076_不意打ち
フィオラは夕陽に照らされた森の中を歩いている。
背負ったバッグは大きく膨らんでおり、丸みを帯びていた。
「けっこう遅くなったわね」
と言いながらも焦った様子はなく、木々が生い茂る大自然の中をゆっくり歩き続ける。
全力で走れば瞬く間に村へ到着するが、決してそんなことはしない。
フィオラは森の雰囲気を満喫していた。
軽い足取りで散歩を続けていると、分かれ道に差し掛かる。
一つは整備された緩やかな下り坂。つまりは、村へと通じる帰り道。
もう一つは雑草によって道が細くなった上り坂だ。
「そういえば、街へ行くときは寄り道するの忘れいてたわ」
悩むことなく上り坂を選択すると、変わらない足取りで進み続ける。
やがて、開けた場所に出た。
そこは、シオンとの激戦を繰り広げた平地だ。
視界に入る全ての植物や樹木が枯れ果てている。
色彩の失われた世界で目立つのは、赤黒い血痕のみである。
たった二日前の出来事とはいえ、フィオラは思うところが色々とあり立ち止まった。
遠くから鳥の鳴き声が聞こえたとき、彼女は口を開く。
「感傷に浸るのは目的を達成してからにしましょう」
膝の高さまで生えた枯草をかき分け進む。
よく見ると、周囲には枯草が踏まれて倒されたいくつもある。
「騎士の人たちも足跡も残っているわね」
土地勘のない騎士たちが、この地へ辿り着けるかどうかをフィオラは心配していたのだ。
ぐるりと広い平地を一周し、一言。
「報告通り、やっぱり何も残ってないわね。まぁ、今は保留にしましょう」
もう一度、うろうろと歩き回ったフィオラはある物を見つけでしゃがみ込む。
「あった」
それはエメラルド色に輝く金属片。
シオンとの戦闘によって砕かれた長剣の欠片だ。
大小さまざまな大きさのそれを、一つ一つ丁寧に拾い上げる。
取り出したハンカチの上に並べると、布の四隅を摘まみ持ち運ぶ。
枯れ果てた巨大な花へ向かって歩いていたとき――突然、背後から巨大な雷撃に襲われた。
落雷の如き衝撃は山を一つ揺らし、茜色の空を僅かな時間ではあるが白で染め上げた。
一瞬にしてフィオラが立っていた場所は煙に包まれ、周辺には火花が散る。




