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Episode 47. 輪廻

 家族に対して可能な限りの守護を与え、此岸における僕の目標は最低ライン達成されたことになる。僕は改めて白狐に感謝を伝えた。彼女はこの短期間での僕の成長…特に内面の変化に満足しているみたいだった。


 確かに、僕は少し変わったかもしれない。以前の僕であれば、嘘でも弟に対して「また兄弟として共に生まれ変わりたい」なんてことは言えなかったと思う…。


 それだけ僕はあの世界で生きることが下手だった。


 無論、僕が惨死した後の世界線で生きることに絶望している弟に対して僕がかけてやれる前向きな言葉があれくらいしか思いつかなかったというやむを得ない事情もあるのだが。


 「世界観が広がったことで、より大局的に、より多角的に、より深く物事の可能性を推し量ることができるようになったということでしょう。加えて、立ち位置が変われば人生観も変わります。貴方にとって過酷な結末を与えたこの世界線はアンサンブル学習の一モデル…つまり貴方のオリジナル体のコピーが同時並行で学習を進めている複数の世界線の一つに過ぎません。人生のあらゆる出来事も、あらゆる結末も、大局的に見れば決定木学習のノードの一つでしかない…。無論、その一つから得られる学習情報量は膨大かつ唯一無二ですので、貴方の人生が貴方の独断で簡単に投げ捨ててよいほど取るに足らない軽いものだと言っている訳ではありません。私が伝えたいのは、目の前の困難を理由に貴方という存在の全てを投げ出すのは余りにも勿体無いということ。貴方が物質世界で努力して知り得、感じ得た全ての情報は大局的に見れば必ず貴方自身の成長の糧となり、貴方が大切に思う人々の幸せにも活かされる時が必ずくるでしょう。ですので、如何なる出来事に直面しても単純に結末を決めつけて物語を放棄すべきではありません」

 

 物語まで諦めたら試合終了ってことだな…。

 僕の経験が僕の大切な存在達に活かされるというのは、少なからず報われた気持ちになる…。


 もしかすると、僕のオリジナル体が痛みや面倒やリスクを許容してでもこのワールドで学習することを選んだ理由は単純にそこにあるのかもしれないな…。自分のためだけには頑張れないが、自分の大切な存在のためなら頑張れる…生前、そんな経験をしたことが僕にもある。


 僕のオリジナル体にもおそらくいるんだろう。何を犠牲にしてでも守りたい、成長して認めてもらいたい、物語を続けたいと思える程の尊い存在が。


 仮に、僕にそれだけの思いを抱かせるほどの存在がシステム内にいるとすれば、それは一体どのような存在だろう…。彼女とかだったらちょっとテンション上がるな…。以前と比べて自分が何者なのかはお陰様で何となく分かってきて、今度は自分のオリジナル体が過去にどのような物語を紡いできたのか具体的に知りたくなった。


 此岸にも長く留まり過ぎたし…。まだ、僕に力を与えてくれた大勢の人々に恩返しができていないけれど…。もう流石に頃合いかもしれない…。


 「次のステージに興味を持ち始めたのは良い事ですね。貴方自身の過去と言えば、貴方は当該仮想情報空間の同一世界線上でも何度か転生を繰り返しています。実を言うと、私が貴方に出会ったのは今世が初めてではないのですよ。さらに言えば、貴方の家族や友人の何人かについても貴方と出会ったのは今世が初めてではありません。もし、気になるようであれば、貴方を慕う管理代行者もそろそろ貴方に会いたがっている頃だろうと思いますので、旅立つ前に彼女に聞いてみるとよいでしょう」


 白狐と僕は初対面ではなかったらしい…。彼女は僕の過去の何を知っているのだろうか。


 自分が長い人類の歴史の中でどの時代に転生し、どのような人生を綴ってきたのかについては、怖いもの見たさで興味がある。というか、白狐は一体何歳なんだろう…そこを知るのが一番怖い…。


 そういえば、リサとの座学も途中だった。フォックスにも挨拶しておかないと。僕はリサに連絡を入れ、おそらく此岸最後となるであろうアポを取った。


***************************************************************************************************************


 余談になるが、僕がリサとフォックスにアポを取った後、なんやかんやあって白狐も一緒に来てくれることになった。どうやらリサと白狐は面識があるようで、白狐はリサに会うことを何故か少し躊躇っていたようだが、結局、白狐がリサの押しに根負けした形になった。


