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Episode 24. 原始地球形成(補足②)

 自分は一体何処からやってきたのか。自分は一体何者なのか。自分は一体何処へ帰していくのか。誰もが人生で一度は疑問に思うことだろう。かく言う僕も、今まさに自分が一体何処へ向かっているのか分からなくなっているところだ…。


 生命の起源に関する諸説を大まかに分類すると、「神ないし神に準ずる高度知性体が地上の生命体を創造した」とする説 (インテリジェント・デザイン説)と、「地上または宇宙における化学反応の連鎖によって地上の生命体が自然発生した」とする説 (化学進化説)の2種類に大別できる。


 どちらかといえば理系脳で無宗教主義だった僕は、物心ついた頃には後者の説に確信を持って生きていたように思う…。だが、現実は僕の予想に大きく反し、どちらも正解だったということになる。何故なら、この物質世界はXによってデザインされた仮想情報空間であり、地上の生命はシステムの科学的設定 (アナログとデジタルが混在した物理法則)に基づいて無生物から化学進化したからだ。


 無論、「生命」という用語の定義はシステム側と人間側で大きく異なっており、ややこしいので注意を要する。生命起源論における生命とは「肉体アバター」のみを表現する概念だが、システム側が想定しているメタバース内の生命とは、魂もとい「情報体」と物質世界に存在する種々の「アバター」が融合した存在を表現する用語であり、疑似情報体アバターや精霊体アバター、ダークマターアバターや管理代行者の特殊アバター等々も含まれる。


 この理屈でいくと、人間の場合、情報体と疑似情報体アバターと肉体アバターが融合した存在が生命ということになるが、現在の僕 (情報体と疑似情報体アバターが融合した存在)もまた生命の一形態とみなされている。


 話を戻すが、化学進化説に関しては、現在、地上や宇宙における様々なシチュエーションにおいて、生命誕生の基材となる複雑な化学構造の有機化合物が自然発生することが知られている。


【①】例1として、先ず地上における有機合成から整理していく。太陽円盤の形成から約100万年程度の年月を経て形成された原始地球の表面には、重力によってトラップされた原始大気が存在していた。原始大気は、隕石の衝突によって生じた水蒸気、二酸化炭素、窒素を主成分とする火山性ガスに覆われた酸化的環境 (比較的強い影響力を持った陰イオン「酸素」が優勢に支配しており、遊離の水素や炭素が生じ難く、有機化合物の材料分子となる炭化水素が形成されにくい環境)と考えられていた。だが、現実はそれほど単純なものではなかったようだ。


 先にも触れたが、原始地球を形成した隕石には、鉄をメインとする金属成分が多量に含まれていた。隕石衝突時、隕石に含まれる酸素は地球内部に存在する膨大な量の鉄と反応して酸化鉄を形成し、地球のコア外殻とマントルの境界面に集積して層を形成する。この効果により、地球の大気は実際には還元的に保たれていた。


 ちなみに、地震研究において、コア-マントル間の境界は地震波の伝達速度が急激に遅延することが知られており「地震波超低速度層」と呼ばれている。この現象は、地球内部の鉄が原始地球における酸素を絶妙な量だけトラップし、有機合成に適した環境の形成に寄与した証拠としても有力視されている。「絶妙」という表現は、酸素が鉄にトラップされすぎると水分子を作れず、絶妙な水量の原始海洋を生み出せないという意味合いだ。


 なお、還元的な環境下で生み出されるメタンの温室効果作用は、二酸化炭素のそれと比べて影響力が大きく、原始地球の温度環境を一定に維持して海洋凍結を回避することに一役買っていたことが知られている。


 原始地球の形成初期では、太陽の光度は現在の70%程度であり、太陽からもたらされる熱量は地球を温めるのに十分ではなかった。そのような環境下では、原始海洋が形成された後、液体の水を地上に安定維持し続けること困難になる。二酸化炭素にも温室効果があるが、当時の大気中の二酸化炭素濃度では十分な温室効果を得られない。この問題は「暗い太陽のパラドックス」と呼ばれている。当該問題も原始大気が還元的でメタンが大量に含まれていたとすれば説明がつく。


 ちなみに、当該パラドックスを掘り下げてみると、地上の温度環境は、時間経過とともに太陽から降り注ぐ熱量が増加していく一方、それに応じて地上の温室効果が絶妙に減少していったことで奇跡的に温暖な状態が長期間維持され、液体の水が維持され、ゆっくり膨大な時間をかけて生命が自然発生する余裕が生まれたということになる。


 二酸化炭素は海洋に溶ける他、原始地球が冷えていくとマグマからの二酸化炭素の脱ガスも減少して大気中濃度が減少する。一方、メタンは光分解性が高く、二酸化炭素よりも急速に減少するものの、原始生命の誕生後は嫌気性独立栄養細菌の働きによりメタンが絶妙な量で大気中に安定供給されることで温室効果が絶妙に維持されてきた。


