083_自分がやりたかったこと
光一つない暗闇の中にフィオラはいた。
まるで夢の中にいるようで、意識はぼんやりとしている。
痛みや疲労感から解放されており、辛いことは何もない。
その代わりに、全ての感覚を失い何も感じることが出来なくなっていた――聴覚を除いては。
風に揺られて葉の擦れる音をフィオラは感じ取る。
――もうすぐ死ぬのね。悔しいけど、私に出来る最大限のことはやったはず……よね。
少し考え、暗闇の世界でフィオラは眉を寄せた。
――ブレッグとか村の人とかが襲われないか心配だけど……ううん、大丈夫。継ぎ接ぎ男の狙いは褪色者みたいだったし。それに、私がいなくてもブレッグは一人で戦えると思う。
シオンと戦い生き残ったというだけで勲章ものだ。
少なくとも、逃げるという能力では突出しているものがあるとフィオラは考える。
――あれこれ考えても仕方ないわ。その時が訪れるのをゆっくり待つとしましょう。
今までの人生を思い返す。
幼少期から異世界の知識と膨大な魔力を保有していたフィオラは、困っている人を見つけては助けてきた。
その規模は次第に大きく名入り、最終的には国を、世界を救うようになった。
他者と比較すれば短い人生だったが、非常に濃密な時間を過ごしてきたとフィオラは思う。
思い残すことがあるとすればブレッグのことくらいか。
――あぁ、お別れくらいは言いたかったかも。きっと、悲しむわね。それから、約束を守れなくてごめんなさい。
魔法を教えるという約束を破ったことを、誰もいない空間で静かに懺悔する。
ふと、一人の女性の声が聞こえた気がした。
『これで終わり?』
幻聴に違いない。
だが、今際の際に聞こえてくるほど、フィオラにとって掛け替えのない存在の声だった。
目標であり、友達であり、家族であり――そして、最も強大な敵でもある。
「終わりよ」
どこからともなく聞こえてくる幻聴に淡々と言い返す。
『ふぅん。フィオラはそれでいいの?』
「良いも悪いも、今の私には何も出来ないわ。あとは死が訪れるのを待つだけ」
『でも、あなたは自分がやりたかったことを何一つ出来てないじゃない』
視線を上げ、首をかしげる。
「そんなことないと思うけど。自分の心の声に従って素直に行動してきたつもりよ」
『違うわ。学園生活とか、お買い物とか、恋とか。普通の生活を送ってみたいって、私に話してくれたことがあったでしょ』
フィオラは顔を少し赤らめる。
「昔の話だから忘れていたわ。そんなことを言ったかもしれないわね。でも、もういいのよ。今回できなかったことは来世でやるから」
『……そう』
幻聴から寂しさを感じたフィオラは付け加える。
「生まれ変わっても近くにいてね」
『それはわからないわ』
「……えっ」
『フィオラは諦めてしまっているけど、諦めていない人もいるのよ』
「どういうこと?」
フィオラの問いかけに対し、答えが返ってくることはなかった。




