080_迫る稲妻
男に突き刺さっていた木の杭は枯れ果て、ボロボロと崩れ落ちる。
支えを失った男は地面に落とされるが、すぐに立ち上がると服についた土埃を落とし始めた。
「その力、時間の流れを操る『理』でしょ」
「ご名答。小娘のくせに賢いものだ」
「娘なんて年齢はとうに超えているわ」
「そうか。だが、これでわかっただろう。俺と貴様では格が違うということを」
「えぇ。使える『理』も一つじゃないみたいだし」
「くっ……はは。そうだとも。だから格が違うのだ」
男は右手は雷を帯び、左手は周囲の空間を捻じ曲げる。
捻じ曲がった空間の中では猛烈な速度で時が流れているようだ。
「勘違いしないで。私が上であなたが下よ」
大笑いしていた男の表情が固まる。
「まだ言うか。では、手加減はもうやめだ。運よく腕が残ることを祈って殺すとしよう」
「……ふふ」
口元を手で隠しながら笑うフィオラに男は眉を寄せた。
「その笑いは諦めからか? それとも、気が狂ったか?」
「違うわ。私の腕を奪っても『理』は奪えないのに、無駄な努力をしていると思ったら可笑しくて」
「説明しろ」
「ダメよ。秘密」
人差し指を立てて唇にくっつける。
男は全身に血管を浮かび上がらせながら笑みを浮かべた。
「面白い。その言葉、嘘か真か確かめるとしよう」
両腕に帯びた二つの『理』はより強大に、激しさを増す。
稲妻は触れた物を焦がし、加速した空間は枯葉を巻き込み塵と化す。
前傾姿勢になった男は走り出した。
そして、迎え撃つフィオラが手にしていたのは握れる程度の手頃な石。
言い換えれば、稲妻で焼かれることなく、風化することもない物質だ。
思いっきり振りかぶって男へ投げつける。
風を切りながら男の顔へ向かって一直線に近づく。
が、途中で減速すると男の左手で受け止められてしまった。
「こんなもので俺を止められるとでも?」
男は身体を一回転させ、全く同じ速度で石を投げ返す。
フィオラは瞬時に蔦の壁を作り上げ防御する。
その壁を、石は容易く貫通した。
「えっ……?」
フィオラの顔を掠め、薄緑色の髪の毛が舞い落ちる。
蔦の壁は朽ち果て崩れ落ちていった。
「くくく……ははははは! 甘いぞ! その考え!」
この戦いにおいて、フィオラは初めて焦りを覚える。
飛び退いて距離を取ろうとするフィオラに対して、男は両手を前に突き出し稲妻を放つ。
紙一重のところで回避を続けるフィオラに、男は愉快な様子だ。
「当たったものの時を加速させる稲妻だ。受け止めることはできないだろ。特に、寿命の短い褪色者は数年の時が進んだだけで致命傷となる」
高速で襲い来る大量の稲妻は、着実にフィオラを追い詰めていった。
ついに、逃げ場を失ったフィオラの眼前に稲妻は迫る。
そのとき、態勢を崩したフィオラは転ぶようにして、間一髪で回避した。
「言ってなかったが、稲妻に近付くだけでも時は進むからな」
フィオラが視線を落とすと、右足の踝から下が灰となっていた。
進行は徐々に進む。




