097_アーティファクト
ダールは暗い森の中を歩む。
標的である継ぎ接ぎ男を探し、臆することなく暗闇を進み続ける。
その時だ。
近くに生えていた樹木に向かってダールが剣を投擲すると、突如として襲い掛かってきた強烈な稲妻が樹木に突き刺さった剣へと吸い込まれていった。
「雷の類か」
稲妻が飛んできた方向を見据えながら、金属で作られた重い鎧を脱ぎ捨てる。
国から与えられたものを捨てるのは抵抗を覚えるが、鎧を着ながら戦えるほどの余裕はないという判断だ。
暗闇の奥から男の声が聞こえてくる。
「あの小娘といい、なぜこうも容易く防がれる。人間が反応できるような速度ではないはずだが」
敵の位置を把握したダールは突き刺さっていた剣を抜いて走り出す。
「少しくらいは話を――」
「聞くか!!」
炎のように赤く輝く瞳は男の姿を捉え、迷いなく切り掛かる。
そして男は後退――ではなく前進して距離を詰めてきた。
刃を振り下ろした後のダールに掴みかかろうとしている。
「だったら……朽ちてしまえ!」
男の左手が首を掴もうとしたとき、ダールは横へ跳ぶ。
そして、振り上げていた剣で男の腕を切り落とした。
「なぁ……にぃ……!!」
男は腕から噴き出す血など目にもくれず、地面に転がっている左手へと急いで右手を伸ばす。
しかし、落ちている腕はダールによって蹴飛ばされてしまった。
「貴様ぁ!!!」
吠える男の首に血で染まった剣が振り下ろされる。
素早い一太刀が男の首に入るが、胴体と頭が切り離されることはなかった。
「ちっ! 骨に引っかかったか」
処刑人ではない人間が一太刀で切り離すのは難しい。
腕であれば関節の位置がわかりやすいが、首は骨の隙間が素人目にはわからないのだ。
もう一度切り付けようと剣を振り上げたとき、男の鋭い瞳と目が合った。
「よくもぉ!!!!」
怒りに震えた声が森に木霊する。
男の右手から電気の弾ける男が鳴り出し、ダールは飛び退き男から距離を取った。
樹木の隙間を走り抜けるダールを複数の稲妻が追いかけるが、そのどれもが近くの樹木や地面へと吸い込まれていく。
「くそっ! なぜだ! なぜ当たらん!!!」
その時、木々の隙間から差し込んだ月明かりがダールを照らし、片耳に付けられた何かが光を反射した。
「なんだ? あれは?」
目を凝らすと、それは大きな宝石が垂れ下がったピアスだった。
さらに、耳たぶからは血が流れた形跡があり、ついさっき取り付けられたことは明らかである。
「そうか。アーティファクトの仕業だな」
この世界のアクセサリーには二つの意味を伴う。
一つは着飾るためのものであり、もう一つは魔法を刻み込んだアーティファクトと呼ばれるものだ。
稲妻を放ち続けながら、男はにやりと笑う。
「俺の攻撃が全て避けられていることを鑑みるに、他者の思考を読み取っているか、それとも――」
稲妻が止むと同時にダールの脚も止まる。
だが、次の瞬間、何かを察したダールは男に背を向けて走り出した。
「未来を予測しているな」
男の言葉と同時に、今までとは比較にならないほどの強烈な稲妻が森に落ちた。
あたり一帯が白く照らされる。
大地は揺れ、鼓膜が破れるのではないかというほどの衝撃波が森を駆け抜けた。
「いや、どちらでも構わないか。避ける隙間がないほど広範囲に雷撃すればよいだけだ」
倒れているダールの脚は痙攣していた。
「地面から流れた電流にでも感電したか?」
「くっ……!」
脚が自由に動かないダールは這って逃げようとする。
「無駄だ。諦めて死を受け入れろ」
男が空へ向かって右手を伸ばすと、立ち込めた暗雲の中で稲妻が行き来する姿が見えた。
「そうだな。アーティファクトだけは後で回収させてもらうとしよう」
男が腕を振り下ろそうとする。
が、何かに気が付いて急いで取りやめた。
「貴様……それは……」
「大切な物なんだろ。俺と一緒に炭にするか?」
ダールが手にしていたのは、切り落とされた男の左腕だ。
足の痙攣が収まったダールは立ち上がる。
そして、両者の動きが止まった。




