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Episode 44. 霊視

 僕自身のセキュリティ対策がある程度整った後の件になる。先の約束のとおり、今度は家族のセキュリティ対策に関して白狐の教えを乞う流れとなった。


 心身の健康状態が落ち込んでいる人間は、肉体アバターの免疫機能の低下に同調して情報セキュリティ機能も低下し、此岸に蔓延る情報生命体のカモになりやすいという…。


 僕の身勝手な願望に白狐をつきあわせることには罪悪感を感じたが、このまま家族を放置して成仏することの方が僕にとっては耐え難かった。


 今の僕にできることは全てやってから逝きたい…。


 反面、今の僕は非力であり、鬼が出るか蛇が出るか分からない現状においては、白狐のサポートが不可欠だった。そして、案の定、家族に関するセキュリティ問題は、前例としての僕個人のセキュリティ対策とはまた大きく異なり、様々な要素が複雑に絡み合う難局となった。

 

 毎度のことながら多少複雑な話になるのだが、以下、なるべく噛み砕きながら順を追って整理していこうと思う。


 先ず、大前提として、肉体アバターや疑似情報体アバターに害を成す情報生命体の多くは、ステルス状態をデフォルトのセキュリティ対策と位置付けており、指定の条件に当てはまらないプレイヤーに対して自らの位置情報や形態情報を検知され難くする種々のプログラムを常時展開している。


 故に、これらのフィルターを搔い潜って相手を検知できなければ、そもそも家族に関する問題の可否を自力で判断できず、セキュリティ対策の効果も自力で評価できないという。


 まぁ…確かに…。

 今更だが、言われてみればもっともだと思った。


 聞くところによると、僕自身のケースでは、死後初期の段階において様々な情報生命体に感染していたであろう形跡が見られるらしいのだが、フォックスやリサといった強者による監視、リサに連れられて参拝した神社で賜った御守りの効果等々により、幸いにも悪い虫が寄り付き難く離れていきやすい状況が作られていたのだという。


 一方、僕の家族は霊的強者による手厚い加護などは得ていない。白狐の存在が一時的に抑止力になるのではないかとも思ったのだが、白狐曰く、僕を含め一部の情報生命体以外には自分の存在を検知されないようにステルス対策を行っているらしい。つまり、僕の家族はかなり無防備な状態らしく、現時点で様々な情報生命体に感染している状態らしい。


 正直、僕は不快感を隠せなかった。

 大切な家族に害を成す存在を一掃したいという一心で殺気立った。


 白狐曰く、それは僕の家族に限ったことではなく、寧ろ情報生命体に感染していない人間の方が今時珍しいのだと言う。また、情報生命体の中にも害を成すものもいれば益を成すものもいるらしく、共生関係によっては一概に悪と断じることはできないらしい。


 そう言われて家族に目を凝らしても、残念ながら今の僕には何も検知できなかった。

 

 相手が視えないという不便…。思い返せば今に始まったことではない。死後世界に来てからというもの僕は同族をほとんど見かけていなかったが、その理由は彼らがステルス状態で潜伏していたためだったという訳か…。


 ステルス状態の敵を看破できるようになることは他衛のみならず自衛にも繋がる。結論、後学のためにも、僕自身の力で一度家族を診察できるように修行してみてはどうかという白狐の提案に僕は二つ返事で乗ることになった。

 

 ここでややこしい話になるのだが、霊を視る…つまり「霊視」という概念は当然ながら物質世界における対象物の視認とは多少勝手が異なる。


 肉体アバターでは、五感、とりわけ視覚に依存して対象物の検知が行われる。

 

 例えば、視覚による検知のプロセスでは、対象物に反射した光子を眼球内の視細胞が受容し、視細胞内で発生した電気信号パターンが大脳の視覚野に伝達され、情報処理されることで対象物が画像としてイメージ化される。同様に、音は大気分子の振動、香りは化学物質の嗅覚細胞受容体への結合シグナルを電気信号パターンに変換することで検知を可能としている。


 つまり、物質世界において対象物を検知するためには何らかの媒介を介して間接的に対象物と相互作用する必要がある訳だが、これに対して死後世界における対象物の検知のプロセスはあくまでもゲームシステム的であり、通常は素粒子のような媒介を要さない。


 仕組みとしては、プレイヤー毎に設定されている視野設定(描画設定)の表示範囲内に存在するオブジェクトの情報がソリッドステートを介してプレイヤーに直接認知されるというものだ。


 ちなみに、この場合、僕の疑似情報体アバターに備わっている眼球は単なる飾りであり、実際に僕が視ている視界は全方位360度のドーム状範囲のパノラマビューだ。表示範囲は生前と同等程度だが、目を凝らせば遠方まで千里眼のように透視ができる。


 視界距離の設定はPvPやサバイバルで重要な要素となるので、設定をいじれるなら可能な限り伸ばしたいところだが、Xのアトリエで疑似情報体アバターの動作がラグったことを考えると、自分のキャパ・動作環境に応じた設定を見出すのが正解なのだろう…。


 「ちなみに、これは私の経験上の話にもなりますが、情報負荷による動作不良は修行の過程において頻繁に起こることであり、同じ負荷を何度もかけているうちに動作不良が次第に改善されていく現象が知られています。おそらく、メモリーが不足しているプレイヤーに対して、外部アドミンがメモリーの追加割り当てを適宜行ってくれているのかもしれません。仕組みはどうあれ、個々の情報処理スペックは努力次第で成長し得るということです。がんばりましょう」 


