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料理人と少年  作者: 琥珀
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料理人と少年

ようこそ、作者の厨二満載作品へ。

見つけてくださり、ありがとうございます。

 開けた窓からは朝の澄んだ空気が入り、鳥のさえずりがよく聞こえる。コンロに火を点け、水と昆布を入れた鍋をのせる。ちなみに昆布は、人間(アーナー)がよく出汁をとるのに使うらしい。あの子が口にするものだから、あちらの食材を使わないといけない。だから、あちらの食材を使う毎にこうやって知識を得るようにしている。水が沸くまでの間に食材の下処理と主菜の下味を済ませていく。

 水が沸いたところで、鍋にかつお節を追加する。かつお節が鍋の底に沈んだころで火を止めて出汁を濾す。なんだっけな、グルタミン酸とイノシン酸っていうやつが合わさって、単体で使うよりも旨味が増すらしい。よく知らない単語が出てきたが、そういうものなんだという認識でやめておこう。俺が混乱する。

 出汁ができたら、硬い順番に処理を済ませた食材を入れていく。火が通ったら調味料を入れて調節…これで汁物は完成。

 さて次は主菜だ。ボウルに卵を割り、豆乳とジャガイモのチップスを入れて混ぜる…ああ、胡椒も少し知れておこう。油を引いたフライパンに、菜箸で卵液を垂らして温度を確認。良い温度になったら一気に卵液を入れて、菜箸で軽く混ぜたりフライパンを揺すったりして火を通していく。

 あの子は、しっかり火が通っているよりも半熟が好きだと言っていたから、これくらいでいいか。柄を持って、とんとん、と卵を半月型に形成して皿にのせる。うん、いい出来だな。

 オムレツと同じ皿にサラダとベーコンものせる。あとは…と残りの作業に取りかかろうとすると、階段を降りてくる小さな足音が聞こえた。

 起きたか、タイミング的にはバッチリだ。

 別で用意していた窯の蓋を開け、つやつやの白米を三角に形成していく。そのままのと、もう一つはごま塩を混ぜたもの。小皿におにぎりをのせ、カウンターテーブルにセット。


「おはよう、ルイ。」


 住宅部となっている二階から、ウルフカットの少年が眠たそうにやって来た。


「…おはよぅ…」


 カウンターテーブルの席に座っても、眠たそうに目をこすっている。


「朝飯。今汁物入れるな。」


「…和食かと思ったら、そんなことなかった…」


「お前らの食文化って複雑すぎて面倒なんだよな。全部やっていられないから妥協しろ。」


「…あ、このオムレツ、ポテチ入ってるやつだ。」


「この好きそうにしてたから作った。違ったか?」


「ううん、好き。」


 へへ、と嬉しそうにする様子を見て口元が思わず緩む。ああ、かわいいなお前は。

 椀に汁物をよそいルイに差し出して、俺はハッとした。


「あぶねぇ、仕上げ忘れてた。」


 ちょっと待ってな、と言って棚から白ごまを取り出す。ぱらぱらとふりかけ、最後に一滴…とびきりの隠し味を入れた。それはあっという間にスープに溶け、入れた痕跡は全く残らない。


「お待たせ、わかめのスープな。」


 ありがと、と言いスープを口にする。何も言わず食べ始める姿に、今日もうまくいったと満足する。


「美味いか?」


 こくんと頷き食べ続ける、何も言わない、この子が美味しさを伝える姿がそれだった。つまり無言は最高だということ、何も言わなくても表情が少しでも変わればそうでないこと、この子は分かりやすくて良い。





 *********************


「おはよう、ルイ。」


 そう僕を呼ぶ長髪の男は、リンと言った。少し前、両親を失った僕は彼に拾われた。

 まだ眠気が飛んでいない…眠すぎる…だが今朝食を食べなければ、もうじき店が開店してしまう。

 リンは人外(アサーナトス)の街で食堂を営んでいた。容姿は、ぱっと見人間と同じで人外だと言われなければ分からないほどだ。

 この世界は、人間と人外が同じ空の下で暮らしていても、交わることは決してない。そんな中で良くしてくれるリンは不思議な奴だ。

 僕たちは、互いの住む街に生息するものしか口にしない…いや、正確に言えば、人間(アーナー)人外(アサーナトス)の食べものを口にするすることができない。人外たちは、人間の食べものを口にしても平気だが、エネルギーに変換することはできない。僕はこれまで、人間側の食べものしか口にしてこなかったから、リンは人間用の食材で調理してくれる。

 人間の母と人外の父を持つ僕は混血ダブルとして生まれたことを、リンには言っていない。

 父は人外でも容姿は人間と変わらなかったため、僕の容姿も人間と見分けはつかないし、きっと彼は僕を人間だと思っている。僕について何か聞いてきても、好きな食べものは何だとか、好きな料理、色、動物など、当たり障りのないことばかりだ。

 人外の街での生活…最初こそ落ち着かなくて何度も出ていこうとしたが、そのたびに探しに来る彼の元で、結局今も過ごしている。

 どうして僕を助けてくれたのか、ここに置いてくれているのかは分からない。彼曰く父の古い知人らしいが、それだけでここまで良くしてくれるとは到底思えないが、僕も深くは聞いていない。

 お互い変に詮索しない…それが暗黙のルールになっているようだった。


「あぶねぇ、仕上げ忘れてた。」


 そう言って、リンは背中を向けて椀によそった汁物にごまを振りかける。

 僕はオムレツにケチャップをかけ口に運んだ…あ、ポテチ入ってる…これ美味いんだよなぁ…


「お待たせ、わかめのスープな。」


 白ごまがくりかけられた、わかめのスープを受け取り口に運ぶ。さすが料理人というべきか、ご飯美味しいんだよなぁ…

 無心でご飯を胃袋に収めていく…その様子をにやにやと見てくるリンは、こちらからでもわかるほど嬉しそうだった。





 *********************


 ルイが食べ終わった食器を片付けながら、食堂の床を掃除してくれている姿をチラ見する。小さい身体でせっせと掃除する姿はとても愛らしい。

 今日も綺麗に食べきってくれた…それがとても嬉しい。少しずつ使う食材も増やして、このまま彼の胃袋を掴んでいこう。……ああ、隠し味も、一滴から少しずつ増やしていかないとな。

ポテチを入れたオムレツ、実際とても美味しいので是非作ってみてください…ジャンクフードです。ポテチの入れすぎ注意です。

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