Episode 22. 原始地球形成
原始地球の形成以降の話については、ミクロレベルの世界ほどイメージし難いものではなくなるものの、目に見える重要な要素が激増していくので多少煩雑にはなってくる。有機生命誕生のぶっ飛んだルーツを知る上でも可能な限り整理しておくべきだろう。
以下、時系列に沿って要点を簡単に整理する。
【①】ダークマターの重力によって天の川銀河の中心に巨大な恒星が生まれ、これが超新星爆発を起こすことで構成内部で合成された重たい元素 (岩石成分や鉱石成分)が銀河内にばら撒かれた。それらは他の恒星の重力に引き付けられ、恒星周囲の周回軌道に乗り円盤様を成した。
原始太陽の周りにも同様にガスや塵からなる円盤が形成された。円盤の中ではガスや塵の衝突が繰り返されることによって徐々に微惑星が形成され、最終的に既存の太陽系惑星へと進化した。
円盤の中では、ガスや塵の重さ・遠心力に応じ、各々の周回軌道が特異的に定まる作用が働く。例えば、重たい元素 (岩石成分、鉱石成分)は重力相互作用で太陽に強く引き付けられ、太陽の近場を周回する。結果として、太陽から距離が近い水星、金星、地球、火星は岩石惑星(地球型惑星)となり、太陽から遠い木星、土星は巨大ガス惑星(木星型惑星)として形成された。
なお、天王星、海王星は氷惑星(天王星型惑星)と呼ばれているが、太陽の円盤が消失した後に別のルートで形成されているため、特殊な組成で構成されている。
【②】およそ46億年前に形成された原始地球は、ケイ酸塩と金属が入り混じった組成からなり、当初は水も炭素も存在しない状態だった。これらの成分の多くを地上にもたらしたのは隕石衝突、天体衝突(小惑星、彗星)だ。
隕石の分類は複雑だが、岩石 (Fe2SiO4、Mg2SiO4等)を主成分とする石隕石、金属 (Fe-Ni合金)を主成分とする鉄隕石、岩石と金属の混合物である石鉄隕石の3タイプに大別される。石隕石についてはさらにコンドライト(Fe-Ni合金の粒を含む)とエコンドライト(金属粒を含まない)に中区分される。これら隕石の地球への落下頻度は、コンドライトが約80%、エコンドライトが約10%、石鉄隕石が約2%、鉄隕石が約5%と試算されている。
一般的な隕石であるコンドライトには、現在、地上に存在している水を始めとする多種多様な化合物が含まれており、普通コンドライト(コンドライトの約90%)、エンスタタイトコンドライト(コンドライトの2%)、炭素質コンドライト(コンドライトの5%未満)等々に小区分される。注目すべきは炭素質コンドライトで、水や炭素の含有比が高い他、有機生命の形成に必要な有機化合物(糖、アミノ酸、脂肪酸、核酸、リボース、ピリミジン、多環芳香族炭化水素、グラフェン・グラファイト等)を地上にもたらした。
原始地球が隕石の多重衝突に晒されている時期は「初期重爆撃期」と表現される。隕石の衝突時には膨大な熱が発生する。これは、石をハンマーで叩くと打点が熱を帯びるのと同じ原理で、打点の原子・分子が外力を得て振動 (熱運動)するためだ。この熱によって隕石中の水分が気化し、地球の表面は水蒸気ガスで覆われた。
その結果、原始地球の熱は、エントロピー増大の法則に従って宇宙空間に拡散され難い状態・冷め難い状態になった。曇りの日や大気中の温室効果ガスで放射冷却が起こり難くなるのと同様のイメージだ。これにより、原始地球の表面は一面マグマの海と化した。
マグマの海の中では、密度・重さの違いに従って比較的軽い岩石成分は表層に移動し、比較的重い金属成分は下層へと移動する。こうした移動には、位置エネルギーの解放による発熱が伴う。イメージし難いかもしれないが、原始地球の重力圧を一点に受ける中心点には最も強い重力が発生する。これにより、原始地球の構成成分は中心に向かって引き付けられる。高所から重たい物質が地面に激突して打点に熱が発生するのと似たような理屈で、中心点に引き付けられ衝突した元素が地球内部で発熱を引き起こした。