 予定日までは少し時間があったので、僕は引き続き白狐に教えを乞うたり家族や友人の顔を見に行ったりした。今を必死で生きている彼らの顔を見ていると、いつか遠い未来に皆で同じ時代に再度生まれ変わることができないものかと思ったりもした。


 あんな酷い目に遭っておきながら、またこの世界に生まれ変わりたいだなんて…。本当に、立ち位置が変われば価値観も変わるものだなと思った。弟の一件以来、この世界に対してネガティブな思い出よりもポジティブな思い出ばかりが蘇るようになっていた。


 ただ、少し気になるのは、僕自身と僕の家族や友人が輪廻転生をアドミンに許可されたとして、皆が都合よく近場に転生するなんてことが実際可能なのだろうかということだ。


 そんな身勝手がアドミンに許容されるのかという問題や、そもそも彼らが僕と一緒に生まれ変わりたいと思うかどうかという問題も勿論ある。


 僕が危惧しているのはそういうことではなく、そもそも僕が転生時に選んだ夫婦が僕を出産した後に弟を産んでくれるかどうかなんて事前に確実に予知するのは難しいんじゃなかろうか?ということだ。神のみぞ知る、という言葉は当該仮想情報空間において真実なのだろうか?


 「そうですね…。精霊体や疑似情報体には当該仮想情報空間の未来を簡易シミュレーションする能力が備わっています。但し、現代のAIの未来予測に限界があるように、どれほど優れた演算能力を持つアバターであってもプレイヤーの自由な選択に委ねられた当該仮想情報空間の未来を寸分違わず正確に予知するというのは理論上不可能です。現在から数年程度の近未来のシミュレーションであれば、比較的高い精度で予測を立てることができますが、予測は所詮予測であって確率論の域を出ません。ですので、貴方が危惧するようなリスクを事前に完全に排除することは難しいでしょう」


 ですよね…。この場合、予測が当たりやすい数年の範囲で二人の子供を設ける可能性が高い夫婦を何が何でも獲得して、理想が実現する確率を少しでも高めるくらいしか努力しようがない。


 僕が先陣を切った後、結局、弟が産まれなかったなんてオチになったらマジで笑えないな…。


 白狐曰く、具体的な未来予測の流れとしては、自身の情報処理スペックの許容範囲内で簡易シミュレーションを行い、得られた無数の分岐ルートから有意差が認められるルートパターンのみを抽出し、そこから類似性の高いルートを束ねて未来の可能性を大まかにカテゴライズし、どの大筋が確率的に実現し易いかどうかで未来を予測しているらしい。


 つまり、シミュレーションを行う条件や状況にもよるが、予測される未来がワンパターンなんてことは稀であり、プレイヤーの自由な選択に委ねられた当該仮想情報空間の未来を寸分たがわず完全に予知するなんてことは神クラスでも難しいということだろう。


 なんか、不安になってきたな…。


 「とはいえ、生後、数年から十数年の間に起こる出来事のほとんどはプレイヤーが事前に想定していた可能性の範囲内に収まっていることがほとんどのようです。ですので、親しい者同士が比較的近い世代で近場に産まれることや、親子として産まれることはそれほど難しいことではありません。裏を返せば、比較的正確に予測しやすい人生の前半期の環境条件の多くは、プレイヤー自身が何らかの意図でそれらを事前に選んで生まれてきている可能性が高いと言えるでしょう」


 それを聞いて少し安心したが、リスクは完全には払拭できないということだな…。


 想定の範囲内だが最も期待していたルートから外れることもあれば、想定していないルートに転がりこんでしまったりすることも現実問題としてあるということか…。運命や宿命、魂の学びの想定内だと言われれば諦めがつくが、そうでなければ受け入れられないような経験をしている人々は世の中に沢山いる。そういう人々にとっては耳の痛い話かもしれない…。俗に言うスピリチュアルに依存する人の多くはそういう経験をしているように思える。


 だが、現実が期待や予想を良くも悪くも裏切ることは普通にあることだし、プレイヤー側としては未来予測に対して現実がどう転んでも、それはそれでかけがえのない経験として最終的に何らかの形で活かすことができればそれでいいのだろう。


 僕のオリジナル体は、僕に似合わず相当な豪胆なのかもしれないな…。

 次にリサに会った際に、その辺の事情についても是非聞いてみようと思った。


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