【コミカライズ】悪役令嬢だと言われて婚約を破棄されたので、隣国で魔法の研究者になろうと思います。
「カロリーナ。君との婚約を破棄する」
「かしこまりました」
公爵家の令嬢カロリーナは、久しぶりに婚約者である第二王子アンリから呼び出された。かと思えば、案内されたのは王宮の応接室。
遅れてやってきた彼は開口一番、婚約破棄を告げた。カロリーナが応じたことに気づいていないまま両腕を組み居丈高に言葉を続けた。
「反論は受け入れない。君が悪質な魔法を使ってサマンサを虐げていたのは周知の事実だ」
「これまでお世話になりました。それでは失礼いたしますわ」
「って、待て! 何故、抵抗しない。私との婚約が破棄されるということは君にとっても公爵家にとっても多大なる損失となるのだぞ!」
既に立ち上がっていたカロリーナは、笑みを隠すために扇子を広げた。
濃いめの金髪と吊り目の碧眼。顔立ちは少々きつめだと自覚しているので、それをわざと強調させる。
「わたくしと殿下だけの問題ではないということは、この婚約破棄につきましてはわたくしにできることはございません。公爵家を通じて王宮へお話をさせていただきますわ」
「傲慢な女だな! 性格のきつさがその顔に現れているぞ。魔力量が多いからといって威張りくさって、誰にも分からないように悪質な魔法を用いて悪事を繰り広げていたこと、必ずや民衆の前につまびらかにしてみせる。そうしたらお前はもうこの国にはいられないぞ。それでもいいのか」
「えぇ、かまいません」
その後もおよそ王子らしからぬ吠え方をしていたが、カロリーナは無視して王宮を出た。
見えないものは証明できない。何を言っても無駄だろう。
まともにアンリと話し合えたのがいつだったかカロリーナは覚えていない。
常に違う女性を侍らせている婚約者に愛想をつかしたのが、いつだったかも。
迎えの馬車が停まっている。というか送りの馬車をそのまま留め置いてもらっていた。
(殿下の思慮に欠ける行動は以前から問題になっていましたから、わたくしのことをいくら非難したって、誰も信じることはないでしょうね。可哀想なアンリ様)
馬車に揺られながらカロリーナは瞳を閉じた。
そして考える。今まで縛られてきた己の人生について、この瞬間だけ、いくつかの選択肢が生まれていることに。
(そうですわ。……隣国へ行きましょう!)
ぱっとおおきな瞳を開く。
(隣国は魔法大国。わたくしの魔力量も普通くらいのはず。公爵家から離れて自由に生きる――きっと、今がチャンス)
決めてしまえば心は既に隣国へ飛んでいた。
★
カロリーナの想像通り、公爵家に罰が下ることはなかった。
国王からは『なんとか考え直してくれないか』と再三引き留められたものの、カロリーナは『殿下の意志は固いようですので、わたくしからは何もできません』と断った。
また、両親からは今後の身の振り方について心配された。
「それで、これからどうするつもりなのだ?」
「あなたが殿下から婚約破棄されたことが広まった途端、婚約の申し込みが相次いでいるわよ」
カロリーナは王立学院在学中から、才女として有名だった。
卒業研究の内容は『魔法の日常利用について』。アンリを差し置き、優秀賞も獲った。
淑やかで、勤勉。さらには公爵家の令嬢でもある。
「お父様、お母様。わたくしは隣国に行きたいと思います」
「隣国だと?」
「隣国ですって?」
当然のように両親は声を上げたが、カロリーナは動じない。
「お父様とお母様の子どもに生まれたことは、わたくしの人生において一番の誇りです。しかし、もしもわたくしがこの家の人間でなければ、魔法学の研究者になりたいと考えたこともありましたの……」
言葉を区切り、両親の顔をじっと見据えた。
「お願いです。殿下との婚約が解消された今ならば、ごく自然に隣国へ身を移すことができます。わたくしの幸せを願ってくれるというのであれば、このたったひとつの我儘を許していただけませんでしょうか?」
そして、両親をなんとか説得することに成功したカロリーナは、隣国へ移ることなった。
★
父親のはからいで就職先は王立魔法学研究所に決まった。
最後まで彼は娘の隣国行きを渋っていたが、王立であれば一生安定した生活が送れると己を納得させたらしい。
カロリーナは、ビロード織の長いローブを身に纏う。
ドレスとは違いどっしりとした制服。それだけでも気分が昂揚してくる。
(いよいよ勤務初日。どんな方々が働いていらっしゃるのかしら?)
