063_二人の英雄
「……もっと早く言ってよ。どう考えてもこっちが最優先でしょ」
レームはブレッグの腕に包帯を巻きながら憤りを吐き出す。
ブレッグに言っているのか、それともデルセクタとダールに言っているのかはわからない。
しかし、黙っていたのはブレッグ本人であるため、ここは代表して謝罪する。
「ごめん」
「いいけど。それから、今塗った薬、かなり強力なやつだから油断しないで。身体に異変を感じたらすぐに私に言うのよ」
「……はい」
意気消沈したブレッグは覇気のない声で答えた。
「とりあえず、これで終わり。胸の傷は肋骨が折れていたから、注意しながら生活するのよ。折れた骨が心臓に刺さったら助けられないからね」
「……わかりました」
レームの説明は全くもってその通りだった。
なんだか気まずくなったブレッグは二人の騎士に視線で助けを求める。
デルセクタと目が合い、察してくれた様子の彼はレームに近付く。
「レームよ。ご苦労だった」
「……いえ。これが仕事なので」
「そうか。だが、良い仕事をしてくれた」
「ありがとうございます」
レームの機嫌が少し良くなったところで、デルセクタはこの場にいる全員に向かって話しかける。
「さて、夜もだいぶ更けてきた。今夜はここらへんで解散しよう」
「そうですね。少し眠くなってきましたし」
レームは口元を手で隠しながら大きく欠伸をする。
ダールは何も喋らないが瞳を閉じてしっかりと頷いた。
ブレッグはデルセクタから視線を向けられていることに気付き、急いで頷いて同意を示す。
「では、私とレームはフィオライン様を護衛し、ダールはブレッグの護衛だ」
「承知しました」
眠気など微塵も感じさせないきりっとした声でダールは返事する。
「もしかして、私も寝れない感じですか?」
「今夜は私が見張りをしておくから、レームは寝ていてもよい」
「助かったぁ」
「シオンがいつ襲撃してくるかもわからないのに、寝ようとする神経が理解できん」
「私は騎士じゃないので。それに、寝れるときに寝ておかないと、翌日の仕事に影響しますから」
デルセクタのぼやきを躱したレームは鞄から出した諸々を片付け始める。
「……あ」
大切なことを話し忘れていたブレッグは、解散しようとする雰囲気の中、話を切り出す。
「傷が痛む?」
「そうじゃなくて……シオンのことなんですが、フィオラと一緒に倒しました」
「ブレッグ殿が……シオンを……倒した?」
「いやいや! ほとんどフィオラが頑張っていて、自分はあまり役に立っていなかったです」
ダールの勘違いをブレッグは急いで修正する。
「そうなのか。でも、たった二人でシオンを討伐するとは……凄いな!」
褒められることに慣れていないブレッグは自分の髪の毛をいじって照れ隠しをする。
もじもじしているブレッグの背中をダールは叩く。
本人は軽く押した程度のつもりかもしれないが、疲労困憊のブレッグはバランスを崩して前屈みになった。
「おっと、すまない」
叩いた張本人に肩を支えられ態勢を取り戻す。
「だが、もっと堂々として欲しい。本当は我が隊を総員して討伐するはずだったんだ」
「やっぱり。そのためにこの村に軍隊がいたんですね」
ダールは頷き、肯定する。
「自分で言うのも恥ずかしいが、我々は選りすぐりの精鋭で構成された騎士隊なんだ。それこそ、普通の兵士や冒険者では歯が立たないような魔物を討伐したりもする」
「つまり……」
「それほどの強敵を倒したフィオライン様は英雄ということさ。当然、ブレッグ殿も英雄だ」
「英雄だなんて」
ダールは白くて歯並びの良い歯をみせ、爽やかに笑う。
「尊敬する」
「あー……ははは……ありがとう」
年上の、それも若くして隊長になるほど周囲の人たちから頼りにされているダールから褒められ、今までの苦労や苦痛が少し報われたような気がした。
「ダールの言う通りだ。感謝する」
そう話すデルセクタの表情はどこか固く見えた。
ダールと比較すると余計に。
「まずは、今までの経緯を詳しく聞かせてくれんか?」
「はい」
浮かれていた気持ちを静め、フィオラとの出会いから淡々と説明を始めた。