これにより、地球は表面のみならず内部までマグマ化し、結果として重たい成分は中心に集まり、軽い成分は表層に集まって、コア (内核、外核)、マントル、地殻の四層構造が形成された。地球の中心に位置する内核は鉄を主成分とし、極めて高い重力圧により超高温でありながらも溶融していない固体の鉄合金で構成される。一方、外核は内核と同様に鉄を主成分としているが、重力圧が内核ほど高くはないため液状化した鉄合金から構成される。
外核の液体金属は地球の自転に伴い対流することで電流を生み出し、電磁誘導によって地磁気を生み出す。地磁気は、有害な太陽風や宇宙線から地上の化合物を守るバリアとして機能し、地上における有機生命誕生の重要な礎を築いている。
マントルは当初、鉄とマグネシウムが豊富なケイ酸塩岩石で構成されており、固体の状態を維持しながら、圧力によって生じる熱で流動可能なレベルの延性を持っていた。これらは後々、惑星衝突の熱や核物質の熱が加わることで、地震活動で有名なプレートテクトニクスを引き起こすレベルの流動性を獲得していった。
【②】ある時、マグマ状態の原始地球から大量のマントルが剥ぎ取られ、結果として地球の岩石成分を主成分とする惑星「月」が形成された。月の特徴としては、地球のような金属核を有さず、地球の81分の1という衛星にしては珍しい巨大な質量を持つ点が挙げられる (同様のプロセスを経て形成される子天体の質量は数千分の一以下というのが通例)。
例外的ともいえる巨大な質量を月が有している考察として、地球から一度に多くのマントルがごっそり剥ぎ取られた可能性が示唆され、有名な「ジャイアント・インパクト(巨大衝突説)」が提唱されるに至った。火星大の大きさの原始惑星 (テイア(黒き月))が絶妙な角度で原始地球に天体衝突して月 (白き月)が生まれたというアレだ。
だが実際、地球を破壊しない衝突角度の絶妙さ、衝突後の地球に見受けられる影響の小ささ、衝突後のテイアの行方、月に含まれる地球由来成分の膨大さ、太陽系の他の天体で見受けられる天体衝突の事例等々を考慮した際、テイアには及ばないレベルの微惑星の複数回にわたる衝突で月が生じたとする<複数衝突説>の方が現実的であるとも言われている。実際、それは正しいらしい。
黒き月がそもそも存在しなければ、汎用人型決戦兵器の人造人間も不要の産物になってしまうのだが…。いずれにせよ、地球という例外的な惑星が形成されたこととセットで、月という例外的な衛星が形成されたという、確率論を無視した偶然の連鎖による不可思議な結果に差異はない。欲張り過ぎだと思うが…気のせいだろうか。
実際、月の特徴的な巨大質量は地球に様々な影響を与えており、地球環境と切り離せない関係性を築いている。例えば、隕石が衝突しまくっていた原始地球の自転速度は今よりも相当速く、ピークで1周5時間の時もあった(ちなみに、この時期の隕石の衝突で地球の自転軸は23.4度斜めに傾き、後の地上において北半球と南半球に四季が生まれた)。そこに、月の重力が地球の自転にブレーキをかけることで現在の1周23時間56分まで自転速度が低下するに至った。
速過ぎる自転は、コアやマントルの対流、海水の対流、大気の対流に多大な影響を与える他、地上の物体にかかる遠心力が増大して重力の影響が小さくなる。これらの要素は、地上に有機生命を誕生させる上で強すぎても弱すぎても好ましくない。とりわけ、速過ぎる場合においては地上は地獄環境になる。また、昼夜の長さについても、気温変化や光合成、体内時計 (概日リズム)等々、地上生命の進化に多大な影響を及ぼす要素であり無視できない。
