069_村への貢献
フィオラは目を細めながら首をかしげる。
「なに?」
「……お金、かかる? 魔法を教えてもらうのに」
「かからない、けど。そんなこと気にしてたの?」
「まぁ、一応」
「ふふふ、そっか。安心して、一銭も取らないわ。いえ、逆にお金を渡さないといけないわね」
予想外の言葉に今度はブレッグが首をかしげる。
「ん? どうして?」
「私と一緒にシオンを止めてくれたでしょ。機関に報告すれば、それなりの報酬が貰えるはずよ」
「金ならあまり困ってないから、貰わなくても……」
「貰っておいたら。私の授業料は高いかもしれないわ」
フィオラは小悪魔のように意地悪な笑みを浮かべている。
「金は取らないって、さっき言ってただろ」
「時価よ」
「……嘘だろ」
今は無料でも、今後は有料になるかもしれない。
確実に冗談であることはわかっているが、要するにフィオラは金を受け取らせたいのだ。
「じゃあ、ありがたく貰います。授業料に無くなるかもしれないけど」
「うん、懸命な判断ね」
そのとき、湿気を含んだ冷たい風が吹く。
日が昇ってから大して時間が経っていないため、肌寒く感じる。
しかし、寝起きのブレッグにとってはどこか心地よい冷気だった。
フィオラへと視線を送ると、彼女は朝焼けが残っている少し赤い空を見つめていた。
「何を考えているんだ?」
大人びたフィオラの横顔に、思わず問いかけてしまう。
唇の隙間からふぅと息を吐き出し、ブレッグの質問に答える。
「機関に所属するようになってから初めての休暇だから、何をして過ごそうかなって。というか、この世界に生まれてから、やるべきことが多すぎてまともに休んだことがないかも」
「フィオラは子供の時も働いてたのか?」
「孤児院にいたからね。子守に家事、今ほどではないけど忙しかった」
「……凄いな」
金が無くなれば働き、金が貯まれば休むのが一般的な生活だ。
一生の中で一度も休んだことがない人物はフィオラくらいだろう。
前世の記憶を持っていたために、幼い頃から大人に気を使ってしまったのかもしれない。
ブレッグが冒険者として苦しいながらも生計を立てていたときですら休暇はあった。
大きい仕事を片付けた翌日は惰眠を貪り、陽が傾き始めてから行きつけの店で食事をとっていたものだ。
「ちなみに、風邪を引いたら?」
「いつも以上に身体強化の魔法を重ね掛けするだけ。そうね、最後の休暇は前世まで遡ることになるかしら」
「過労で倒れなかったのは魔法のおかげよ」
「魔法のせいで休暇がもらえなかったんじゃ……」
「確かにそうかも」
ふふっと笑って済ませることが出来るフィオラの精神をブレッグは見習おうと思う。
「フィオライン様」
声のする方へ視線を向けるとダールが小走りで近づいてきていた。
レームはその後ろをゆっくり歩いている。
「隊の者たちから事情を聴いてまいりました」
ダールは立ち止まると、上司に報告するようにフィオラへ一礼した。
眉間に皺を寄せた彼の重い表情から、何らかの障害が発生していることは明らかである。
「何かあったんですか?」
「それが……埋葬するための棺桶が足りていないようでして。穴を掘ればよいとばかり思っていた私が浅はかでした」
「今から作るってことか?」
ブレッグの質問にダールは首を横に振る。
「木材も足りないから、まずは伐採から始める必要がある」
「なるほど」
山に囲まれたこの村では、樹木ならそこら辺にいくらでもある。
しかし、伐採から運搬、加工までやるとなると、かなりの手間がかかるはずだ。
「家族とかは一つの棺桶に入れるしかないんじゃない?」
そう提案したのは、今も歩きながら少しずつ近づいてきているレームだ。
「最悪の場合はそうするつもりだ。ただ、出来るだけ村人たちの要望には応えたい気持ちもある」
「日没までに間に合うの?」
「わからない。が、出来るだけのことはやりたい」
「ふーん。まぁ、私はどっちでもいいけど」
「あの……」
立場が一番上であるはずのフィオラがおずおずと声を発する。
「どうしました?」
「実は私、木材の椅子とかを魔法で作ること出来るんです。たぶん、棺桶も大きさとかを指定してもらえば作れると思います」
稲妻にでも打たれたかのようにダールは驚く。
「い、いいんですか? そんなことをしてもらって」
「はい。消費する魔力も微々たるものですから、全く問題ありません」
「ありがとうございます!」
「詳しい話を聞きたいので、村の皆さんに会わせてもらえますか?」
「もちろんです! こちらへ!」
ダールが村人たちの方へと戻っていくとき、フィオラは振り向きブレッグへとにっこり笑いかける。
ついに、フィオラが村へ貢献できる機会が訪れたのだ。




