短編
目を開けるのが、酷く億劫で。
そういえば自分は泣いていたんだと思い出した。
「ぶっさいくな顔」
鏡の中の女が笑う。
本当にね、と返事をするように。
「……玉子焼き作ろう」
フライパンにサッと油を回す。
強火で、輪切りにした魚肉ソーセージを半分加えて。
案の定、まとまりのない玉子焼きの出来上がりだ。
あちこち崩れてて全然美味しくなさそう。
でも、これで良い。
「はい。父さんの分」
仏壇に玉子焼きを供える。
線香をあげて、手を合わせる。
「頂きます」
玉子焼きはやっぱり微妙だった。
記憶の中の味より少しだけ美味しい。
「変なの。作り方は同じなのに、ちょっとだけ違う」
父さんの方が美味いだろ?という声が聞こえた気がした。
「……………………」
食べたくても、もう食べられない。
たぶん、あの味が世界で一番好きだった。
「あーあ。もっと父さんの料理、食べとけば良かったな」
きっと、これから何度もあの玉子焼きを食べたくなる。
その度に私は少し失敗した玉子焼きを食べるのだろう。
そして、やっぱり微妙だとガッカリするのだ。
……だけど。
「私の玉子焼きの方が美味いから!」
言ってから、なんだかスッキリした気持ちになる。
大丈夫。
私はもう上を向いて歩いていける。