091_あと一歩が踏み出せない
「腕と脚は復元できたわね」
「……」
シオンの喜ばしい報告に対して、ブレッグは返事を返せなかった。
二人が取り組み始めてから、既に六時間以上は経過している。
その間、一度も休息をとることなくフィオラの治療にあたっていた。
緊張感のおかげで眠気は皆無だが、気を抜いたら気絶してしまいそうなほど、ブレッグは精神的に疲労している。
「まだ続けられる?」
「あぁ。大丈夫」
この場にいる三人全員が苦しい思いをしているのだ。
ブレッグただ一人だけが音を上げるわけにはいかない。
「本当にもう少しだから。頑張ってね」
虚ろな瞳をしたブレッグが頷くと、シオンは再び『理』を発動させ、フィオラの身体が淡い光を放ち始める。
全てが順調に進んでいるように思えた。
幻を原型として再現された腕と脚は見事な出来栄えであり、継ぎ目がわからないほどきれいにくっついている。
臓器については直接見て確認することは出来ないが、同様に上手く再現できているに違いなかった。
あとは、フィオラが目を覚ますことを祈るだけ、といったところだ。
「ねぇ、フィオラにはなんて説明するつもり?」
すやすやと眠っているフィオラを見つめながら、シオンはブレッグに尋ねた。
突然の問いかけに意味が理解できず、ブレッグは聞き返す。
「何が?」
「今夜の出来事についてよ。絶対に聞かれるわ。『私が眠っている間に何があったの?』ってね」
――それもそうか。
『奇跡が起こって助かりました』なんて適当な嘘を言っても、信じてもらえるはずもなかった。
むしろ、フィオラは自分の命を救うためにどんな対価を支払ったのか、何を犠牲にしたのか、探りを入れてくるはずだ。
フィオラの性格をよく理解しているシオンに意見を求めるため、ブレッグはこう答える。
「……まだ考えてない」
「それなら、『わからない』で押し通しなさい」
「え? いや、絶対に疑われるだろ」
どう考えても悪手のように思えてしまう。
素直に信じることが出来ず怪訝な顔を見せると、シオンは自信満々に話を続けた。
「そうかもね。でも、深追いはしてこないはずよ。答えたくない人間に無理やり答えさせようとはしないから。この子は、対人関係であと一歩ってところが踏み込めないのよ。だから、友達が少ないわけなのだけれど」
――本当によくわかってるんだな。流石、フィオラが慕っていただけのことはある。




