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Episode 35. 休閑・考察2

 物質世界における因果関係には無数の要因が関与しているが、言わずもがな因果の中核を成すのは物質原理や人間原理に基づくアナログ要因だ。人間原理に関しては理不尽や精神論・感情論がまかり通ることがしばしばあるが、前者に関してはそうはいかない。


 どれだけ強い思いを持っていても、どれだけ高額なラッキーアイテムを買い漁っても、理に反して目的の結果を得たり最悪の結果を回避することは不可能だ。強い信仰心があれば空も飛べると信じて高所から飛び降りる者が過去いたが、結果は目に見えている。


 そのような因果法則の中に、運や呪等の目には見えないデジタル要因が具体的にどのポイントに、どのような形で、どのような影響力を与えているのかなど当然ながら簡単に調べられるものではない。その影響力が微々たるものであれば尚更だ。


 一方で、世の中には軍全にしては出来過ぎた説明困難なレベルの極端な例外も散見される。極端な豪運や不運、不思議な縁、エスパーによる念写等の念能力、呪物による怪奇現象等々…。


 スピリチュアル系の詐欺師を調子付かせるようなことは言いたくはないが、メタバース宇宙論においては大抵の可能性は許容され得る。


 実際、明確な確率異常を伴うモデルケースを比較すると、圧倒的な愚者・圧倒的な無知者・圧倒的な盲信者・圧倒的な自信家・圧倒的な自虐者による強い思い込み、アスリートのメンタルマネジメント上の思い込み等が事象の確率に影響を与えているような傾向も見受けられる。


 今回は、このようなモデルケースの事例検証や経験則を踏まえ、デジタル要因が現実に及ぼす影響の検証や実用可能性に関する考察について簡単に整理していく。


●先ず、話を解りやすく区別するために、デジタル要因を「外付けのプログラム (後天的に獲得されるバフ・デバフ)」と「内蔵プログラム (先天的に備わっている特殊能力・ハンディキャップ)」の二種類に大別し、後天的に操作できる可能性のある前者を中心に整理していくこととする。


 「プログラム」とは、情報体の機能によってエネルギー依存的に生み出され、エネルギー依存的に運用される「情報セット」、中二病的に言えば「術式」を表現する概念として定義される。


 「タダでは作れず、タダでは動かせない」というエネルギー保存則上の等価交換の制限があるのが従来見落とされがちな要点となる。どのような豪運にも、相応の対価がどこかで消費されている。故に、検証に際しては自身の限りあるリソースを有効活用するために可能な限り無駄を省いて必要なプログラムにリソースを集中する必要がある。


 だが、言うは易し行うは難し。無駄を省くという作業が最も難しい。

 一体、どういうことか?


 例えば、俺のように日々の生活の中で多くのストレス要因に晒されている陰キャ気質な人間の場合、毎日色々なことを思い悩み、ネガティブなことを色々考えたりする。思いの強さがプログラムの構築・動作のトリガーとなっている当該情報空間において、そのようなタイプの人間は自らの限られたリソースを無駄に消費して中身のないネガティブ系プログラムを大量に作り出し、運用できずに放置しているような可能性が高い。


 厄介なのは「自分は何もできない人間だ・デジタル要因など存在しない」といった自虐的な抑制プログラムを無意識に作り出しているような場合、最初に自分にかけた「呪い」を解かない限りシステムの検証は不可能となる。


 思い込みの力で無駄なプログラムを容易く解体 (解呪)できるのであればデジタル要因の影響も検証しやすくなるのだろうが、プログラムの解体自体にも相応のエネルギーの消費を伴う可能性があり、そもそも解体されたかどうかを確かめる術がないのが痛いところだ…。


 次いで、検証に際しては常時発動用のバフとして防御系バフは絶対に外せない。

 防御が必要とは一体どういうことか?


 早い話、外敵から仕掛けられるデバフへの対策として防御が必要になるということだ。生きていれば誰かの恨み・妬み・嫉み・僻みを買うことは避けられない。そのような負の感情は、感情を向けられた相手にとってデバフとなり得る。


 また、過酷な競争社会の中においては、自分が成功や幸福を得るために誰かが犠牲にならなければならないような場面に少なからず直面する。そのような場合において、自分に優位に働くように設計したプログラムが意図せず他者に対して攻撃的な側面を持つことがある。


 人間社会は意識的・無意識的に作り出されたデバフで溢れ返っている。そのようなデバフをいちいちもらっていては検証を効率的に進めることはできない。


 さらに、自分の限られたリソースを他者に盗難されるリスクにも備える必要もある。先の怪談でも言及したが、相手が肉体を失った情報体の場合、生者からエネルギー情報を強奪するスキルを持っている者が少なからず存在する。また、相手が生きた人間であってもエネルギー情報を勝手に抜き取られる可能性はゼロではない。


