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Episode 43. 護身術

 白狐の分霊体とともに実家に帰ってから数日間の話になる。実家について早々、僕は白狐から数々の護身術を学ぶことになった。外宮でも話したとおり、物騒な情報生命体が蔓延る此岸世界では、自分の身は早々に自分で守れるようになった方が良いとの事だった。


 白狐が僕に割ける時間・労力・優しさにも当然限りがある訳で、それらに対する十分な対価・御礼・誠意を白狐に返せる見通し無い以上、迷惑をかける期間は短いに越したことは無い。僕はもちろん了承したが、白狐が早々に僕の元を去ってしまう不安が全く無い訳ではなかった。


 生前、僕が住んでいた陽皇国は、世界的に見ても比較的治安のよい先進国として評価されていた。無論、フィクサー達によって隠蔽されていた裏の事情は部分的に知る限りでも酷いものだったが、表面上は確かに平和な国だった。そんなお花畑の中で育った僕の常識は、ここ此岸においては全く通用しないのだろう。


 白狐曰く、我が身を効果的に護るためには、相手の行動原理をある程度心得ておく必要があるとのことだった。その辺りは人間原理と大差無いようにも思えるが、勉強になる話も色々聞けたので、以前に整理した内容も含めて改めて要点を整理していこうと思う。


 先ず、此岸に生息する情報生命体が生者や死者に害を成す理由については、人間の犯罪原理と同様に多種多様なのだが、基本的には自らのアバターの原動力となるエネルギー情報を他のアバターから搾取するという目的がベースにあることが多いらしい。つまり、生活の必要性に基づく加害行為ということだ。


 物質世界と非物質世界は完全に断絶した世界ではなく、限りあるエネルギーを異なる形態で共用し合う関係にある。裏を返せば、死後世界にも人間社会に見られるような種々のエネルギー問題が存在し、そのような問題は2つの世界を横断して飛び火し得る。


 生前は意識したことが無かったが、今思うと、陽皇国の先人達は太古より目には見えない情報生命体の行動原理を弁えて対策を講じてきたのかもしれない。土地に根付いている精霊や祖先の御霊等々を祀り、祈りを捧げることでエネルギー情報を還元し、結果として目には見えない死後世界側の様々な情報生命体と共存共栄の関係を築いてきたのだろう。


 実際、物質世界の治安の悪さと此岸の治安の悪さは相関関係にあるらしく、陽皇国と重複する座標エリアの地域に関しては、それ以外の地域と比較するとまだマシな方なのだそうだ。それはつまり、陽皇国の先人達が目には見えない情報生命体を太古より惧れ敬い大切にしてきたことの賜物であり、そのような文化・風習・生き方は当該仮想情報空間全体的に見て非常に理にかなっているように思えた。


 斯く言う僕も、現状、大勢の人々の祈りによって生かされている。護身術に割けるリソースに恵まれているのもその御蔭だ。同様にして、神仏様に祈りを捧げる意味とはそういうことなのだろうと実感している。


 ちなみに、物質世界から死後世界にエネルギー情報が十分に還元されなくなれば、死後世界の情報生命体は物質世界側からエネルギーを頻繁に搾取せざるを得なくなる。とりわけ、人間霊のような霊的弱者は此岸における縄張り争いに勝てるはずもなく、セキュリティの甘い生者に憑りついてエネルギーを搾取せざるを得なくなる。


 死んだ直後から既にエネルギーがジリ貧の者や、僕のように彼岸に渡れずにエネルギーを浪費してジリ貧に陥った者は、遅かれ早かれ生者(主に身内)のアバターに潜り込んで身を守りながら宿主のエネルギーを奪い続ける寄生生活へと追い込まれる。この場合、当人の合意無きエネルギーの搾取は業となるので、当然ながら最終的には業の精算を迫られる。


 先祖供養が大事だと言われる理由はここにある。先祖供養とは先祖を現世に迷わせず、罪人にさせないために必要なものということらしい。その点については、僕の家族も例外ではなかったのだが、この話は別の機会に掘り下げることとする。


 そのような共存共栄の関係性の中で、白狐の種族は人間を相手にギブ&テイクのビジネス関係を上手く構築し、情報生命体の中でもトップクラスの影響力を得るに至ったらしい。相手から一方的に搾取するばかりで我儘や損を押し付け合うばかりの関係は廃れやすく、一線を守りギブ&テイクを互いに大切にし合う関係は繁栄し易い。どこの世界にも言えることなのだろう。


 多方面で大切にされ易い関係を築ける人は、生活や利権を脅かされ難く望みを叶え易いと言えるかもしれないな…。


 で、脱線しまくった話を本線に戻すが、今現在の僕はエネルギーリッチでありながらもセキュリティがガバガバで見るからに危なっかしい状態らしい。所有しているリソースに見合った出費をして身を守らなければ、僕の家族にも障りがあるかもしれないという。


 白狐にどうすればいいか対策を聞いたところ、手始めにアバターの周りに上級の退魔結界を張る方法を教わった。


 まず最初に、自分の内側から暖かい光が溢れ出すイメージを頭の中に鮮明に思い浮かべる。次いで、溢れ出た光を体の周りに旋回させて、バリアとして体に纏わせるようにイメージを変化させていく。最後に、結界のイメージに必要量のエネルギーを注ぎ込めば結界が固定化される…実にアバウトだがそんな感じだった。


 慣れない試みに苦戦している中で、これと似たようなことを某有名なファンタジー小説の魔法使いがピンチの時にやっていたことを不意に思い出した…。確か、ポジティブな思い出を心に満たした状態で呪文を唱えると守護霊の力を発動できるとかいうアレだ。実際、あの魔法は真理を突いているらしく、ポジティブで明るい思いを持ち続けようと心掛けている者達は意図的に光の結界を常時発現しているようなものらしい。


 だが、そのような陽キャの成せる御業が生涯陰キャを貫いてきた僕に簡単に真似できるはずも無かった…。僕が無意識に抱いている過度に自虐的な感情・言動などは自分のセキュリティを自分で解除しているようなものなので気を付けた方が良いと冒頭で指摘を受けたほどだ。


 結局、光を体の周りに旋回させるところまでは半日かけてなんとか上手くいったものの、その後のバリアの固定化に苦戦し、僕の傍らで漫画を読み漁っていた白狐の手を借りて何とか結界を張ることができた。


 やっとの思いで完成した退魔結界だったのだが、白狐によるとそれはデフォルトの1つに過ぎないということで、通常はこれにプラスして様々な結界を重ねて発動することでようやく防御結界と呼べるだけの代物に至るらしい…。


 少なくとも、不可視化等のステルス対策を強化するための結界、攻撃プログラムを跳ね返す魔法防御的な結界、アバターからの直接攻撃を遮蔽する物理防御的な結界等々は必要だろうとのことだった…。


 どこぞの異世界小説のマジックキャスターじゃあるまいしと若干抵抗してみたものの、控えめに見てもこのくらいは急ぎ必要であるということで、結局、それらを全て張り終わるまでに数日を要した。そして、今へと至る…。


 「やはり貴方は筋がいい。普通はもっと時間がかかるものですが、貴方の習得が早いのでいくつか欲張らせていただきました。貴方自身のガード面は良い感じなので、次は家族や住居等を対象とした結界術にチャレンジしてみましょうか」


 白狐の口からさらっと発生られたその言葉に、僕は戦慄を覚えた。

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