 この人は何処まで僕を鍛えるつもりなのだろうか…。

 確かに、有り得ない話じゃない。当該仮想情報空間内では、限りあるデータ容量を効率的に割り振ることで情報処理の遅延を回避しているのかもしれない。


 さて、回りくどく背景を整理してきたがここでようやくステルスの整理に入る。


 ステルスとは、当該仮想情報空間に設けられているステータス効果の一種だそうだが、その仕組みや設定は個々のプログラム構成に応じて多岐にわたるという。


 共通項の多いパターンとしては、特定の条件を満たすプレイヤー以外には自分のアバターを非表示にするというプログラム系統で、看破の難易度に応じて大きく10段階にカテゴライズされているそうだ。


 例えば、神や神使の場合、第8位階以上のステルスプログラムが組まれていることがほとんどだそうで、通常、人間が神の存在を明確に検知することは不可能だという。相手のステルスプログラムを看破するためには、自分が情報処理レベルで相手を上回っているか、相手が設定したフィルターの条件を実装ないし偽装することによって満たせばよい。


 ちなみに、フィルターの条件設定に関してはまた後述することになるだろうが、かなり興味深い話を聞くことができた。


 なんでも、当該仮想情報空間には何らかの基準によって成熟度レベル、カルマ値、攻撃性等々の様々な数的指標が存在しており、ステルスプログラムや結界プログラム等に適用するフィルター設定に意識的・無意識的に用いられていることが多いらしい。


 例えば、自分にとって害を成し得る可能性が高い存在は結界内に入れない・ステルス効果が適用されるなど、種々の指標を組み合わせることで術者の要望を反映した実用性の高いフィルタリングが可能になる。

 

 Xのアトリエでも似たような話を聞いたが、数的指標は僕が想定する以上に様々な場所で活かされているのだろう…。自分の知らないところで様々な指標による格付け・タグ付けがされているというのは気持ちの良い話ではないが、死後、個々の個性を適切に区別して扱うための格付け・指標ということであれば致し方ないとも思う…。


 で、ステルスプログラムを看破するに当たり、僕の場合、祈りの効果も相まって情報処理能力は平均よりもかなり高い位置づけにあるらしい。つまり、サーチプログラムを適切に組むことができれば、サーチ範囲に存在する下位の情報生命体のステルスプログラムを見破って相手を可視化することができる。


 サーチで看破できない上位の情報生命体については、簡単にはステルスを看破できないため、その他のセキュリティ対策を組み合わせて対処するしかないが、そのような比較的高位の情報生命体がわざわざ人間に感染して害を成すことは稀だという。


 こうして、僕は白狐の指導の下、サーチプログラムを習得するための訓練を始めることとなったのだった…。



 蛇足になるが、巷には神が視えると豪語している人間が稀にいる。


 少なくともこの世界線においては、仮に神クラスの情報生命体が本当に視えているというのであれば、それは「自力で視ている」のではなく「相手が分かりやすい形で姿を見せてくれている」という表現が正しいだろう。


 ただし、疑似情報体アバターも精霊アバターも不定形が基本なので、神っぽい姿をしている=神と断定するのは早計だ。神のフリをした低級霊の詐欺師ということもよくあるらしいので相当の注意を要する。自力で確たる判断ができないなら、相手に踏み込むべきではないだろう。


 霊が視えるという類の人間についても同様だ。


 少なくともこの世界線においては、実際には「自力で視ている」のではなく「相手にとって都合のいいものを強制的に見せられている」というケースが圧倒的に多い。自力で霊を視ていると言える人間も中にはいるが、前者と比べると圧倒的に少数派らしい。


 後者の例としては、サーチ関連プログラムを先天的ないし後天的に獲得した結果として霊視をコントロールできるようになった者、自分の情報セキュリティ機能を自発的に低下ないし欠損させた結果として本来視えなくてよいものが見境なく視えてしまっている者などが挙げられる。


 特に、自分で検知に係る情報セキュリティ機能を弄っている者は注意が必要だ。検知に係る機能のみを器用に低下させるというのは人間にとっては難しい技術らしく、情報生命体を遊び半分で視ようとして意図せず情報セキュリティ機能全体をダウンしてしまい、情報生命体に危害を加えられてしまうようなケースも有り得る話だという。


 何より、情報生命体の多くは自分以外の何物かに検知されたことを感知する能力が備わっている。前者にせよ後者にせよ、遊び半分で不用意に相手を視ようとした結果、危険に晒される可能性があることは知っておくべきだろう。





 






 なお、蛇足になるが、巷においては霊が視える・視えないという指標でもって霊能力の有無を判断する人が多い。とりわけ、「」チャンネルを合わせるという表現で





 



 例えば、白狐のように神や神使のクラスになると第7位階以上のステルス効果がデフォルトとして発動されていることが通常であり、位階レベルが上がるほど、同列以上の存在以外にはステルスを看破することも相互作用することも通例困難となる。


 霊視においては、「チャンネルが合った」



 視界距離の設定


 


 ステルス効果を持つ

 


 ソリッドステート内部


  


 


物質世界において対象を検知するためには、媒介を


 先ず、生者に害を成す情報生命体から家族を結界術等で守る場合、


各々の家族の肉体アバターに既に複数の情報生命体が相互作用している場合、家族に対して結界を付与する前にそれらを適切に対処する必要があるのだが、それらは基本的に不可視化のプログラムをデフォルトで発動しているため検知がであるということ。第二に、検知できた対象が単純に有害な存在であるかどうかを判断することは素人目には難しい場合があるということだ。情報生命体との共生による利害関係は、寄生、片害共生、片利共生、相利共生、中立、競争など、物質世界における共生関係と同様に様々な形態が知られている。

 


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