071_誰にも負けない気持ち
樹木から飛び降りたフィオラは歩いて近づいてくる。
一歩近づくたびに、ダールの顔から血の気が引いていってるようだった。
「どうしたの?」
「フィオラの過去の話を聞いてみたくなったんだ。というのも、ダールはフィオラの名前をどこかで聞いたことがあるみたいで」
「私の過去?」
フィオラが唇に指を当てて考えているとき、恐る恐るダールが話しかける。
「あのー、作業の邪魔をしてませんか?」
「大丈夫よ。残りはあの子たちが全部やってくれるから」
フィオラの優しい微笑みに安堵したのか、強張っていたダールの表情も解れていく。
そして、人差し指をピンと立てたフィオラは答えを導きだしたようだ。
「たぶんあれね。昔、私も軍に所属していたことがあったからよ。これでも一応は元帥だったの」
「「え?」」
予想外の過去に、ブレッグとダールは驚きを隠せなかった。
「私が元帥になったとき、同じく元帥だったデルセクタさんと出会ったわ。ふふふ、初めて会ったとき、私のことを隊員の子供だと勘違いして、アイスクリームをくれたのよ」
口元を隠して笑うフィオラに二人は言葉を失う。
そして、ゆっくりと口を開いたのはブレッグだ。
「フィオラは今でも若いだろ。昔って何歳のときなんだ?」
「確か……十歳の頃だったかしら」
ガシャンという複数の金属が地面に落ちたときの音が聞こえてくる。
それは膝を地面に落とし、放心状態のダールが着込んでいた鎧の音だった。
「十歳で……元帥……」
上には上がいるという現実を思い知らされたのだろうか。
何度も挫折を味わったことのあるブレッグはそんなことを知っているが、才能溢れるダールは違ったのだ。
「あー、でも、私の場合はちょっと特殊な状況だったから。名ばかりの元帥よ」
「だとしても……そんな若さでなれるものではありませんから」
ダールの言う通りだとブレッグは共感する。
軍隊の構造について何も知らないが、上層部に十歳の子供がいることなんて異例中の異例であることはわかる。
「ダールさんは隊長でしたよね。ということは、元帥を目指して頑張ってるんですよね?」
「……はい。その通りです」
「大丈夫、きっとすぐに元帥になれますよ」
微笑みかけるフィオラに、やや暗い瞳のダールは疑問をぶつける。
「なぜ、そう思うんですか?」
「私とかデルセクタさんが一番苦労してるのは、後任を見つけることなんです。そして、たぶんだけど、デルセクタさんはあなたを後任にしようとしてます。だから、努力を続けていれば、きっと総帥にだってなれますよ」
「そうでしょうか」
「はい。元帥だった私が保証します」
フィオラの言葉を受け取ったダールは立ち上がった。
「わかりました。努力します。誰にも負けないくらい」
「応援してますよ」
フィオラの笑顔が他人に力を与えることをブレッグは知っている。




