Episode 34. 休閑・考察1
些細な心霊体験を複数名で何度も経験していると、目には見えない存在が普通にその辺にいるということが自明の事柄になり、科学の対象へと至る。
この世界が仮想情報空間の性質を備えているという事実。それは、形無き幻想として軽視されてきた目には見えない多くの要素が情報として実在しているという蓋然性を示唆している。
人間の魂はもとより、人生の中で抱いた感情や思考、言葉、行為、過ぎ去った経験の全てがこの世界では保存対象となり得る。システムに刻まれたそれらの情報は、外部世界に存在する記録媒体を維持管理し続ける限りにおいて朽ち果てることがない。
それらの可能性が自分の人生にとってどのような意味や影響を持つことになるのか。日常の中でどのようにシステムを活用することができるのか。
今を忙しなく生きる俺にとっての要点はそこにある。
誰の役に立つものでもないが、これまでの体験を踏まえた考察を以下に綴る。
●システム側が何を目的として当該仮想情報空間を運営しているのかについては諸説あるところだが、少なくともシステム側はプレイヤーに対し、この世界が仮想情報空間であるという事実を完全に隠蔽しようとは思っていないはずだ。
仮に、プレイヤーに対してシステムの真実を完全に隠蔽したいのであれば、仮想情報空間の可能性が疑われるような量子力学の研究成果や霊的現象、確率論を無視したバグ的現象などは片っ端から潰していくであろうし、場合によっては記憶すら操作することも厭わないだろう。
システム側は仮想情報空間のリアル性を重んじながらも、この世界が仮想情報空間であることを示唆するヒントを意図的に残している。言い換えると、プレイヤー側が世界の真理を謎解き、もって「自分の答えを導き出すこと」を普遍的なクエストとして設定している。
情報空間のリアル性を脅かすクエストをわざわざ設定している意図は不明だが、システム側が当該仮想情報空間を運営している理由が大きく絡んでいるように思える。少なくとも、俺が相手の立場なら運営目的にそぐわないハイリスクなクエストを設置したりなどしない。
クエストの意図問題に対する持論としては、例えば俺のような精神弱者に対して物質世界で健全に在り続けるための精神的な支えを付与する目的が1つ有り得そうだが…、延いては、生前・死後を問わず、知的存在として恒久の時を健全に在り続けるための学びをサポートしているようにも推察できる。
人間のような「知的存在」「知的集団」に共通する最も単純かつ基本的な行動原理とは「より良く・より安定に・より健全に在り続けること」だ。大抵のミッションはこの原理に収束すると考えていい。
自死を選ぶ人間がいるように、潰れる会社があるように、絶滅する種があるように、存在が安定に存在し続けることは当然のことではない。物質的な条件のみならず、知性・理性・精神性・価値観・人生観・世界観等、内面的な条件を含め状況に応じた様々な要素が必要になる。
その中でも、物質的な問題をある程度克服しているような高度な知性体においては、内面的な要素に重きを置きがちだ。我々の本体が無形の情報体であればなおさらだろう。
生前はもとより、死後もなお続く恒久の時間を健全に在り続けるための支えとなる頑健性の高い思想、人生観、知性、理性、精神性、向上心等々を得ること。
もって、生きることを諦めないこと。自分という存在を諦めないこと。
自分を甘やかさず、正しく愛すること。自分という存在を激痛を得てでも護り抜くこと。
仲間を愛し、互いに支え合い、生かし合うこと。
このような意図を含む形で当該仮想情報空間やクエストがデザインされている場合、それが即ち俺の人生の目的・指針の一つにもなるわけだが…現状、これらの持論を確たるものとするだけの論拠は持ち合わせていない。
当然、システム側が何らかの悪意をもって仮想情報空間を運営している可能性はゼロではないし、システム側と呼ばれる存在すら存在しない可能性もある。
常日頃、様々な可能性を自分の人生の中で検討し、何事も決めつけず、軽率な行動はなるべく慎み、後悔の少ない人生を送れるように配慮したいところだ。
●話は変わるが、クエストには達成報酬がつきものだ。世俗的な疑問になってしまうが、当該クエストの達成に関して、知的財産や精神的支柱、人生の指針を得る以外に現世利益に叶う報酬は与えられるのだろうか。
例えば、人類史上の登場人物の中には、海を割る者、水を葡萄酒に変える者、神がかり的な豪運を発揮する者等々、超常的な力を持つ覚醒者達が少なからず知られている。無論、嘘や詐欺が大半を占めているだろうが、その中にはシステムが関与していても不思議ではない超常現象も散見される。
これに関して不確定ながらも現状の所見を述べるなら、クエストを達成したからと言って魔法が使えるようになるわけではないが、運、縁、念、呪等の目には見えない情報に由来する影響力を意図的にコントロールしやすくなる可能性はある。
引き続き妄想の域を出ない怪しげな話になるが、次項にシステムの日常的な活用方法に関する考察を綴っていく。