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Episode 21. 宇宙開闢(補足③)

「ダークエネルギー」と「ダークマター」…中二病的かつ似通ったネーミングから屡々混同されがちだが、両者は全く異なる概念の代物だ。


 ここでいう「ダーク」とは、人間が作り出す光学的・電気的な検出装置では直接的に検出することができないという意味合いが込められている。


 多くの場合、ミクロレベルのターゲットを扱う既存の検出装置はターゲットとの直接的・間接的な電磁相互作用を必要としている。間接的な事例で言えは、ターゲットが発する光・電磁波を検出する方法、ターゲットに光・電磁波を照射して反射光や透過光を検出する方法が挙げられる。直接的な事例で言えば、ターゲットがもともと有する電荷・磁気を検出する方法、ターゲットに電荷・磁気を付与して検出する方法が挙げられる。

 

 当然だが、電磁相互作用を応用した検出装置にはスペックに応じた検出下限が存在し、一定以上の強度の電磁相互作用でなければベースのノイズと見分けがつかず、ターゲットを検出することはできない。大規模な検出系やシグナル倍増系を建設できるのであれば検出下限の問題はある程度まで克服できるが、そもそも全く電磁相互作用しないターゲットであれば検出下限以前の問題となる。


 先にも述べてきたが、この世界で人間が直接的に観測可能な物体、エネルギー形態、情報形態は全体の5%にも満たない状況だ。メタ的な見方をするなら、この世界の大部分は人間に対して秘匿されているとも言える。


 そのような圧倒的少数派の立場においては、宇宙の物理モデルを完結するために「ダーク」の概念を積極的に導入せざるを得ない。裏を返せば、この宇宙には未知の粒子、未知のエネルギー、未知の相互作用、未知の荷量、未知の設定情報がかなりの数存在しているということになる。それらの裏設定は僕達と無関係ではなく、どこかで大小の影響を被っている可能性がある。


 例えば、彗星がダークマターの重力相互作用の影響で周回軌道から弾き出され、地球に衝突する事象等々。ダークの要素が通常物質世界でしばしば見受けられる奇跡ともいえるような偶然の現象を引き起こす確率変動の原因になっていても不思議ではない。実際、リサ曰く、ダークの要素はXが自然法則の確率操作を行う際の重要なツールでもあるらしい。


 主題に戻る。


 ダークエネルギーは、狭義には宇宙空間を加速膨張させる反重力的な斥力を発生させる未知のエネルギーを指す用語として用いられるが、広義にはそれ以外の未知のエネルギー全般を表現する用語としても用いられる。 

 

 前者の場合、宇宙の72%を構成するエネルギーとまで言われているが、エネルギーの源や斥力の発生メカニズムは全く分かっていない。ただし、ダークといえども、アナログ的な物理法則にある程度従うものであれば、既存の物理法則を参考にある程度の推測を立てることは可能だ。


 これまで見てきた相互作用の理屈で攻めるなら、当該ダークエネルギーについても影響を媒介する謎の粒子が存在しており、真空に存在する粒化・波化に至らない空間単位・超ひもと何らかのダークな荷量情報で紐づけされることで空間単位の間に斥力を発生させていることが可能性の一つとして挙げられる。


 予想される性質としては、対象間の距離が近づくほど重力よりも影響が弱くなり、距離が離れるほど重力よりも影響が強くなること。宇宙開闢以降の経時変化を経ても媒介粒子が希薄にならず、無際限に強化される斥力を実現できること等が重要となる。


 だが一方、対象間の距離が離れるほど強まる相互作用というものはバネやゴムのように影響範囲が極めて限定的であることが通例で、粒子が媒介する相互作用の影響にしてはアナログ的にイメージし難いという問題もある。加速膨張のための特殊なエネルギーが絶えずどこからか供給され続けていると言われるのは、そのような問題に拠る。


 考えられる可能性としては、斥力の影響を媒介しているのが粒子ではなく量子もつれ的情報伝達機構である場合や、真空エネルギー(ゼロポイントエネルギー)が空間に直接的に斥力を与えている場合が考えられる(例えば、空間単位が熱運動的な現象を起こして互いに激しく弾き合うことで空間が拡張している等)。


 前者のデジタルチックなシステムは便利だが安易に持ち出せないという難点がある。後者の場合、エントロピー増大の法則によって宇宙空間に拡散したエネルギーや、ブラックホールから輻射される粒化・波化に満たない微小なエネルギー(ソフトヘア輻射・零エネルギー輻射)が空間の加速膨張に必要となるエネルギー源の一端を担っているとする説も提唱されており、実際、これは正しいらしい。


 つまり、物質世界で目減りしたエネルギーの一部が、空間単位の間に斥力を発生させ続ける原動力として用いられているということになる。


 もし仮に、空間の膨張に使われたエネルギーを物質世界に効率的に引き戻すことができるのであれば、通常物質世界のエネルギーの離散・減少をかなり抑制できるのだろうが、現状、そのような離れ業ができるのはソウルジェムを生み出せる謎のインキュベーターと魔法少女のコンビくらいだろう…。


 次いで、ダークマターの要点整理だが、先にも何度か触れてきたので重複する部分が多いかもしれない。


 ダークマターは、直接的に観測・検出することが不可能な未知の素粒子、またはそのような素粒子から構成される非通常物質を表現する用語として用いられる。これまで、様々な候補素粒子や、候補天体が提唱されているものの未だ不明点が多い。

 

