呼ぶほどに仲が…?」
「そういうことだな!」
ディーン様が私と公爵様をキョロキョロと見比べる。
無理もないです。私もびっくりしてますから!
っていうか誤解を招きそうな答え方をやめていただきたい!
「あの、私は妻では…」
「確かにそうだな。まだ」
まだ…!?
今度は私がキョロキョロする番。
殺気は収まったけれど絶対に納得されないし、歓迎もされないし、私も結婚するつもりはないし…
「ありがとうございます! こんな剣にしか興味のないアレク様と結婚してくださるなんて…! あぁ、しかもこんなに美しいお方…」
あれ? 雲行きが怪しいですね…
「仕事しろと催促ばかりしてきたせいで、アレク様は全く恋愛経験もなければ興味もなくなってしまわれて… 私としても後悔していたのですが! ほんっとうにありがとうございます! すぐにでも式をあげましょう!」
本当にどうしましょう! 今更『公爵様を殺しにきたら失敗しちゃっただけでーす!』なんて言えないっ!
「ところで、お名前を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「あっえっと、フェリシティ・スーヴェリスと申します。」
私は慌てて立ち上がり、淑女の礼をする。足の震えは、いつのまにか収まっていたようだ。
あれでも、スーヴェリス伯爵家が暗殺一家ってのは結構知れ渡っていた気が… 早速バレちゃいます!? 殺されちゃいます!?
「スーヴェリス伯爵家のご令嬢でしたか! アレク様をよろしくお願いします。」
大丈夫だったらしい。
まぁスーヴェリス伯爵家に依頼をするのなんて、『私的な恨みを持っているけど、自分の手を汚したくないプライドの塊』か『武力を持たないけど殺したい相手がいる凶暴な子犬』のどちらかにですものね…
この公爵家はどちらにも当てはまらないから知らないか…
「ということでディーン、フェリシティの部屋の準備を頼む。」
「了解です!」
ディーンさんがほぼスキップのような走り方で部屋を出る。
殺されなくてよかったわ… いや、良くない!?
流れに乗せられて、いつのまにか止めてもらうことになっちゃっているじゃない!
「あの、公爵様?」
「アレクだ。」
…
「アレク様? あの、私あなたを殺しにきたアサシンですよ? 結婚するわけにはいかないのでは…?」
「私は君に殺されるほど弱くないから問題ないし、契約上で構わないから早急に結婚する必要があるのだ。それに、どうせ君は人を殺せないだろ?」
「…で、できますよ! 公…アレク様は殺せないと思ってますけど…」
「いや、無理だな! できても気絶させるくらいだろう?」
ギクゥッ! その通りです…!
私は人を殺せないから、せめて役に立てるようにと、人体を隅から隅まで勉強した。
だから急所は全て頭に入っているのだ。
「ギクって顔をしたな?」
「はい… その通り、私には気絶させるので精一杯でございます…」
まさか一度も攻撃をしていないのに見破られてしまうなんて…!
相手の得意分野を見極めるコツがあるのかしら?
─────家には帰りたくないし、アレク様にも結婚が必要な事情があるのなら、それを利用して見極める方法を教えてもらえるのでは!?
何それ知りたい! ワクワクするわ!
「アレク様に結婚が必要な事情がおありなのでしたら、必要な期間だけ結婚いたします。私には帰る家もありませんので、ありがたくお受けさせていただきますわ…」
「よろしい。そろそろディーンが呼びに来る時間だろうから詳しい話は明日にするが、これからよろしく頼む。フェリシティ」
「こちらこそよろしくお願い致しますわ。ただし時間が空いた時に、先ほどの得意分野を見極める方法を教えていただきたいです。」
「えっ、それは私の勘だから無理だな… 教えられるものなら教えるが。」
えぇーっと、私のワクワクが一瞬にして無くなりました…
けど、アレク様は他にも色々と隠していそうですし、それを教えてもらえるらしいのは嬉しいですね!
「フェリシティ様、お部屋の準備が整いましたので、ご案内いたします。」
ディーン様が呼びにきてくださいました。
もしやさっきの、『そろそろディーンが呼びに来る時間』っていうのも勘!?
勘でわかってしまうなんて羨ましい!
「それでは、ディーン様が呼びに来る時間というのも勘ですか?」
「いや、あれは気配をよんだだけだ」
私もある程度は気配読めるし、あの時のディーン様は結構距離離れていたと思うのだけれど…
どれだけの訓練を積んだのかしら? アサシン修行の一貫として、ぜひ教えて欲しいわ!
フェリシティは切り替えが早いのである。
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