 さすがにこの展開は怪しすぎるだろ…。


 これほど膨大な数の要因が奇跡的に組み合わさって安定な地球環境がこれまでずっと調節維持されてきたなんて、神の悪戯レベルで都合が良すぎる話だと思うのは僕だけだろうか…。まるで生命誕生のために決め打ちで設定されたような物理だが、実際にそうだと管理代行者が豪語しているのだから仕方がない。


 少し脱線したが、原始大気中の酸素が絶妙な量に調節され、還元的な環境が整うと水素ガスが安定に存在できるようになり、一酸化炭素 (CO)やメタン (CH4)、アンモニア (NH3)、硫化水素 (H2S)も安定に存在できるようになる。そのような有機化合物の材料分子に対し、外部から放電、光 (紫外線・宇宙線)、音 (超音波)、衝撃波、放射性物質 (放射線)等々の絶妙なエネルギーが加わると材料分子の融合反応 (有機合成反応)が促進される。


 実際、有名なミラーの実験においては、気体分子に放電を加えることによって比較的単純な化学構造の各種アミノ酸や各種カルボン酸、尿素等が簡単に自然発生することが知られている。


 なお、二酸化炭素や一酸化炭素を有機化合物に変換する化学反応は「炭素固定」と呼ばれ、窒素をアンモニアなどの化合物に変換する化学反応は「窒素固定」と呼ばれる。また、外界からエネルギーを加えなければ起こり難い (自発的に進行しない)化学反応は「吸エルゴン反応」と呼ばれる。有機生命の基材の多くは、原初の地上の自然環境下において吸エルゴン反応で生成する単純な化学構造の有機化合物を構成単位としている。


【②】例2として、地上における他の有機合成系としては「隕石や天体の衝突時における瞬間的な有機合成反応」や「鉱物表面での触媒反応による有機合成反応」が知られており、後者の理論は後々言及することになる「深海熱水孔周辺での生命誕生説」や「海底地下深部での生命誕生説」にも積極的に取り入れられている。


 先ず、前者の有機合成系については、先に整理した理屈と似通っている。つまり、隕石や天体に含まれる鉱石が地上の酸素をトラップして還元的な環境が隕石または天体の周辺に瞬間的に生じ、炭化水素や窒化水素が効率的に生み出されるといったものだ。


 一方、後者の有機合成系は小学校の理科の実験でも御馴染みの原理が元になっている。金属原子は一対一の分子間ではなく、無数の金属原子の集合体 (クラスター)として各々の電子 (自由電子)を共有し、金属結合を形成する性質を持っている。


 これは、先にも触れたとおり金属原子が電子を多く抱えており、最外殻の電子が原子核からの引力の影響を受けにくいことに起因している。つまり、金属の最外殻の電子は有って無いようなものなので、金属表面では外部の元素と電子の受け渡しが行われやすい。この特異的な性質が金属の触媒活性の要因となっている。


 例えば、二酸化炭素 (CO2)と水素 (H2)は外部からエネルギーを加えることでギ酸 (COOH)やメタノール(CH3OH)に有機合成されるが、鉱石表面上では低温でも反応が自発的に進行する。その仕組みとしては、水素が金属表面の+-の電荷 (磁力)の影響により電子を手放してイオン化し、磁石に吸い付けられるように電子と水素イオンがトラップされて反応待ちの状態が整えられる。二酸化炭素には炭素と酸素の原子核の+電荷の差 (有効核電荷の差、電気陰性度の差)で分極しており、酸素が帯びる-電荷に+電荷の水素イオンが攻撃 (求電子攻撃)を加え、炭素が帯びる+電荷 (カルボカチオン)に電子の-電荷が攻撃 (求核攻撃)を加えて反応がメイキングされる。


 触媒活性のある遷移金属は、鉄の他にも銅や亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン等々が存在し、これらは炭素固定反応や窒素固定反応の他に、エネルギーの付与によって壊れやすい高分子の合成反応にも適している。つまり、アミノ酸の重合反応 (タンパク質やペプチドの合成反応)やヌクレオチドの重合反応 (DNAやRNAの合成反応)、糖の重合反応 (糖鎖やデンプン、セルロースの合成)を穏やかな条件で促進することが可能になる。


 触媒のメリットは正にそこにあり、特に恒常性の維持が重要な肉体アバターにおいては、体内で触媒活性を持った酵素 (タンパク質の一種)やリボザイム (RNAの一種)を作り、これらを多用することで体内環境を一定に保ちながら化学反応を支配し、生命活動を維持している。


 つまり、化学進化と触媒反応は切っても切り離せない関係にあり、太古の触媒反応に依存した代謝系の名残が現在の僕達の肉体アバターに受け継がれている。生命とは、一連の化学反応を自己都合で支配できる存在とも表現できるかもしれない。


