064_デルセクタの隠し事
「ふむ。納得した」
腕を組んで話を聞いていたデルセクタは目を閉じて数回頷く。
自分の話を信じてもらえたことにブレッグは安心する。
「水、飲む?」
「あ、いただきます」
レームから水の入ったコップを差し出され、一気に飲み干す。
たった一日分の話だが、あまりに多くの出来事があり、最後の方は喉が枯れていた。
「その継ぎ接ぎの男というのが気になるな。今夜はこのまま警戒を続け、日が昇ったら捜索に出るとしよう」
「ありがとうございます」
「よい。我々は民を守るために行動しているだけだ」
頭を下げようとしたブレッグはデルセクタによって制止される。
「それでは、今度こそ解散としよう。ダール。ブレッグを送ってくれ」
「はい!」
椅子から立ち上がろうとするブレッグをダールは支える。
「ありがとう、でも大丈夫」
「そうか」
ブレッグから離れたダールは小屋の扉に近付き、ブレッグが来るまで扉を開きっぱなしにしてくれた。
エスコートされている女性のように扱われているブレッグは恥ずかしさから苦笑する。
ブレッグが小屋から出ようとしたとき、背後からレームの声が聞こえた。
「おやすみー」
「おやすみなさい」
振り返ってブレッグが挨拶を返すと、デルセクタとも目が合う。
「今夜はゆっくり休んでくれ」
「はい」
軽く一礼してから小屋を出る。
当然、扉はダールが閉めた。
窓を閉めたレームはフィオラに近付き、いまも眠り続けていることを確認する。
「それで、さっきの話を信じるの?」
ブレッグとダールがいなくなった後も会話は続いていた。
レームの問いかけに対し、デルセクタは険しい表情を見せる。
「信じる。だが、討ち漏らした可能性はあり得る。やつがそう簡単に死ぬとは思えん」
「でしょうね。ただまぁ、あなたが死ぬ必要はなくなったみたいだし、よかったじゃない」
デルセクタは閉められた窓から夜空を眺め、溜息を一つ。
「……お主と一緒にいると隠し事もできんのか」
「バレバレよ。シオンの討伐が不可能であることを見通して人選したでしょ。五十名近く死者を出したあと、原色機関に褪色者を多数派遣するよう圧力をかけるシナリオだったのよね」
「そうだ。国王にも話は通してある。シオンによって国が蹂躙されているにも拘わらず、機関は人員不足を理由に重い腰を上げようとしないからな」
「えぇ」
レームは乾いた清潔な布を水で濡らし、フィオラの顔を拭きながら相槌を打つ。
「だが、お主とダールだけは必ず逃がすつもりだった。信じてくれるか?」
「もちろんよ。私たちはあなたの後継者だってことも自覚しているわ」
「助かる……それにしても、このような展開になるとは予想していなかった」
フィオラの腕を拭いていたレームの手が止まり、窓ガラスに反射したデルセクタへ視線を向ける。
「そんなにシオンという人物は強いの? フィオライン様もシオンも同じ褪色者なんでしょ」
「……フィオライン様は常人とは比肩できないほどの才をお持ちになっておられる。しかし、それでもシオンは別格だ」
レームは生唾を飲み込む。
「もし、フィオライン様が一人で戦っていたら?」
「口にするのも心苦しいが、何百回戦おうとも勝てることはないだろう」
「……そういうこと。何をすればいいか理解したわ。ブレッグから目を離さなければいいのよね?」
「そうだ。ダールもこのくらい察しが良ければ、すぐに元帥へと昇進させられるのだが」
「あはは。無理よ。幼馴染の私が保証するわ」
夜空を見上げながら、デルセクタは再び溜息をつく。




