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079_観察と結論


「これでも死なないとは。ここまでくると称賛するほかないわね」


 しゃがんだフィオラは片手をそっと地面に触れ、魔力を注ぎ込む。


 すると、男が伏している地面の下から木の杭を模した樹木が突き出した。


「がぁっ……!!」


 槍のように鋭いそれは、男の身体に無数の穴を空ける。


 フィオラは男に向かって駆け出していた。


 もう一撃、確実な死を与えるため。


 男まであと数歩、という距離まで近づいたフィオラは異変を察知する。


 反射的に身を翻すと、用心深く男との距離を取った。


「ごほっ……ごほっ……」


 男は咳き込む。


 その咳は、肺の機能が回復していることを意味した。


 フィオラは遠くから男の様子を観察する。


「どうして私の生み出した植物たちが死んでいくのか疑問だったけど、ようやくわかったわ」


 そう口にした彼女が観察していたのは、男に突き刺さった樹木の方だった。




 **********************************




 ブレッグが目を覚ましたのは夕暮れだった。


 丸一日寝ていたことに驚きつつも、怪我の回復には体力を使うものだと思い納得する。


 そして、信じられないことに、起き上がっても声を上げない程度には痛みが和らいでいた。


「レームが用意してくれた薬、本当に効果があるな」


 完治とは程遠い状態であるが、ブレッグの患部は驚異的な回復力を見せていた。


 腕に巻かれた包帯を見つめ、布の下で塗られている薬を想像する。


「魔草か。俺も扱えるようになりたいけど……まぁ、無理か」


 きっと膨大な知識が必要になることを想像し、ブレッグは早々に諦める。


「さてと、どうするか。もうひと眠りは出来ないし、かといってあと少しで日は落ちるし……」


 ブレッグの身体は満身創痍だが、それでも村の人たちの手助けをしたいという気持ちがあった。


 しかし、太陽と共に生活する村人たちは、あと一時間もしないうちに床に就くはずだ。


 ベッドに腰かけていたブレッグは考える。


 そして、結論を出すと立ち上がった。


「うん。お礼だけでも言いに行こう」


 ブレッグは村人たちからお礼を言われる立場ではあるが、逆に療養のために小屋を貸してもらってもいる。


 それに、残された村人たちの精神状態も心配だ。


 一緒にいて話を聞くだけでも、精神的な助けになることをブレッグは知っている。


 丸机の上に置かれていた一杯の水を飲み干すと、扉に向かい小屋から出た。


「まずは、村長の代わりを務めていたあの女性に……」


 目的地に向かって歩き出そうとしたとき、背後から視線を感じて立ち止まる。


 振り返ると、ブレッグの黒い瞳に一人の人物が映った。


「えっと、どうしました?」


 村人かと思い声を変えたブレッグだったが、次第にその考えを改める。


 そこにいた人物は全身を黒いコートで多い、フードで目元を隠していた。


 さらに、夕陽が逆行となり顔の輪郭もわからないため、性別すらも判別できない。


 何もわからないその人物からブレッグが感じた直感の印象は『無』だった。


「ここの村の人ですか?」


 そんなはずはないと思いつつも、話をしないと何も始まらないため、とりあえず声をかける。


 しかし、反応は返ってこない。


 諦めてこの場を離れようかと思った矢先、その人はブレッグに背を向けてどこかへと歩き出した。


 数歩進んでから振り向き、再び歩き出す。


 ついてくるように催促されているようだ。


「なんなんだ?」


 疑問に思うブレッグだったが、結局ついて行くことにした。


 ――敵ではないよな。罠へ誘き寄せるなんて、まどろっこしいことをする意味もないし。


 今のブレッグでは、例え相手が女性だとしても負けるだろう。


 ブレッグの殺害や誘拐が目的なら、フィオラがいないこの場が好機である。


 消去法ではあるが、助けを求められているのだと思うことにした。


 二人は夕陽に向かって歩き続ける。


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