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088_再構築


 引き込まれるようなシオンの黒い瞳を見つめ、真意を吟味していると、シオンは呆れ顔を見せる。


「それに、身体の主導権が誰のものになるかはわからないわ。あなたが主導権を握ればいいのよ」


 ――その話も信じていいものか。


 警戒を通り越して疑心暗鬼になりつつあったブレッグの心に、一つの疑問が生まれる。


「いや、待ってくれ。肝心の話をまだ聞いてない」


 手のひらを向けられストップをかけられたシオンは口をつぐむ。


「なんで俺たちが一つになるだけでフィオラを助けられるんだ? シオンの『理』が使えるようになったからって、フィオラのこの身体を修復することなんて不可能じゃないか?」


 シオンはただただ微笑みながら聞いていた。


 まるで生徒の抱える疑問に付き合う教師のように。


「なんだよ。間違ったことは言ってないだろ」

 

「そうね。私の『理』だけでは何もできないわ。でも、ここにいるのは私だけではないのよ」


「俺……か?」


「えぇ。ブレッグの力も貸してもらうってこと」


「俺に手伝えることなら何でもするけど……何が出来るっていうんだ? フィオラやシオンと比べたら本当に些細なことしかで出来ないだろ」


「ふふふ。一つだけあるじゃない。あれが」


「あれ?」


「忘れたとは言わせないわ。フィオラの幻影をもう一度作り出して欲しいの。私を殺した時みたいにね」


 二度にわたってシオンを騙した幻のことだ。


 フィオラと親しいシオンでさえ、幻を見抜くことは不可能だった。


 最後の一言に嫌味が含まれているような気もしたが、ブレッグは無視して答える。


「それは構わないけど」


「よかった。フィオラの身体を一度分解して、再構築するのよ。ブレッグが作り出した幻影に合わせてね」


「……は?」


「だから、寸分違わず瓜二つのフィオラを、あなたが作り出すのよ」


 にっこり笑うシオンに吊られてブレッグの口角が少しずつ上がる。


 もっとも、ブレッグの笑みは無茶な要求に対する嫌味が含まれてはいるが。


「いやいや。無理だろ。無理」


 左手を何度も振り、強く拒絶した。


 ブレッグが作り出す幻影はとても精巧に作られていると、自分自身も思っている。


 しかし、それは見かけ上の話だ。


「……もしかしなくても、内臓とかも再構築するんだろ」


「えぇ。でないと、そこだけ崩れてしまうでしょ」


 当たり前のことを話すようにシオンは表情一つ変えずに告げる。


 責任の重さからブレッグは動揺を隠せないでいた。


「正直言うと、そんなところまで再現できているか俺もわからないんだ。というか、仮に再現できたとしても、機能するかなんてさらに未知数だな」


「そうなのね。でも、やるしかないわよ」


 一歩も退かない様子のシオンとしばらく視線を交わす。


「代替案はないのか?」


「ないわね。私の『理』は簡単な物しか再構築出来ないの。例えば、人体を魔力というエネルギーへと再構築することは出来るわ。でも、その逆は不可能なのよ」


 シオンの手のひらに近付いた物質が分解され、シオンの身体へと吸収されていった光景をブレッグは思い出す。


「だから、人体を再構築するためにはお手本が必要になるわね」


「お手本っていうのは俺が作り出す幻影のことか」


 シオンは頷く。


 だが、ブレッグの疑問は解決しきっていない。


「今までシオンが延命していたのは? 自分の身体を再構築していたように思えるけど」


「あれを再構築とは呼べないわね。崩壊が始まった身体の部位を誰かからもらって補強していただけ」


 シオンの話に矛盾は見つからない。


 はじめから、ブレッグを騙そうとしている気持ちがシオンにないことくらい、彼女の態度からわかっていた。


 こうして問答を繰り返しているのも、覚悟を決める時間が欲しいだけかもしれない。


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