 特筆すべき事例として、硫化鉄 (鉄・イオウクラスター)は現在でも生体内の酵素 (金属タンパク質の一種である鉄イオウタンパク質)の一部として組み込まれており、生体にとって最も重要な最古級のエネルギー代謝系(炭素固定、窒素固定、光合成、水素の酸化還元)の触媒として広く用いられている他、硫黄を構成元素とする重要な有機化合物に対する硫黄供与体としても広く用いられている。


 具体的な代表例として、「ミトコンドリアの電子伝達系」、「葉緑体の光合成系」、「クエン酸回路 (糖代謝系)の触媒酵素の補酵素として知られるα-リポ酸を合成する際の硫黄供与」「クエン酸回路や脂質代謝系の触媒酵素の補酵素として知られるビオチン (ビタミンB7)を合成する際の硫黄供与)」や「根粒菌等の窒素固定細菌のニトロゲナーゼ」等が挙げられる。


 その他、嫌気呼吸で知られる解糖系の酵素に関しても、ナトリウムやマグネシウム、マンガン、亜鉛、リチウム等の金属イオンの触媒活性を補因子として利用したものが複数現存している。また、タンパク質に金属クラスターが取り込まれている事例としては、鉄イオウクラスターの他に、鉄・鉄クラスターや、鉄・ニッケルクラスター等が知られている。


 なお、硫黄を効率的に有機合成系に組み込む際に硫黄鉱石が用いられるのと同様の理屈で、生体元素として重要な位置付けにあるリンを有機合成系に効率的に組み込む際には、リン鉱石(シュライバーサイト等)がリン供与体として用いられていた。酵素触媒が存在しない時代、鉱石触媒の重要性は大きかったということだろう…。


【③】最後に、例3として地上以外の宇宙における有機合成系についても整理していく。宇宙で合成された有機化合物や、宇宙で発生した生命の芽胞が地上の生命の起源となったとする「パンスペルミア説」は、少なくとも炭素質コンドライト隕石による有機物の供給が地上生命の誕生に大きく寄与したという点において正しいことが証明されている。


 隕石によってもたらされる有機化合物(隕石有機物)の具体例としては、DNAとRNAの合成に用いられる全種類の核酸 (アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル)や塩基対、DNAとRNAの合成に用いられる糖 (リボース)、単純構造のアミノ酸 (アラニン、グリシン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン酸、グルタミン酸等)、多環芳香族炭化水素等が挙げられる。いずれも、地上で自発的に生成可能な有機化合物だが、地上に存在した初期の有機化合物の多くは地上が冷えた後に着弾した炭素質コンドライト隕石に由来するものだった。 


 地球に衝突する隕石の大部分は太陽系内部の近場を周回していた小惑星だった。先にも触れたが、原始太陽の周りに形成された円盤状の星雲内では、重たい元素ほど太陽の近くを周回し、軽い元素ほど太陽から離れた場所を周回する。炭素は比較的軽い元素なので地球よりも外側の軌道に多く分布していた。


 例えば、岩石惑星である火星とガス惑星である木星との間にはかなりの距離が空いており、その間には炭素塩鉱物に富んだメインベルトと呼ばれる小惑星帯が形成されている。さらに、太陽系外縁には、カイパーベルトとよばれるドライアイスやメタン、アンモニア、水などの揮発性物質の凝縮物で構成された天体の集合帯が形成されている。

 

 これらの軌道に存在する小惑星等は様々な要因で軌道変化することが知られており、その過程においてカイパーベルトのドライアイスがメインベルトの鉱石と合体し、多量の炭素塩鉱物が太陽の光エネルギーや太陽系初期に存在した多くの放射性同位体による放射線エネルギー、鉱石の触媒活性等を媒介して多種多様な有機化合物に変換された後、最終的に地球へと着弾した。


 小惑星等が周回軌道から外れる要因としては、小惑星の質量変化の影響、小惑星同士の衝突による影響、周辺の天体やダークマターの重力の影響等が挙げられる。


【④】その他、惑星由来の欠片が地球に隕石として飛来することもあり、月隕石、水星隕石、金星隕石、火星隕石などと呼ばれる。太陽系外や銀河系外に由来する物質が超新星爆発の影響等で太陽系に到達し、隕石となって地球に飛来することもある。実際、天の川銀河を構成する多くの元素は銀河系外からもたらされている。


 混み入った内容故、相当雑に端折ったにも関わらず整理が長くなってしまったが、生命の誕生エピソードは僕が考えるよりも遥かに奇跡的で壮大だったという点だけはまぁなんとなく微妙にそれとなく理解できたような気がする…。


 生命の誕生を支える要素は余りにも膨大であり、言わずもがな今回整理できた要素はほんの一部に過ぎない。理解できた気になるのは早計が過ぎるが、専門家並みに全ての要素を深堀し過ぎても僕の理解とやる気が追いつかなくなってしまう…。


 とりあえず、最低限の下地は整ったということにして、次は要点である原始生命の誕生について早々と整理していくことにする。

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