教会のような見た目の研究所。
門をくぐり衛兵に挨拶して、通されたのは事務所だ。
室内には既に誰かがカロリーナのことを待っていた。
(ローブだとカーテシーはしづらいから、会釈でいいかしら?)
「はじめまして、カロリーナ・ノルマンと申します。本日よりこちらでお世話になります」
「所長のニコラです。困ったことがあれば遠慮なく相談してください」
立ち上がって、ニコラは握手を求めてきた。
長身痩躯の男性だ。カロリーナと同じローブを羽織っているが、胸元に研究所のシンボルマークであるブローチをつけている。
髪の毛は肩にかかるかどうかくらいの長さ。髪も瞳も淡い金色をしている。
細身なのにしっかりと大きな手のひらを、カロリーナは握り返した。
「研究所で働ける日を心待ちにしておりました。よろしくお願いいたいます」
「そう言ってもらえて光栄です。地味な作業の方が多いので、飽きずに続けてもらえるとうれしく思います。今日は事務手続きだけで帰ってかまいません」
幾つかの書類に目を通しサインをする。
「越してきたばかりなのでしょう? この国は多種多様な者が住んでいます。街歩きをして、文化に触れてくるといいですよ」
カロリーナはその言葉通り、街へ繰り出すことにした。
気候や風土は元の国と似ているが、魔法国と名乗るだけあって、人間以外の種族も多い。
石畳の道を、獣人や精霊が普通に歩いている。
カロリーナにとってその事実は、聞いてはいたが実際に目にすると、衝撃的だった。
舗道の両脇には似たような煉瓦造りの商店が立ち並んでいる。
ガラス張りの窓が珍しくて店内を覗くと、耳の先が尖っている店員が見えた。
(このアクセサリーショップ、精霊が営んでいるのね!)
好奇心からカロリーナは店内へと足を踏み入れる。
ちらりと店員がカロリーナへ視線を向けてきたが、声はかけてこない。
どうやら棚や台に並べられたアクセサリーのひとつひとつに魔法付与がされているようだった。
(魔力補強のピンキーリングですって。せっかくですし、買ってみようかしら)
「すみません。こちらをくださるかしら?」
カロリーナは無愛想な店員へと声をかける。
「はい。サイズ直しは必要ですか?」
「必要ないと思いますわ。はめてみてもいいかしら」
「えぇ、どうぞ」
シンプルなイエローゴールドのピンキーリングは、右小指にぴったりなサイズだった。
「すてき。このまま貰っていくわ」
「ありがとうございます」
代金を支払って店の外へ出ると、カロリーナは右手を空に掲げた。
ピンキーリングがきらきらと光っている。
(この国で、うまくやっていけそうな気がするわ)
★
ニコラが初日に説明した通り、研究所の仕事はほとんどが地味なものだった。
魔法の解析や呪文の構築。
古代遺跡から発掘された魔導具の解析。
その日のカロリーナは、図書室で古代魔法文字の翻訳に勤しんでいた。
魔力を持っていないと古代辞書を開くこともできないが、カロリーナにとってはなんら苦ではない。
朝からずっと休まずに文字を追っていると、誰かが向かいに腰かけた。
「仕事の調子はどうですか」
「所長!」
カロリーナは顔を上げて上司を見た。
「おかげさまで、毎日すごく楽しいですわ」
「それを聞いて安心しました。元々、カロリーナさんは公爵家の方だと聞いていましたから、このような作業は苦になるのではと心配していたんです」
「とんでもないです。わたくしは、元々このような地道な作業をしたかったんです。王子殿下の婚約者となった際にその夢は完全に断たれたと思っていたので、今ここにいられること自体が幸せです」