つまり、月が無ければ確実に「今」も無かったということだ。
月は当初、地球から約2万kmの位置に形成され、その巨大な質量にかかる遠心力によって時間経過に伴い地球から徐々に遠ざかり、結果として現在の約38万kmに至った。この絶妙な距離は、現在の地上において太陽が完全に月に覆い隠される皆既日食現象や、太陽の縁がわずかに隠されずに環状に残る金環日食現象を引き起こす要因となっている。
このような偶然の一致に神の存在を見出す人間が太古の昔には大勢いた。だが、リサ曰く、このような視覚的に解りやすい偶然の一致の類は、Xによる「神っぽい存在がいるかもしれないよアピール」に用いられている場合が多々あるのだという。
どうやら、僕達の地球が誕生する以前、似たような学習環境を別の場所で創造した際に色々とあったらしい…。神的な裁定者が存在し得るという意識は、知的生命体の集団に一種の平和秩序をもたらすが「罰する神などどうせいない。自己中心・自民族中心で好き勝手に何でもやって問題ない。他人・他人種・他生物など別にどうなっても構わない。それがこの世の摂理だ」という動物的な意識下では、知的生命体はどこまでも際限なく無秩序で独善的で愚かで残酷でぶっ壊れた存在になるという。
現代に生きる人間でさえ、カオスな風潮や文化、貧困や犯罪が蔓延するコニュニティーにおいては簡単に際限なく堕落する。例え、恵まれた環境下で育ったとしても、適切な教育や自己学習を怠れば簡単に理性の欠如したモンスターに成り下がる。それが人間という未熟な動物の本質らしい。
他動物と同様、人間もバチクソに欠陥だらけということだ。確かに…生前にはアニメや漫画、映画やドラマの影響でアホみたいに自分達を美化していた時期があったが、今思うと残念ながら思い当たる節が多々あり過ぎて困る…。美化もある意味で自然崇拝と同様、洗脳・シビリアンコントロールの一種として平和秩序の構築に一役買ってきたのだろうが、一方、破壊工作員で満ちた陽皇国においては愚民化教育や内部侵略の現実を知られないためのフェイク・カモフラージュに専ら用いられていた節がある。
そんな醜悪な者達をXがどう扱うのかは気になるが、一歩間違えれば自分も身勝手な人殺しや残虐非道な独裁者になっていたかもしれない身として、あまり期待しない方がいいかもしれない。死後世界で何が起ころうが、生者には知る由もなく、現状がそうであるように何の抑止力にもなり得ないのだから…。
「んーまぁ、詳細は教えられないけど、少なくとも加害者は被害者と同等以上の物理的体験・精神的体験を強制的に課されることになるね。これは被害者の痛みを追体験すればよいという単純なものじゃなく、理性を欠いた多くの加害者にとっては底なし沼にも等しい課題になり得る。りっ君が加害者に対して暴走するのも嫌だから、こちらの世界にも秩序を得るための相当なペナルティが存在するということだけ教えておくね♪」
僕の心理を勝手に読んだリサの助言は相変わらず意味深だ…。
かなり脱線したが、そんなこんなで原始地球と月が完成し、マグマの熱で隕石中の成分が気化して原始大気を形成した。その後、隕石の衝突頻度は徐々に減り、地球は少しずつ冷めてマグマから陸地が作られていった。同時に、大気中の水蒸気は凝集して雨となり、巨大な原始海洋を作り出した。相変わらず大雑把な整理になったが、隕石に関する諸現象ついては後の生命誕生に影響する部分が多いので補足整理が必要だ。
地上の環境形成と生命誕生について整理する前に、先ずは隕石と有機生命の基材となった有機化合物の由来・合成経路等について補足していく。