089_共犯者
「じゃあ、最後に、フィオラの身体を再構築するための材料は? 崩壊しかけている本人の身体だけじゃ足りない気がするけど、気のせいじゃないよな」
単純に質量という観点で見ても、腕と脚がそれぞれ一本分足りていない。
シオンの発言を振り返ると、魔力から人体を作り出すこともできそうだが、そんな莫大な魔力量はブレッグにない。
「うふふ。大丈夫。それについても考えがあるわ」
寝ているフィオラの傍らにシオンは寄り添い、ベッドに腰かけるとそっと頭を撫でた。
「クリスタの魂を分けてもらう」
「……できるのか? そんなことが」
「クリスタが協力的ならね」
ブレッグは大きく息を吐き出す。
ここまでの話の中で不確実な要素しかなかったが、不可能だと言える要素もなかった。
それだけで、ブレッグが覚悟を決めるには十分だ。
「……わかった。ただ、絶対に再現出来るとは言わないからな」
「それでいいわ。私だって他人の身体を再構築するのは初めてなのだから」
悪魔との契約が完了した瞬間だった。
失うものの大きさに対して得られるものが不確実な、そんな契約。
いっそのこと、本物の悪魔との契約だったらどれだけ楽かとブレッグは想像する。
失ったものの分だけ、確実に得られるものがあるはずだ。
「それで、俺はどうすればいい?」
「こっちへ来て」
ベッドに座ったシオンが手招きする。
今更警戒する必要もなく素直に近寄ると、彼女は微笑んだ。
「実は、もう立ち上がることすら出来ないの。この身が朽ちる前に、あなたに会えてよかった」
シオンは誰に対しても毅然とした態度で接し、決して弱みを見せることはなかった。
そんな彼女が見せる儚げな表情。
その美しさはブレッグの心を揺れ動かす。
――これが、シオンの本来の表情なんだろうな。
照れている気持ちを隠すように、抑揚のない声でブレッグは応える。
「出会いに感謝するのも悪くないが、全てが上手くいってからにしたらどうだ」
「ふふふ。一理あるわね」
ひとしきり笑ったシオンは、残された方の――右手をブレッグに伸ばす。
それをブレッグの左手が包み込んだ。
無言で見つめ合っている二人は、互いの思考が透けているようだ。
シオンの身体が淡い光を放ち、細胞の一つ一つが細かな泡へと分解されていく。
「これであなたも共犯者ね。命を狙われるときも一緒よ」
「気が滅入る話はやめてくれ」
自分の身体の中にシオンを匿っていることが知られたとき、何が起こるかは想像に難くない。
良くて即刻処刑、悪ければ見せしめや拷問だってあり得る。
だが、それ以上に、
――一番つらいのはフィオラと敵対することだな。
覚悟を決めるということは、そういった未来が訪れたときに受け入れるということでもある。
「怖くなった? でも、今更やめることはできないから」
「あぁ、それでいい。続けよう」
「本当に、人っていうのは短期間でも成長できるものね」
宙を漂っていた光の泡がブレッグへと吸収されていく。
全ての泡が溶け込んだとき、シオンの姿は消え、ブレッグだけがその場に立っていた。