目つきがきついと罵ってくる婚約者。
公爵令嬢として常につきまとう周囲の評価。
いろいろなしがらみから解放されたカロリーナは、肩の荷が下りたように穏やかな日々を送れていた。
「因みに、そのピンキーリングはどうしたんですか?」
「これのことでしょうか? この国に来て初めて購入しましたの。精霊が営んでいるお店だったので、つい惹かれて。魔力補強の効果があるそうなので、仕事の助けにもなると考えました」
「似合っていますよ。相性がいいんでしょうね」
ありがとうございます、とカロリーナははにかむ。
「仕事について、派手な内容を期待してはいませんでしたか?」
「派手とは?」
「爆発の威力を増した火炎魔法を創生したいとか……どんな状態異常も一瞬で解消できる浄化魔法を探したいとか……」
ふふっ、とカロリーナはやわらかな笑みを浮かべた。
魔法国は魔法の研究を輸出もしている。
中には他国同士で争いに使われることもあるという。あまり想像したくはないが、魔法によって故意に奪われる命だってあるのだ。
「わたくしは生活に根差した魔法がもっと広まればいいと考えていますわ」
「では今度、一緒に出張へ行きませんか?」
「出張ですか」
「国境の近くの痩せた土地で、魔法だけで野菜を育てる実験をしています。これがうまくいけばどんな場所でも食べ物に困ることはなくなるでしょう。この十年ほどメインで取り組んできた研究です」
カロリーナは、是非、と二つ返事で承諾した。
★
カロリーナとニコラは、一日かけて目的地へ辿り着いた。
悪路は馬車酔いを引き起こすほど。
山々に囲まれて空気は乾燥しているし、空は厚い雲に覆われている。聞くと、通年このような気候なのだという。
「今日はもう遅いですから、宿舎でゆっくりと休んでください」
「分かりました。お疲れさまです」
青い顔でカロリーナは上司に挨拶してひとりで宿舎へ向かった。
硬いベッドの横に荷物を置く。
少し休んだら散歩してみようと決めて、カロリーナは横になる。
今の自分は、かつて想像もつかなかった場所に来ている。
あのまま国に残っていたら、衣食住、なにも欠けることなく暮らせていたのかもしれない。しかし、今の方が楽しいという確かな想いがあった。
馬車酔いから回復してきたところで、カロリーナは部屋の外へ出た。
木造二階建ての宿舎の廊下からは広大な畑が見渡せる。
(ここでいろんな実験をしているのね。……あれは、所長かしら?)
畑の奥に長身の男性が立っているのが見えた。
服装からニコラだと判断する。
ニコラは両腕を畑へ向かって突き出した――次の瞬間、ぶわぁっと畑に風が舞い上がり、作物が空中に浮きあがった。
「まぁ!」
カロリーナは思わず快哉を上げた。
(所長というだけあって、きっと、すごく魔力量が多い方なんだわ……)
そして、日々の業務に集中していて、ニコラについては何も知らないのだと気づく。
他の職員とも日常会話くらいはするが、お互いのことは深く尋ねたことがない。
カロリーナは宿舎から出て、畑へと駆けて行った。
「所長!」
「カロリーナさん。休んでくださいと言ったでしょう」
「少し横になったらよくなりましたわ。それよりも、今、どんな魔法を使われたんですか?」
ニコラが目を見開いた。
どうやらカロリーナに見られているとは思いもしなかったようだ。
足元のかごにたくさん積まれた野菜を指差す。
「見た通り、野菜を一度に収穫する魔法です」
「あんなに広範囲へ効果のある魔法、見たことも聞いたこともありませんでした。本当にすばらしいですわ」