 ダークマターは宇宙全体の26.8%を構成すると言われ、通常物質との単純比率で言えば約80%を占めている。通常物質と同様の理屈で様々な種類が存在するとされているが、注目を集めている主要なものは電荷を持たず、大きな質量を持ち、強力な重力の発生源となることから、星形成や銀河形成の必須要素として位置付けられている。


 銀河形成に関しては、現在、観測可能な星や銀河の分布はクモの巣のような網目構造になっていることが知られているが、その理由はダークマターが宇宙空間において、網目状の構造物 (コズミック・ウェブ)を形成しているからに他ならない。そのような構造物に通常物質が重力相互作用で引き付けられることで効率的に星が形成され、銀河が形成されるに至った。


 ダークマターがそのような網目状の構造物を形成するメカニズムには空間の膨張が大きく影響していると推測される。ビッグバンにより宇宙が誕生した後、初期の宇宙空間において粒子の密度分布は完全に均一なものではなかった。粒子の濃度が濃い場所もあれば薄い場所もあり、濃度が濃い場所では質量に応じた重力の影響で空間の膨張速度がやや遅延した。とりわけ、ダークマターの粒子群は質量が大きかったので空間の膨張にムラを生じさせる要因となった。


 粒子群の周りの空間が膨張していくと、粒子群自体は周りの空間にどんどん圧迫される形で膜状に引き延ばされていく。膜状に引き伸ばされた粒子群どうしが交差すると粒子密度が濃い線状帯ができる。線状帯は強い重力を発生させるため、粒子群は線状帯に引き寄せられてフィラメント構造を形成する。次いで、重力相互作用でフィラメント同士が交差し合うと高密度の粒子を含む節 (ノード)ができる。節は強力な重力で粒子を集めてダークマターハローとなる。そこに通常物質が引き寄せられ、星が形成され、銀河が形成されるということらしい。


 現在、ダークマターは銀河の回転速度等の数学的な試算や重力レンズ効果を応用した間接的な分布推定法により、その存在が強固に示唆されている。ことさら興味深い観測事例としては弾丸銀河団の形成過程をモニタリングした観測実験だろうか…。


 衝突前の二つの銀河団に含まれるダークマターの粒子群同士が銀河衝突時に接触し合った際、一体どのような挙動を示すのか。重力レンズ効果を介してダークマターの存在領域をAIで可視化する手法を用いてモニタリング実験が行われた。その結果、両者のダークマターの粒子群は互いに衝突することなく、まるでゴーストのように素通りした。この現象は、ダークマター同士でさえ重力相互作用のみで互いに相互作用することは難しいという事実を示唆している。


 補足整理としては大体こんなところだろうか…。


 ミクロ世界の物理を細かく掘り下げて察することは多々あった。最小単位と呼ばれる何かには膨大な種類の情報がエネルギーという形態で設定されているが、それらを獲得し体現できるような内部構造を考えるとやはりデジタルを想定した方がイメージしやすく、むしろ現実的ではないかとも思える。実際、素粒子には量子もつれ的なデジタルチックな原理が働いているわけで、僕の目の前にはシステムの管理人がこうして堂々と存在しているのだから…。


 宇宙の種に与えられた一塊の秩序あるエネルギーが、物質世界を見事に構成するだけの細部にわたる全ての設定をバチっと一発で決め打ちできたことも正直どうかと思う部分だ。人間から見ればそのように見えるだけだという意見もあるが、まとまりあるエネルギーは秩序からカオスへと向かうことが通例であるはずの世界において、そのような神がかり的な偶然が見過ごされていいものだろうか…?


 無論、ダークな要素が偶然を必然レベルにまで高めていることも十分あり得るが、アナログ的な物理現象にはやはり限界がある。正直、既定の自然法則の中で確率を操作できる存在がいる可能性に目を向けない方が不自然とも思えてしまうことが多々ある。


 「いやぁ~偶然の連鎖ってすごいよね。まぁ、当時と今とじゃ状況が違うし、時間のスケールも相当大きいからね」


 リサが嘯く。皮肉だろうか…。だが、彼女は人間側の主義・主張を代弁しているに過ぎない。


 それにしても、ミクロレベルの世界の話を理解するには非常に骨が折れた。今後、マクロレベルの世界の話になってくると大分楽にはなると思うが、どこまで掘り下げればいいものか…。

 

 難解な課題を前に、我に返ってふと思うところがある。無知で未熟な自分を変えたいという大義で始めた学習だったが、僕は結局、深遠な真理について思考を巡らせることで自分が抱える現実、不安や恐怖・悲しみや絶望を単に紛らわせたいだけなんじゃないだろうか…。無知のまま不都合な現実を見て見ぬふりをすることと何も変わらないんじゃないだろうか…。

  

 「それは見方にもよると思うけど、少なくともりっ君は矛盾してないんじゃないかな。不安や恐怖を正しく扱うためには理性が必要になる。理性を培うためには理を学ぶ必要がある。子供から大人への成長と同じで、感情や幻想に悪戯に振り回されない高度な知性体に至るためには理を学び、理性を得るプロセスが大切なんだよ。それは結果として保身…自分を護ることにもつながる。鼻から有耶無耶にして紛らわせることと、対策して克服しようと努力することではニュアンスが大分違う。少なくとも後者は実効的で、様々な愛を含んでいるように思う」  


 ああ…そうか…。そうかもしれないな…。


 学びを得たいと願う僕の意志は、僕のオリジナルの意志、もといXの意志でもあるのだろう。 

 このシステムの主目的の一つはやはり「そこ」に帰結するようだ。


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