紛い物の聖女
長年、村で聖女をやってきた私にはわかる。
私が、紛い物でしかないってことを。
ある日、村に一人の女性がやってきて、聖女であると名乗った。
しかしこの村にはすでに聖女がいた。私である。そのため、村の人々は彼女を偽物であるとして迫害した。
私は知っている。私だけが言える。彼女こそが本物の聖女様であると。
私は彼女を迎えに行った。
彼女は、湖のほとりでひとり、座り込んでいた。
「ねえ、私貴女が聖女であることを知っているわ」
すると彼女はゆっくり顔を上げた。
「村の人たちが間違っているの。だって、この村で聖女をやっている私は、偽物なのだから。だから、私の代わりにこの村に来てちょうだい」
彼女は目をしばたかせた後、ゆっくり微笑んだ。
「今の私には、貴女が聖女様のように見えますよ」
「いいえ、私は偽物よ」
「この村には貴女がいるから、私は必要ないの。村の人たちは貴女の素晴らしさを知っているのよ」
彼女のそれは善意だったのだろう。
たしかに村人たちは私を好きでいてくれた。しかし同時に私は、どこか居心地の悪さも感じていた。
私は本物ではないのに。
彼女、聖女様は村を後にしていった。
二度とない出会い。それなのに、何も変わらなかった。
ああ、私はいつまで村人たちを騙し続ければいいの。
聖女様、私は貴女にも救われないのですか。
偽聖女は今日も村人たちから慕われる。