 最後に、自分自身が無意識に呪いを作り出してしまう可能性についても配慮が必要となる、プログラムの概念は「陰陽」「正負」といった巷で耳にする概念にも重ね合わせることができる。害を成す意図で構築されたプログラムは「陰」または「負」。益を成す意図で構築されたプログラムは「陽」または「正」といった具合だ。


 陰陽は常に表裏一体であり、何かを得るプログラムには何かを失うプログラムが付随する。プログラムの構築に際しては陰の性質を如何に抑えるかがポイントとなる。


●次いで、プログラムの構築・動作に影響を与え得る要因について掘り下げて整理していく。


①【システムに対する認識・認知・信念の影響について】


 認識・認知・信念が現実に与える影響は、トップアスリートのメンタルマネジメント・イメージトレーニング・ルーティン、プラシーボ効果やノーシーボ効果等でもよく知られている。医薬品や食品成分の有効性に関する試験・実験においては、思い込みが肉体に与える影響を排除するために偽薬・偽成分を用いたプラセボ群を設けることが一般的となっているほどだ。


 人間は思い込みの強さ次第で、熱くもない金属に触れて火傷を負ったり、心臓の拍動を停止させて死に至るような現象も知られている。これらの現象にデジタルの影響が絡んでいると仮定すると、強い思い込みがプログラムの構築・動作のトリガーになり得るという先の仮定とも整合する。


 ここで重要なのは認識・認知・信念の影響が自分の心身のみならず外界・他者にまで及び得るということだ。このような話をしていると、昔、律が教えてくれた伝説的なSFラノベ作品に登場するヒロインを思い出す。彼女は、自分の思い込み一つで文字通り世界を一瞬で変える力を持っていたが、彼女のリソースが神クラスなら有り得ない話でもない…。


 システムに影響を与える「認知」は、確度に応じてレベル分けすることができ、仮説・推定・自明の順にシステムへの影響が高まっていく。一方、信念の影響からも推察されるとおり、当該システム内では仮説・推定・自明のプロセスを疑心・信心・確信に置き換えても類似の効果を得られる。


 仮想情報空間の特性を知る者 (クエスト達成者・情報体としての覚醒者)は、システムに対する認知が推定ないし自明の域に達しており、デバフの影響を排除して意図的にデジタル要因をコントロールし易くなる。一方、何かをアホみたいに盲信・確信する者もまた、効率は非常に悪いが仮説・推定・自明のプロセスをスキップしてデジタル要因をある程度コントロールすることができる。


 なお、プログラムの影響力は、思いの強さ、思いの一貫性、思いの頻度、システムに対する認知・信念の深さを変数として表現され得るが、そこにプログラムを構築する・動作させるという明確な意図をかませると効率が劇的に向上する可能性がある。


 明確な意図を持たせる既知の方法としては、ルーティンポーズ・合掌などの印、祝詞・御経・呪言・お決まりの口上などの詠唱、ルーティン・神楽・お炊き上げ・験担ぎなどの儀式・運動、仏具・神具・絵・マントラ・偶像などのモチーフの使用等が挙げられる。


 何の効果があるのか眉唾なラインナップだが、システム側にとっても自分側にとっても術者の願いが戯れなのか本気なのかを明確に区別できる効果 (意識を高める効果)が期待できる他、これらの行為で生じた物理エネルギーがエネルギー情報に変換されて目的のプログラムの構築・動作に消費されている可能性も考えられる。


 エネルギーの等価交換性を踏まえると大きな熱や音を伴うものほど寄与度が高いのではないかと考えられるが相関関係は定かではない。


②【自分自身が有するエネルギー情報量、情報記憶容量、情報処理速度の影響について】


 本項に関しては、家庭用のノートPCに種々のアプリを読み込んで使用する場合に起こる現象を想像すると解りやすい。PCの場合、並列で使用するアプリの数が多くなるほど電力消費が激しくなり、情報記憶容量は減り、情報処理速度は遅延する。


 これと同様の現象がデジタルという共通点を持つ情報体にも起こり得る。人間は神ではないので、当然ながら情報体のエネルギー保有量・情報記憶容量・情報処理速度には上限値があり、個人差があることが予想される。


 この場合、上述のとおり無駄なプログラムを多く抱える人間ほどエネルギー情報は無駄に浪費され、必要なプログラムを構築・運用できず、プログラムの単位時間当たりの影響力も低下するといった悪循環が起こり得る。


