欲しがり妹として追放された後の話
☆☆☆王都
♩ポロン♩ポロン♩
王都を揺るがした格差姉妹~、オリビー嬢は齢14歳で、学園で学ぶ公式が既に全て頭に入っている秀才で~
♩ポロン♩ポロン♩
我が儘妹、メリーは、いつも、メイドとおしゃべり。姉のものを欲しがり。父母もとがめない~
・・・・・・・
やがて、欲しがりが過ぎ。評判を聞きつけた大公殿下のご子息は、オリビー様を救い出す。
自ら、婚約者を名乗り出た。
伯爵夫妻は、領地に引退。妹は、修道院に追放された。
「って、吟遊詩人が演目でやっていたよ。微妙に名前が違うけど、スー商会、スー伯爵家の話よね?」
「ああ、そうだろうね」
「あんた。元貴族だろ?何か知っている?教えて、スー商会と取引が殺到するよ。うちも乗り遅れちゃいけない」
「やめておけ。リリー、流行に乗るのは悪いクセだ。それよりも、どうしても、いくなら、スー伯爵の領地だ」
「何故?」
俺は、元貴族だ。おそらく、姉は、伯爵の跡を継ぐには相応しくなかったんだ。
「でも、難しい公式を覚えているって、評判だよ」
それが、おかしい。難しい公式を覚えているなんて、貴族じゃ、何の価値もない。
学園やアカデミーに行けば、鰯の群れのごとくいる。
幼い頃に、先取り学習をして秀才だったは、大抵、歳を取れば、普通の学生になるね。
王族や、高位貴族は、入学前に座学は終わらせて、後は、社交や人付き合いを学ぶのだ。
そのための先取り学習だ。
馬鹿王子だって、最低、卒業式にはいるだろ?
多分、姉は頑張り屋さんで、一生懸命に勉強はしていたのではないか?
それは、それで、すごいけど。
人事の世界では、頑張り屋は、視野が狭い。落ち着きの無さは、社交的と、有能が無能、無能が有能と、職分によって、入れ替わる。
「つまり、伯爵は、本能で、伯爵家の総領娘に相応しいのは、妹のメアリーだと判断した。それで、総領娘に相応しいドレスやアクセサリーを集中したのさ」
「じゃあ、大公家は?」
王子を、次々に、大公家にしたら、三代で王国が潰れる。
おそらく、一代限りで、無駄に権威は高い。
子息が、婿入り出来る貴族の家を探して、スー伯爵家を適当とみて、強権を発動したのではないか?
美点を欠点に、欠点を美点に、入れ替えて、大げさに告発をした。
伯爵夫妻も、無能ではない。だから、領地経営に専念するように配置された。
「じゃあ。欲しがり妹が、修道院に行ったのは?」
女伯爵か、指導者としての才があると見たのだろう。だから、力を発揮しない場に追放した。
才は、田舎の社交界でもあっという間に評判になる。返り咲いたら、厄介だからな。
大公子は、分かっている。ライバルは早めに追い落とす。貴族社会では良くあることさ。
この処置は、有能な倉庫の番人を、商会長に、有能な商会長を、倉庫の番人にした措置だ。
「フ~ン、そう言えば、あんたも・・・ごめん」
「俺は、有能じゃない。外でも暮らしていけるから、弟に、婚約者ごと譲ったのだ。文官だから、逆に、毎日、同じ事をする能力が必要になる。俺には、なかったね。
こうして、おしゃべりをしながら、仕事をする方が、性にあっている。
でだ。リリー、今夜どうだ?」
「はあ?バーカ!やっぱ、もっともらしいことを言ってふざけている。スー商会に行くよ」
「ふざけてねえよ!」
・・・・・
俺は、興味を持った。伝手をたどり。欲しがり妹を探し出した。
北の修道院ではないだろう。
10歳、名はメアリーと言う。
しかし、すぐに、分かった。
有能はすぐに、痕跡を残す。
有名な詩人が、王宮から姿を消し。
地方で農民をしていたが、不正領主を告発した。
その文書が、あまりにも、理路整然としているから、陛下はすぐに分かったそうだ。
そう、この場合、追放先で楽しめているかだ。
☆王都第18修道院
ザワザワザワ~~~
「ここの幼女の懺悔は良く当たるよ」
「順番だよ!順番!」
懺悔?当たる?悩み相談をしているのか?
老シスターが、列の整理をやっている。
これは、待った方が無難か。
皆、使用人階級というところか。
並んでいる最中に、話を聞いた。
「あ、何か、公爵家の使用人の悩みを解決したとか評判だよ」
「どのような悩みで?」
「それは、家中のことだから、皆、口をつぐんでいるよ。ただ、お嬢様と使用人が仲直りしたって」
「なるほど・・」
これは、具体性はないが、信憑性がある。
「次の方なの~~」
俺の番だ。懺悔室に入った。
「若い。もしかして、幼女の方ですか?」
「そーなの!懺悔するの~」
ドサ!
「すごいの~、金貨なの~!」
・・・ほお、素直に喜ぶか。
「懺悔です。実は、私は、冒険者のクランのリーダーです。
どちらの人材を採用しようか迷っています。
一方は、教育を受けていない馬鹿ですが、働き者です。一生懸命に働きます。
もう、一方は、これまた文字も知らない馬鹿ですが、言われたことしかやりません。
どちらを採用するべきでしょうか?」
「最後の方なの~!」
・・・ほお、即答か。軍学も修めているのか?馬鹿な働き者は、殺せってある。
「何故でございましょうか?」
「クランなら、大人数なの。冒険者なら臨機応変を求められるの~
そんな人材は稀なの~、なら、言われた事しかやらない怠け者は、リーダーの近くにおいておけば、間違った行動しても、すぐに修正が効くの~言われたことをやるからなの~
働き者の馬鹿は、自分の狭い考えで、いろんなことをやるから、厄介なの~」
ほお、自分の考えで述べている。
「シスター様、それは、どこで、得た知識ですか?」
「フヌー!お家にあった本を読んだの~!使用人のマネジメント関係の本なの~、使用人たちと、おしゃべりしながら、観察したの~」
「アハ、なるほど・・・」
「悔い改めるの~~!」
「ハハー!」
帰り際。釣り目の令嬢とメイドのコンビを見た。
私服の護衛騎士が数人いるな。
服は、平民のドレスだが、明らかに、お忍び用の高級品だ。
公爵令嬢か?
「何か用かしら?」
「いえ、うっとりしちまって、申し訳ございません!」
・・・・・・・・
また、商人のリリーと話す機会があった。
「スー商会と取引したけど、大変だったよ。何て言うか、型どおりで、臨機応変がきかないっていうか。役所と取引している感じだった。
こっちは、客なのに、『書式に則って下さい!』とか言われたよ」
「そうか・・・」
「一方、領地に行った方は、普通と言っているよ。中年の財産管理人補佐の夫婦が、のんきにやっているって」
財産管理人補佐は、元伯爵夫妻だな。
これは、小さいが、商売としては、致命的だ。定食屋のテーブルにソースがあるかないか。
そんな差で、売り上げが変わるときがある。
俺の勘が正しければ、公爵家が取り込む感じか?
「まあ、俺にとっては、どうでもいいけどね」
後に、妹メアリーは、公爵家に養子に行くことになり。義妹メアリーとして、社交界に復帰することになる。
今度は、義妹だ。
最後までお読み頂き有難うございました。