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094_世界に干渉できる力


 ひとしきり笑い終わると、ブレッグの方に馴れ馴れしく手を置いた。


「そうか、貴様も褪色者だったとはな。髪が黒いから気付かなかったぞ。それで、どこの世界から持ち出してきた『理』なんだ? よかったら、出身地を教えてくれないか」


「……答えられない」


「秘密、というわけだな。まぁいい。代わりに、もっと近くで『理』を使っている様子を見せてくれよ」


 ブレッグとシオンが共有していた最大の秘密と引き換えに、男の興味を引くことに成功したようだ。


 この状況を好転させられるかどうかは、ブレッグの手腕にかかっている。


 意を決したブレッグは口を開く。


「なぁ、一つ……取引をしないか?」


「ほぅ。言ってみろ。聞くだけ聞いてやろう」


 男の明るい声色から、確かな手ごたえを感じる。


 息を吐き出し、心を落ち着かせてからブレッグは提案した。


「お前の目的は教えてくれ。全面的に協力する。だから……彼女の命だけは見逃してくれ」


 ブレッグは男に背を向けているため、表情が全く分からない。


 しかし、どことなく雰囲気が変わったような気がした。


「くくく……面白いことを言う。俺の目的、か」


 ブレッグの視界に男の手が入ってきた。


「ほら、見えるだろ」


 フィオラから意識が逸れないよう、横目で継ぎ接ぎだらけの手をブレッグは見つめた。


 その手を一言で言い表すなら『不気味』そのもの。


 まるで、人種の異なる複数の死体から作り上げた人形のようだ。


 五本の指それぞれで肌の色、質感が異なる。


 さらに言えば、指の長さまで違うため、子供が手掛けた不出来な人形のような印象を受けた。


「褪色者の人体を収集して、俺の身体に移植してきた。こうするとな、複数の『理』が扱えるようになるんだよ。つまり、言い換えるなら『理』の収集家ってところか。そして、次なる収集物を求め、そこにいる小娘を追ってこんなボロ小屋まで足を運んだわけだが――」


「……違う」


「あぁ?」


「それは過程だろ。他人から奪い取った『理』を使って何がしたいかを教えて欲しいんだ」


 男は黙ってしまった。


 背後に立たれたままのブレッグは生きた心地がしない。


 重苦しい空気に耐え切れず、ブレッグは語り掛けた。


「お前の目的はわからない。だけど、褪色者から『理』を奪わないで目的を達成する方法もあるんじゃないか?」


「知ったような口を……」


「ただ適当な言葉を並べているわけじゃないんだ! 最初は敵同士でも、互いの目的を理解し合うことで協力できると思っている」


 出会ったときは敵だったシオンが、今はフィオラを助けるための協力者だ。


 フィオラをここまで痛めつけた男のことがブレッグは憎いが、それでも歩み寄ることが出来るかもしれないと心の底から思っていた。


「そこまで言うなら教えてやる。この世界からの脱出だ」


「脱出? それになんの意味が……」


「意味なんかただ一つに決まっている。この世界が退屈だからだ。生きていく意味が見いだせないんだよ」


 その言葉にはブレッグも少しだけ理解できた。


 この世界には失望したから、自分の望む世界を探して旅に出たいということなのだろう。


「それでどうする? 協力するか? この世界に出口となる孔を空けた結果、何が起こるかわからんがな」


「……わかった。協力する」


「おいおい。見え透いた嘘をつくなよ。この世界が崩壊するかもしれないんだぞ。そうしたら、貴様が守ろうとしているその小娘も死ぬかもしれない。なのに、なぜ協力する?」


「世界に孔を空けず、あんただけが外に出られる方法を考えるんだ」


「おぉー。それは妙案だな。で、そんな方法が見つけられる確証でもあるのか?」


「それは……」


 ブレッグが口籠ると、男は突然笑い出した。


「くはははは! ははは、いや、悪い悪い。安心しろ。貴様の望み通り、そいつの命は奪わないでおいてやる」


「どうして、急に……」


「俺が望んでいるのは世界に干渉できる『理』だ。小娘が持っている『理』は絶対に必要なわけじゃあない」


「本当か!?」


「あぁ。だが、代わりに――」


 男は再びブレッグの肩に手を置いた。


「この腕を俺にくれないか?」


 男は気味の悪い指立て、肩から腕へとなぞる。


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