 些細なことをごちゃごちゃ考えない一途で単純な人間ほど豪運に恵まれるという事例は多々見てきたが、それらはシステム側のこのような事情に起因する現象なのかもしれない…。


 なお、情報体のスペックは肉体側の成長やエネルギー生産量に同調して後天的にレベルアップないしカスタマイズされ得る。肉体や知性の強化を通じてプログラムの影響力を高めることができるかどうかについては現在検証中だ。


 一方、肉体の老化・弱体化に同調して情報体側のスペックがレベルダウンするのかどうかについては不明点が多い。老人や病人、肉体にハンディキャップを負った者が神引きを見せるような事例は多数知られているが、もし仮に情報体側のスペックが簡単に落ちないのであれば如何なる努力も早々無駄にはならないということが言えるかもしれない。


 また、ピーク時のレベルを死後世界のプレイングに持ち越せる可能性があるのであれば、今のうちからレベリングに勤しんでおいても損はない。また、ゲームマスターからレベルダウンやペナルティを課される畏れのある行為は大局的に見て百害あって一利無しなので、慎んだ方が無難だろう。


 最後に、消費されたエネルギー情報の補充ルートの謎に関してだが、最も有り得そうなのは肉体が獲得した物理エネルギーがエネルギー情報に変換されて補填されるパターンだろうか。肉体アバターの食事・栄養管理・体調管理・入浴・飲酒・喫煙・睡眠などがプログラムの構築・動作に与える影響は無視できない。


 その他、他者の保有するエネルギー情報を強奪するパターン、祈りや思いを介して他者や自然・神仏等に準ずる高位の存在からエネルギー情報が付与されるパターン等も想定されるが、いずれも定かではない。


③【プログラムの具体性・競合性・システム適合性の影響について】


 プログラムの特性はバフ・デバフの種類に応じて変化する。この場合「〇〇を叶えたい」という漠然としたイメージよりも「〇〇を叶えるために△△のバフ・デバフを構築・発動する」というイメージを持った方がプログラムの具体性が増し、効果範囲を集約することができる。


 当該仮想情報空間で実現可能なバフ・デバフの種類は明確ではないが、有り得そうなバフを列挙すると「身体能力強化、思考加速、知性向上、耐久力向上、各種能力向上、探索効率向上、防御力強化、各種耐性強化、デバフ反射・迎撃カウンター、自動回復・状態異常回復、幸運・確率操作、厄除け、魔除け、縁結び」等が挙げられる。


 一方、有り得そうなデバフを列挙すると「身体能力弱体化、思考遅延、知性弱体化、耐久力弱体化、各種能力弱体化、防御力弱体化、精神異常・混乱・発狂・恐怖・威圧・絶望、盲目、スタン、スリップダメージ、行動抑制、能力抑制、魅了・カリスマ、洗脳、思考操作、不運・呪い、ドレイン、スリープ、ヘイト」等が挙げられる。


 デバフの方が種類が多く心願成就に応用しやすい印象だが、前述のとおり安易なデバフの使用は避けた方が無難だろう。加えて、これらのデジタル要因はアナログ的なアプローチと組み合わせて初めて有効性を発揮する。理にかなった正しい努力を怠ってはバフもデバフも意味が無い。


 また、競合性の問題に関しては、目的を達成する上で競合する他者が大勢いる場合「アナログレベルでのパフォーマンス」と「デジタルレベルでのパフォーマンス」の総合力の差で勝敗が決する。この場合、競合するバフ・デバフが余りにも多すぎて自分のプログラムの影響力が他のプログラムに覆い隠されてしまうようなことが起こり得る。


 さらに、システム適合性の問題に関しては、例えば「かめはめ波を打てるようになりたい」等の理に反した願いなどは物理的に成就することが実質不可能なので、限りあるリソースを投資したところで結局は無駄に終わる蓋然性が高い。デジタル要因といえども現実を簡単に無視することはできない。


●さて、長い割に雑な整理になってしまったが、以上が検証に際して考慮すべき各種要因の説明になる。デジタル要因を活用して文字どおり全身全霊で生きることができれば、現状からは想像もできないような未だ見ぬ新しい可能性に出会えるかもしれない。


 また、それは故人にとっても言えることだろう。死後世界の住人になったからといって全霊で生きることは容易いことではないはずだ。自分の能力を開拓し、自分に出来ることを増やしていくことが一つの救いにもなり得る。

 

 過去の痛みを消すことは叶わなくとも、何かを愛し、何かを学び、何かを共有することはできる。その先にある未来は誰にも予想できない。


 健闘を祈る。

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