「いやいや、そんな目を輝かせて褒めていただくことではないですよ」
ニコラが困ったような表情に変わる。
それでもカロリーナは引き下がらない。
「所長はすごいです。わたくしもそういう魔法使いになりたかったんです」
「カロリーナさん……」
その夜は、ニコラが収穫した野菜たちが食卓に並んだ。
翌朝は早い時間から畑に関する魔法の勉強。
カロリーナもローブから作業着に着替えて、畑へと足を踏み入れた。
(お父さまが見たらびっくりして倒れてしまうかもしれないわ)
カロリーナはくすりと笑みを零した。
土を耕し、養分を隅々まで与える。適切な量の水を撒く。害となる雑草や虫を駆除する。
それらをすべて魔法でシステム化しようとしている、とニコラは説明した。
「わたくしも何か力になれたらいいのですが」
「カロリーナさんはこれからでしょう。何かいい案が生まれたら、遠慮せずに教えてくださいね」
★
出張から戻ってきたカロリーナは、さらに仕事に打ち込んだ。
それだけではなく同僚とも交流を図るように努めて、休日は共にカフェ巡りなどを楽しむようになった。
一方で、ニコラと顔を合わせる機会は減っていた。
(元々、所長はお忙しいですものね……)
カロリーナのなかに生まれた、ほんの少しの寂しさ。
気がつくとニコラを目で追うようになっていた。
すれ違うときに会釈するだけで、何故だかうれしい。
「カロリーナさん」
「はっ、はい?」
だからこそニコラから急に話しかけられて、カロリーナは固まってしまった。
「最近、解析をすごくがんばっていると聞いていますよ」
「あ……ありがとう……ございます……」
俯いたままカロリーナはなんとか声を絞り出した。
(どうしましょう。所長と目を合わせられません。心臓の音が大きくて)
「歓迎会をしていなかったことに気がつきまして。今度、皆で食事へ行きませんか?」
「あのっ」
カロリーナは勢いよく顔を上げた。
金色の瞳がやわらかくカロリーナを見ている。
「もしよければ、ふたりで行きませんかっ、……」
(わ、わたくしってば一体何を)
明らかな失言に赤く染まっていた顔がみるみる青ざめていく。
「いえ、忘れてください。是非歓迎会――」
「かまいませんよ。ふたりで行きましょう」
次の休みは、とニコラが言葉を続ける。
それを、カロリーナは半分上の空で聞いていた。
あっという間に約束がされ、ニコラは去って行った。
その背中をカロリーナはぼんやりと眺める。
(今分かりました。わたくしは、所長に恋をしているんですわ……)
気づいてしまうと、鼓動はどんどん速くなっていく。
★
ついに、ニコラと食事に行く日がやってきた。
仕事に手を抜く訳にはいかない。いつも以上に神経を研ぎ澄まして作業に当たる。
「なんだか今日、雰囲気が違うね?」
「そ、そうでしょうかっ」
同僚に指摘されてまごついてしまい、あやふやにごまかすカロリーナ。
そこへ別の同僚がやって来た。
「ノルマンさんに来客だよ。第一応接室で待ってる」
「……来客、ですか?」
まったく身に覚えがないまま、カロリーナは応接室の扉をノックした。
「失礼します」
「カロリーナ! 会いたかった!」
「きゃっ!?」
上座から立ち上がったのは、フードをすっぽりと被った怪しい男だった。
しかしカロリーナにはその声に聞き覚えがあった。
「……もしかして、殿下でしょうか……?」
「よく分かったな! 流石、私の婚約者だ!」
ばっとフードを外したのは、カロリーナの指摘通り、第二王子アンリだった。
どことなくやつれて目の下には隈ができている。
(婚約者、ですって?)
