073_写真立てに映る男女
足早に小屋へと戻ってきたブレッグは一つの写真立てを手に取り凝視する。
ここはフィオラを看病するために使っていた小屋だ。
「突然どうしたの?」
後ろをついてきていたフィオラがブレッグの背中に声をかける。
「これ」
そう言ってフィオラに見せた写真に写っていたのは、若い男女の姿。
肩を寄せ合い、幸せそうに笑っている。
「いい写真ね。でも、これが何なの?」
「さっき、この写真に写っている女性を見つけて思い出したんだ」
フィオラは目を丸くしてブレッグの話を聞き入る。
「一か月くらい前、村長が俺を訪ねてきたことがあってね。話を聞くと、ある人の心を救って欲しいって依頼だった。若くして夫に先立たれたんだ」
「その人って……」
フィオラの問いかけにブレッグは頷き、写真を見つめる。
「ひどくやつれてしまっていて、今にも後を追うんじゃないかってくらいだったよ」
「可哀想ね」
「力になりたいとは思っても、生き返らせることなんて出来やしないし、心を癒す魔法なんて存在するかどうかも知らない。だから――」
ブレッグは目を閉じ、当時を思い出す。
「死んでしまった夫の幻影を作って彼女を騙したんだ」
「上手くいったの?」
「奇跡的にね。疲れ切っていた状態だったから、夢とかと勘違いしたんじゃないかな。なんにせよ、それからは少しずつ元気を取り戻していったよ」
「よかった……」
フィオラはほっと溜息をつく。
しかし、話はこれで終わりではなかった。
「この出来事は俺と村長だけの秘密にしたんだ。騙されたことに彼女が気付いたら、心を傷付けることになるかもしれないし」
「あ、話が見えてきたかも。村人の中に、その幻影を見た人がいたんでしょ」
「うん。そして、死者を生き返らせる魔法使いがいるという噂が流れたんじゃないか」
「つまり、異界と交信できる魔法使いなんて存在しないのね」
「そうだよ。当然、俺はそんなことできない」
フィオラは悲しんでいるのか、それとも怒っているのか。
ブレッグが顔色を窺うと、彼女はいつもと変わっていなかった。
「がっかりしてないのか?」
「しないわ。初めから望みは薄いと思っていたから。でも、ちょっとすっきりしたかも」
「なんで?」
「駄目なら駄目ってはっきり言われた方が、次に進むことが出来るでしょ」
「前向きなんだな」
「そんなことないわ。慣れてるだけ。今まで何回も手掛かりを見つけたけど、全て駄目だったから」
「……なるほど」
明るいフィオラとは対照的に、ブレッグの心は沈んでいた。
「シオンをこの村に呼び寄せたのは自分だと思ってるのね」
「あぁ」
自分に全ての責任があるとは言わない。
しかし、無関係だとも言えなかった。
フィオラはブレッグの方にそっと触れる。
「これは私たちの罪よ。無自覚な行動が招いてしまった結果」
言い返せないし、言い返す気もない。
「だから、より多くの人を救って贖うしかないと私は思う」
「……俺もそう思うことにするよ。大したことは出来ないけど、少しでもいいから誰かの力になる」
「一緒に頑張りましょう」
人は支え合って生きているのだと、ブレッグは初めて実感した。




