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Episode 26. 生命形成2

 RNAとタンパク質 (ペプチド)が中心の世界において、DNAによる遺伝情報の記録と翻訳、複製の機構が地上に自然発生し、そこから生命の誕生にまで至った大筋の背景は「各々の分子が各々の環境下で化学的・物理構造的安定性を求め続けた結果である」として大まかに説明付けることが可能だ。


 リサ曰く、過酷な自然界で生き残り、かつ発展するという目的下においては、化学的・物理構造的に安定であることが素粒子レベルでの絶対正義らしい。


 情緒不安定で女性に全くモテなかった僕からすると、何だか意味深に聞こえる話だが気のせいだろうか…?どういうことなのか簡単に整理していく。

 

【①】先にも触れたとおり、RNAやタンパク質は構造単位となる分子が多数連結した鎖状構造を取っているが、そのままの一本鎖の状態では自身の各部位に無防備な双極子 (電荷)が残留する。このような電荷を中和するため、彼等はヘアピンのように曲がってみたり、らせん構造を取ってみたり、シート構造を取ってみたりすることで電荷を中和し、化学的・物理構造的に安定化しようと工夫し始めた。


 その結果、化学的・物理構造的に安定なRNA (rRNA、tRNA、リボザイム、二本鎖RNA etc.)やタンパク質 (酵素タンパク質 (エンザイム)、構造タンパク質、輸送タンパク質 etc.)、またはそれらの部分的な構造パーツ (ステムループ構造、αヘリックス構造、βシート構造 etc.)が地上に多数生み出されることになった。


 例1として、DNAの遺伝情報からタンパク質を翻訳する際、リボソームにアミノ酸を運搬する役割を担うことで知られているtRNA(転移RNA)は、一本鎖がヘアピンのように何度か折れ曲がり (ステムループ構造)、十字架のような形状を自然に取ることで知られている。このような構造を取れるRNAは、部分的にDNAのような二本鎖構造を形成できるので化学的・物理構造的に安定化する。ただし、それだけでは自身が帯びる電荷を完全に中和することができないため、ほかのRNA鎖やアミノ酸、タンパク質と緩やかに相互作用することで化学的・物理構造的に安定化する。その結果として、意図せずDNAの翻訳機能の一端を担う運び屋になった。


 例2として、RNAとタンパク質の複合体であるリボソームは、RNAとタンパク質が互いの電荷を中和し合うように相互作用し合い、かつ、同時に各々が高次構造を形成することで化学的・物理構造的に安定化した原型が生み出された。ただし、それだけでは自身が帯びる電荷を完全に中和できないため、例に習って他のRNA鎖やtRNAと組み合わさることで化学的・物理構造的に安定な存在となり、結果として意図せず翻訳機能の一端を担う構造体になった。


 例3として、触媒機能を持つRNAやタンパク質 (ペプチド)についても、RNA鎖や低分子と結合して安定化を図ろうとした結果として副次的に触媒性を獲得するに至った。とりわけ、対象分子を包み込みこんでホールディングできるような高次構造 (基質ポケット)を取れるものが化学的・物理構造的に安定で生き残り、結果として特定の化学反応を特異的に促進する (基質特異性を有する)リボザイムやエンザイムが生まれた。


 これらの触媒は、特定の対象分子 (基質)と結合して酵素-基質複合体を形成することで、自分自身を化学的・物理構造的に安定化させる反面、その副作用として結合した基質の化学的安定性を低下させ、化学反応を促進させる。


 言い換えると、触媒と呼ばれる分子達は、単純に化学的・物理構造的に安定化しようとした結果として偶然に触媒性を獲得しただけで、触媒として振舞いたいから、あるいは触媒としてデザインされたから触媒になったという訳ではないというのが科学的な知見だ。


 他の機能性タンパク質や機能性RNAの生成過程も同様の原理で生じた。とりわけ、アミノ酸は核酸よりも種類が多いので、RNAよりもタンパク質の方が機能性に富んだ多種多用な構造体を作りやすい。故に、後に誕生する生命体の生体機能の大部分は、RNAよりもタンパク質の構造体がメインで担うことになった。


【②】RNAと相互作用する分子が副次的に触媒性を持つようになると、RNA鎖どうしをつなぎ合わせる酵素や、RNAを鋳型にRNAを合成する酵素、RNAを切断する酵素、RNAを化学修飾する酵素等々の原型が生み出された。


