066_黒ずんだ手拭
ブレッグは目を覚ます。
部屋に差し込んだ陽光が朝を知らせていた。
白みを帯びた眩しい光が瞳の開ききっていないブレッグの顔を照らす。
「いつの間にか寝ていたのか」
左目は瞑り、僅かに開いた右目で部屋を見渡した。
ダールの姿はなく、ランタンの明かりも消されていた。
寝ていても仕方がないと思ったブレッグは上体を起こす。
「いたたた……」
怪我に気を使いゆっくりと身体を動かしたつもりだったが、それでも予想以上の痛みに襲われた。
しかし、痛みを正常に感じ取れるということは、身体の機能が回復しているという意味でもある。
「とりあえず、水だな」
強烈な渇きを覚えたブレッグはベッドから出ようとする。
どこへ行けば水を貰えるかわからないが、村に駐在している騎士に話しかけてみれば教えてもらえるかもしれない。
そのとき、小屋の扉が勢いよく開け放たれた。
そこにいたのは息を切らした様子のダール。
「起きていたか」
ただ事ではない雰囲気に、喉の渇きなんか忘れてダールの言葉を待つ。
一呼吸置き、肺に空気を取り入れたダールは告げる。
「フィオライン様が目を覚ました」
「本当か……容態は?」
「わからないが、見た限りでは問題なさそうだ。今はレームが診断している」
「よかった……」
ほっとした拍子に肩から力が抜ける。
絶望的なあの状況から二人とも生還できたのだ。
逸る気持ちを押さえ、ダールに状況を確認する。
「昨日と同じ小屋にいるんだよな」
ダールは頷く。
「会いに行くよな?」
「当然」
「わかった。だがその前に……顔を洗ったらどうだ?」
ブレッグが怪訝な表情を見せると、ダールは濡れた手拭を手渡す。
「顔くらい綺麗にした方がいい。それに、早く行ってもレームの診断を邪魔するだけだ」
一理あるが、そんな呑気なことをしている気分でもない。
しかし、通せんぼするように立ちはだかるダールを見て、ブレッグは観念する。
灰のような色をした薄汚れた布を顔に近付ける。
清潔な水でしっかりと洗われていたためか、嫌な臭いはしない。
顔を拭うと手拭はすぐに黒ずんだ。
朝だから顔が汚れていたというだけではなかったらしい。
「ついでに水浴びもするか?」
「……そうする」
立ち上がったブレッグは井戸へと案内された。




