077_嫌味な拍手
「呆気ない。不用心がすぎる」
姿を現したのは肌の色がバラバラな継ぎ接ぎの男だ。
にやりと笑いながら歩み寄る。
「いや、ここは礼を言うべきだったな。油断していたおかげで無駄な戦闘を避けることが出来たわけだ。胴体は炭化したかもしれないが、他のパーツは使え――」
夕凪によって煙が運ばれていったとき、男は言葉を噤む。
蔦で作られた壁が露わになったのだ。
中心が焼け焦げて炭化しており、煙を吐き出していた。
「邪魔をしないでくれる?」
壁の中からフィオラの声が聞こえると同時に、男の四肢を蔦が絡み取る。
「なんだと……! だが、所詮はこの程度!!」
男は継ぎ接ぎだらけの右手を壁の中にいるであろうフィオラへ向けた。
その瞬間、鋭く尖った太い枝が、男の腹部を背後から貫く。
「ぐっ!!」
男が振り向くとそこにいたのは二足歩行で立っている樹木だ。
今まさに、もう一本の太い枝を男へ振り下ろそうとしていた。
「……あ」
大地を揺らすほどの強烈な一撃が男を叩き潰す。
胸部からは骨が突き出し、何かの臓器があたりに散らばる。
男の瞳から力が失われていく。
「ちょっかいを出してこなければ死なずに済んだのに」
蔦の壁の中で、フィオラは背中を向けながら告げる。
不意打ちした男と、ものともせず返り討ちにしたフィオラ。
両者の間には大きな格の違いがあった。
何事もなかったかのように、手にしていたハンカチを投げ捨て、エメラルド色の金属片を巨大な花に振りかける。
そして、地面に両手を触れると、枯れていたはずの花は輝き出し、みるみるうちに元気を取り戻していった。
それだけではない。
周囲の枯草も全てが色を取り戻し、鮮やかな緑色の光景が広がっていく。
「これで元通りね」
死んでいた山は生き返った。
シオンと対抗するために借りた力を返せたとも言える。
立ち上がったフィオラが帰ろうとしたとき、聞こえてきたのは間を置いた嫌味な拍手だ。
「お見事」
振り向いたフィオラは眉を顰める。
手を叩いていたのは、衣服を血で濡らしながらも怪我一つない継ぎ接ぎの男だ。
男を拘束していたはずの蔦や樹木は枯れて朽ち果てていた。
「以外ね」
「これがか?」
男は両手を広げ、自身の身体をアピールする。
服には所々穴が開いており、致命傷を負わせたのは事実のようだった。
不可思議な点といえばもう一つ、フィオラは魔法を解除した覚えがないことか。
しかし、そんなことは関係ない。
この男が何度立ち上がろうとも、その度に叩き潰せばよいだけだ。
「ここで引き返すのなら見逃してあげるけど」
「逆だ。この場で片腕を捨てていけば命までは奪わん」
上下関係を理解していないのか、男の言葉からは傲慢さを感じさせる。
男と会話をしていてフィオラはあることに気付く。
「もしかして、シオンの灰や遺品を盗んだのはあなた?」
「……何を言っている。そんなものを取ったところで、なんの価値があると言うんだ」
「変ね。あなたくらいしか容疑者はいないんだけど」
「残念だったな。当てが外れて」
「そうね」
冷たい風が吹き荒れる。
夜の訪れは近づいていた。
「ねぇ、もう一度聞くけど、本当に引き返すつもりはないの?」
「当然だ」
「さっきの一撃で勝ち目がないことはわかったでしょう」
「そうか? あれは余計な部位を損傷させないように手加減していたが」
「負け惜しみ」
「死にかけていた少女に言われたくない言葉だ」
きょとんとした顔のフィオラは、次にくすりと笑う。
「面白いことを言うわね」
「事実を述べたまでだがな」
「あぁ、そう。なら、身の程を知るといいわ」
男の周囲に茨の蔦が出現する。毒々しい色にびっしりと生え揃った棘。
見るも恐ろしい茨は瞬く間に成長し、大蛇のように太くてしなやかな鞭となった。
慈悲の欠片も感じさせない言葉を、男は笑って受け止める。
「そうでなくては」
言い終わるやいなや、全方位から鞭が振り下ろされた。