 RNAを鋳型にRNAが合成されるようになると、DNAのように二本鎖を形成する安定なRNAが増えていった。鋳型になるRNAは機能性RNAも含まれていたので、二本鎖RNAは意図せず機能性RNAの遺伝暗号を包含するに至った。これが、機能性RNAの遺伝暗号化プロセスらしい。


 一方、タンパク質の遺伝暗号化プロセスについては不明点が多いが、リサ曰く、原始時代にはタンパク質中の特定のアミノ酸と特定のtRNAに特異的に相互作用する分子が存在しており、当該分子を介してタンパク質、tRNA、一本鎖RNAの安定な複合体が形成され、これを鋳型にしてタンパク質のアミノ酸配列情報が塩基配列情報として二本鎖RNAに落とし込まれたらしい。その後、当該分子は時を経て「アミノアシルtRNA合成酵素」として生まれ変わった。


 アミノアシルtRNA合成酵素は、特定構造のアミノ酸と特定構造のtRNAを合体させる触媒作用を持つ。例えば、アミノ酸のグリシンは、GGU、GGC、GGA、GGGという塩基配列を先端に持つtRNAと特異的に結合させられることが知られている。この作用により、各々のアミノ酸には「コドン」と呼ばれる3つの塩基配列からなる遺伝暗号が付与されることになる。


 メジャーな分子に対応する合成酵素、分解酵素、修飾酵素が増産されると、不安定な分子の駆逐は加速化し、洗練された安定な分子や、分解酵素と構造的に相互作用し難い新規で希少な修飾分子が生き残るようになっていった。


 その過程で、二本鎖RNAのウラシルはシトシンに置き変わり、リボースはデオキシリボースへと置き換わって二本鎖DNAが誕生した。二本鎖DNAもRNAと同様に、相互作用する分子が触媒性を獲得し、DNAを鋳型にDNAを複製する酵素、DNAを鋳型にRNAを合成する酵素、DNAを修飾する酵素、DNAの損傷を修復する酵素等々が生まれた。


 触媒によって複製された二本鎖DNAは、化学的・物理構造的に非常に安定であるため、原始地球において爆発的に存在量を増やしていった。


 このような果てしない経緯を経て最終的に誕生したDNAは、さながら彼の伝説のパズルゲーにおける最大連鎖消去魔法「ばよえ~ん」のごとく、分子間相互作用の壮大な連鎖反応を引き起こすトリガーとなった。


 つまり、二本鎖DNAを鋳型に酵素反応でmRNAが合成され、mRNAにリボソームとtRNA-アミノ酸複合体が結合し、tRNAから切り離されたアミノ酸が互いに連結してタンパク質が合成される。簡単に整理し過ぎたが、これがセントラルドグマの大まかな誕生の経緯だそうだ。


【③】ここまでの展開で後の流れが読めてしまったが、要は、生体の機能単位が点でバラバラに形成され、それらが少しずつ組み合わさって分子間相互作用の連鎖系が形成され、最終的に脂質膜で外界と隔てられた構造体が形成され、生命の原型が生み出されたということらしい。


 生命の初期の構造体は、化学反応をひたすら連鎖させるだけのゼンマイ仕掛けの装置に過ぎなかったが、徐々に思考能力を持つに至り、思考能力の発達により意思を持つに至ったとされる。つまり、思考能力の獲得が分子の安定化に適っていたということだ。


 ただ、一見して自然な流れに感じられるこのシナリオも細かく見ていくとかなり出来過ぎていると評さざるを得ない。


 例えば、自然発生した原初の身勝手な触媒分子達が、既存の分子をめちゃくちゃに破壊しつくすのではなく、うまい具合に進歩させる方向に働いたことは奇跡という他ない。各種触媒分子の発生タイミング・生成速度・反応速度の調節、基質となる分子の量的な調節、環境条件の調節が絶妙でなければ、全てを上手く運ぶことはできない。


 先にも触れてきたとおり、どれだけ時間規模や系の規模を増やしたところで、緻密な条件メイキングの上にしか都合のいい偶然の連鎖は起こり得ない。それを常に念頭に置いた上で話を進めていく。


 地上で初めて生命が誕生した場所はかなり特殊な環境条件が整った局所だった。だが、リサ曰く、どうやら地上には最初の生命の原型が自然発生する以前に、既に外来型の生命の原型が存在していたらしい。「外来型」とはつまり「宇宙微生物」というやつだ。


 宇宙微生物は地上生命の多様性と進化に大きな影響を与えたらしい。次項以降で順を追って整理していくこととする。


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