カロリーナは眉を顰めかけたが、こほん、と咳払いをして平静を装う。
「お久しぶりでございます。このような格好でお会いすることをどうかお許しください」
ローブを羽織っていることもあり、カーテシーも行わない。
しかしアンリは不敬と捉えないようだった。
「かまわない。今日はお前を迎えに来たんだ。本来の婚約者として」
「……はい?」
流石にカロリーナも変な声を出してしまった。
「お前と婚約を解消してから不運が続いたので、逆恨みで呪いでもかけられたかと思っていたんだ」
アンリは神妙そうな面持ちで続ける。
「しかし、神殿で調べてもらったところ、その逆だったんだ!」
「逆、とは?」
「お前の魔力は普段から少しずつ漏出していたらしく、それが加護となって私を守ってくれていたそうなんだ。お前が傍にいないと私は不慮の事故で命を落としてしまうかもしれないと神殿から言われた。ありがたく思うがいい。この私が直々に迎えに来てやったのだから、コムン王国へ戻ろう」
(信じられないくらい失礼な御方ですこと。いえ、前々から知ってはいましたが)
カロリーナはこめかみをおさえた。
「お断りいたしますわ」
「そうか、ただちに戻ってくれるか! ……え?」
「お断りしますと申し上げたのです。殿下。恐れ入りますが、わたくしはマギアの王立魔法研究所の立派な職員です。ここを離れる訳にはいきません」
婚約破棄されたときと同じ、毅然とした態度。
「研究所の職員だと? そんなもの、何になるというんだ。私と結婚した方が、一生安泰に暮らせるぞ」
「殿下とは結婚いたしません。王族たるもの、一度なさった決断を翻すことはおやめください」
「……このっ、生意気な女め!」
アンリは右腕を振り上げた。
「っ!」
反射的にカロリーナは瞳を閉じる。
しかし、どこもぶたれたりはしなかった。
恐る恐る目を開けたカロリーナとアンリの間には、ニコラが立っていた。
「しょ、所長」
ニコラは微笑みながらアンリの腕をしっかりと掴んでいた。
「自分より立場の弱い者へ手をあげるなんて感心しませんね」
(いつも通りのようでいて、声が、声が冷たいです……!)
思わずカロリーナまで背筋を正す。
「こいつは私の婚約者なんだ。どうしたって私の自由だろう」
「しかし、彼女は否定していましたよ?」
「何だと」
ニコラはアンリから手を離すと、カロリーナの横に立った。
「僕と彼女はお付き合いさせていただいています」
「……っ!?」
弾かれるようにカロリーナはニコラを見上げた。
すると視線が合い、ニコラは片目を瞑ってくる。『黙っていなさい』という意味なのだろう。
「なので、どうかお引き取りください。アンリ殿下」
「何故私の名前を……」
「申し遅れました。僕はニコラ・シルフィード。風の名を受け継ぐ精霊一族の長であり、ここの所長を務めています」
(せ、精霊、ですって!?)
驚いたのはカロリーナもである。
「もしあなたが彼女へ危害を加えるようでしたら、精霊王の名において、コムン王国に天罰が下ることでしょう。それでも無理やり連れて帰ろうとなさいますか」
「くっ……!」
流石にアンリも慄いたようで、フードを深く被り直す。
「必ず迎えに来るからな!」
そして叫ぶようにして言い残すと逃げるように去って行った。
「やれやれ。行ったようですね」
「……」
カロリーナは言葉を紡ごうとするが、うまく唇が動かない。
代わりに頭を下げてきたのはニコラだった。
「勝手に恋人宣言をしてしまってすみません。そうでもなければ、殿下は引かなかったでしょうから」
「い、いえ。こちらこそ助けてくださってありがとうございました……それよりも……」
(精霊だから、畑全体に効果がある魔法を使えたのね)
カロリーナの意図をニコラも汲んだようだった。
「精霊だと隠してはいないのですが、敢えて公言はしておらず」
「そうでしたか……」
「怖いと思いましたか?」
「いいえ!」
あまりにも全力で否定したので、ニコラは一瞬面食らったようだった。
「所長がわたくしにとって憧れであることに変わりはございません。精霊であろうが人間であろうが、もっと所長のことを知りたいと思っています」
「それは、つまり」
ニコラが口元を左手で覆った。
「先に殿下へ宣言してしまいましたが、事実にしてしまってもよいと?」
「……!」
(どうしましょう。こういうときは、どう答えれば正解なのかしら?)
散々迷った末に、カロリーナは頭を下げた。
「……お手柔らかにお願いいたします」
「よかったです。嫌われたらどうしようと思いましたが安心しました」
「嫌うだなんて、そんな!」
するとニコラは、カロリーナへ近づき、甘い声で耳打ちした。
「僕はあなたが好きです。今日の歓迎会、楽しみにしていますね」
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