074_普段の三割
日が沈み始めた頃、デルセクタの報告を聞くために一同は小屋に集まっていた。
フィオラはベッドに、ブレッグは椅子に座っており、残りの三人は対面するように立っている。
フィオラたちは自分たちだけ座ることを拒否していたが、デルセクタから強く勧められ、押し切られて今に至る。
「申し訳ありません。シオンの死体も、継ぎ接ぎ男も見つけることが出来ませんでした」
頭を下げて謝罪するデルセクタに、その場にいた全員が慌てる。レームを除いて。
「大丈夫ですよ。その男も、騎士隊を見て逃げたのでは?」
「ですが、シオンの死体どころか、衣服も見つかりませんでした」
「それは……少し気になりますね。山風に攫われた可能性もありますが」
「明日も探してまいりますか?」
「いえ、大丈夫です。探したが見つからなかったと報告すれば良いだけですから」
「でしたら、私共は明日の朝にでも撤収してよろしいですか」
「はい。そうしてください」
デルセクタとフィオラの会話に、ブレッグは待ったをかける。
「まだ魔力が回復しきってないんだろ? もう少しこの村にいてもらった方が良くないか?」
「普段の三割程度だけど、もう十分よ。それに、デルセクタさんたちも忙しいし」
「そうは言っても……」
危機感を覚えているブレッグの肩を、昨日と同じようにデルセクタは触れる。
不思議と、彼の暖かい手の平は人を安心させる力があった。
「今のフィオライン様ですら、我々騎士隊の総力を優に超えておる。自身より弱い者たちから守られる必要はないだろう」
デルセクタは客観的に物事を判断できる人物であるためか、騎士隊を『弱い』と言い切った。
プライドを欠片も感じさせない発言にブレッグは驚くが、それも説得力を持たせるための発言であると納得する。
話は続く。
「姿を晦ました継ぎ接ぎ男は気になるが、騎士隊を見て逃げたと推測するなら問題はないはずだ。仮に奴がフィオライン様を襲ったとしても、軽く返り討ちに出来る」
「……わかりました」
「では、出立は明朝としよう。ダール、皆に伝えておいてくれ」
「承知しました!」
ダールの元気のよい返事が部屋に響く。
張り切りすぎかもしれないが、彼の大きな声に嫌な気持ちを抱くものなどいない。
「あ、そうだ。明日は私も近くの街に行ってくるから」
フィオラはにっこりと微笑む。
「何か用事か?」
「ほら、機関に色々と報告することがあるから。夕方までには帰ってくるわよ」
「了解。じゃあ、俺はゆっくり寝ていることにするよ」
行ったきり戻ってこないのではと思ってしまったブレッグは安堵する。
「ついでに何か買ってこようか」
「俺は特にいらないかな」
「うん、わかった」
フィオラが頷いたとき、レームが一歩前へと歩み寄る。
「フィオライン様、包帯を買ってきてもらえますか。この村にあった分はほとんど使い切ってしまったので」
「おい、レーム」
目上の人に買い出しを頼むなど言語道断とでも言いたげにダールは詰め寄る。
「なに? 足りなくなっているのは事実よ」
「それなら、俺たちが買いに行けばよいだろう」
「じゃあ、明日はあなただけこの村に残っていなさい」
ヒートアップする二人をフィオラは制止する。
「平気ですよ。気分転換も兼ね備えて買い物をしたかった気分なので」
ダールを一瞥したレームは、無言で『ほら見なさい』と言い返す。
「……失礼しました」
「気にしないでください」
微笑むフィオラに、今度はデルセクタが話しかける。
「フィオライン様。街まで行くのなら一緒に飛竜に乗って行きますか?」
「ありがとうございます。でも、それも必要ありません。寄り道しなければいけない場所があるので」
ブレッグは寄り道という言葉が気になるが、今聞かなくてもよいことだと判断した。
「では、本日はこのあたりで解散としましょう」
デルセクタの発言をその場にいた全員が承諾する。




