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俺と僕と彼(と)

作者: 傀儡の傀儡

感想を頂ければ幸いです。

「逃げたね」


「逃げたな」


 二人は、ある一つの事象に関して述べられている事実の中で、双方が最も信頼するものを確認し合った。


「僕が思うに、彼は逃げてはいけなかった」


「どうして?」


 一人が、単純に疑問を持って問う。


「彼は、頸を落とされなければいけなかったんだ」


「どうして」


 一人が、今度は怒気を孕んで問う。


「それは、彼の仕事だからだ」


「彼は、最初から死ぬために仕事を始めたのか?」


「いや、違う。彼は、僕らに対して責任を持っていたんだ。だから、結果として彼は死ななければならなくなった」


「そんな馬鹿な話があってたまるもんか。どの仕事に就くかによって死ぬか死なないか決まる、なんてことがあったら、誰も死ぬ仕事に就きたがらないじゃないか」


「彼には、死ぬかもしれなかったとしても求めた何かがあったんだよ」


 もう一人はこの問答の必要性を最初から感じていないかのように話した。


「俺には、その話を信じることができない」


「どうして?」


  もう一人が、初めて興味のようなものを示した。


「彼がもし本当に責任を持っていたなら、彼はその求めた何かより、責任を果たすことを優先するはずだ。だから、責任を果たせなかったから死ぬことはあり得ない。

彼がもし責任を持っていなかったとしたら、頸を落とされる必要など、最初からないはずだ」


 もう一人は、いよいよ乗り気になって話し始めた。


「優先したからといって必ずしも責任が果たせるとは限らないだろう。そして、『最初から責任を持っていなかった』ということこそ、あり得ない。あってはならない。もしそうなら、彼は立派なペテン師だ」


「彼に責任を投げつけたのは俺だ。俺が投げつけた中の一人だ。だから、彼が頸を落とされる時は、俺も落とされるべきだ」


「可哀想に。君は被害者だ。彼に騙されたんだ。そこまで気負う必要はない」


 一人は、頭を抱えながら言う。


「俺が責任を投げつける前、彼はまだ責任を持ってはいなかった。そして、彼に責任が投げつけられた後、責任は確かに彼の顔面から剥がれ落ちて、前に差し出された二本の腕の上に落ちたんだ。どうして、俺がこの因果に関わっていないと言えるんだ!」


 もう一人は、大手を広げて言う。


「君は、僕たちの中の一部だ。投げつけたのは、僕たち全員がやったんだ。どうやら君は、君自身が彼に渡した責任が果たされていないことに、罪悪感を持っているようだね。それは見当違いさ。彼の責任を果たすのに必要なのは、人の命一つだ。彼はその責任を一人で占有してしまった。だから、彼は死ななければならない。それに対して、僕らはどうだ? 人一人分の責任を、何百万もの人々で分けてしまっている。だから、僕たちは死ななくてもいいのさ。0.000001人分以下の責任のために、何かをするなんてことは無理だ。だから、僕たちは何かをする必要さえないのさ」


 一人は、それまで座っていた椅子から突然立ち上がった。


「いつ、俺が罪悪感なんて抱いたと言った! 俺はまだ、彼が責任を果たしている途中だと信じているというのに!」


「馬鹿を言うなよ。彼は逃げたんだ! 僕らはそれを認めたんだ! これ以外のことが事実の認定に必要だというなら、一体全体僕らは、誰を逃げていると言えばいいんだ!」


「逃げた逃げていない、責任を果たした果たしていないは俺が決めることじゃない。結果から決まるんだ」


「結果は既に決まっている。彼は僕らの場所から逃げた。僕らは口々に、彼は逃げたと言い合っている。この結果が揺るぎない判断材料だ」


「一見状況がこれ以上動きようがないように感じられたとしても、いともたやすくそれはひっくり返り得る」


 もう一人は、机の上で頬杖を突いて言う。


「分かった。分かった分かった。分かったとも。分かったさ。

 君は、今も彼のことを信じているようだ。そのことは理解した。共通認識だ。

 でも、君は結局彼のことを信じたいだけなんじゃないか?」


「どういう意味だ?」


「君は、彼が果たさなかった責任が自分の所まで戻ってくるのが怖いだけだ。だから、君は彼がまだ責任を固持していると信じざるを得ない。でも安心しなよ。君が果たさないといけない責任は百万分の一以下だから、君はもう彼を見捨てても大した損害は追わない」


「俺はいつだって責任を負う覚悟がある。それも、一人分のだ。そもそも、俺は責任をそう簡単に分割できるとは考えていない。俺は、俺一人として彼を選んだんだ。そこに俺以外の他人が関われるはずがない。だから、俺は一人分の責任を負うべきだ。一人分の責任を負うために、俺はもう仕事に就く準備をしている」


 もう一人はしばらく、一人を自分とは別の生き物のように見つめて、黙っていた。その後、一人はこう告げる。


「もうこの話は終わりだ。明日からはもっと楽しくいこう」


「俺にとっては、楽しかったけどな」


「それは良かった」


//////////////////////////////


 後日、一人は、もう一人が酒場で一人が集団に向かって話題を提示しているのを見つけた。曰く、


「吊るすべきか、斬り落とすべきか」


 とのことだ。一人は辟易して、もう一人を軽蔑した。


長編でファンタジーなものを8話分書いていまして、もう少し書いたら投稿する予定です。こんな抽象的なお話じゃなくて、もっとワクワクできるお話だと思っているので、乞うご期待。

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