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061_吹き抜ける夜風


 騎士たちの隙間を縫うように入ってきたのは、大きくて角張った鞄を持った女性だ。


 鞄が誰かの脚に当たったのだろう。小さな悲鳴が漏れるが、お構いなしにつかつかとフィオラに近付く。


「患者はこの人ですか?」


「そうだ。魔力の消耗が原因だそうだが、詳しくはわからん。診てくれ」


「わかりました。ですがその前に、この部屋は暑すぎて患者によくありません」


 『何もしない奴は出ていけ』ということを遠回しに言ったのだろう。


 デルセクタが騎士たちに向かって視線を送ると、彼らは返事をするように頷き速やかに部屋から出て行った。


 人が減ったことで夜風が部屋を吹き抜けるようになり、汗で濡れた肌に当たって冷やりとする。


「これでやっと呼吸ができる」


 ぶつくさ言いながらレームは鞄を開け、いくつかの道具を取り出す。


 人生で一度も医者に診てもらったことがないブレッグには、それらの道具の使い方なんて想像もできない。


 庶民が病に罹ったとき、診察するのはその村の村長が通例だ。


 医者という職業が存在することは知っていたが、何をするのかは知らなかった。


 レームはフィオラの瞼を開けてライトを当てたり、手首に触れて何かを確認したりしている。


 非常に手際が良く、診断結果はすぐに出た。

 

「特に異常はなさそう。身体は健康そのものよ」


「……よかった」


 安堵したブレッグは胸を撫で下ろす。


 そんな中、気を抜かずに張り詰めた雰囲気の人物が一人。


「フィオライン様が褪色者であることを考慮に入れた上での判断か?」


「答えにくいですね。実在する褪色者の数が少ないため、関連する書物も少ないんです。だから、絶対に大丈夫とは言い切れませんね」


「……そうか」


「ですが、褪色者とは言っても人間です。何か異常があったら身体に現れるはずですから、今は見守っていればいいと思います」


 デルセクタの存在感に物怖じすることなく、レームは自分の意見をきっぱりと伝える。


 自信に満ちているレームの態度に、彼女に任せることが最善であるようにブレッグは思った。


「では、今夜は付き添っていてくれ」


「承知しました」


 レームはぺこりと頭を下げて命令を承諾したあと、鞄を開けて何かを探し出す。


「魔力の回復を促進させる薬を調合するから、誰か水を汲んできてもらえる?」


 再びダールの出番だ。レームが言い終わるやいなや即座に小屋を飛び出して行った。


「流石、ダールね。行動が早いのは良いことだわ」


「隊長というのは率先して行動できなければならん。部下に指示を出しているだけの上司には誰も命を預けようとは思わんからな」


「だから若いのに出世できたのね」


「私の鍛え上げ方がよかったというのもある」


「そう?」


 自我を見せたデルセクタにレームは軽く笑う。


 二人が会話をしている間も、レームは手を動かし続けていた。


 乾燥した花や、根っこ、さらには動物の角らしきものなど一つの器に入れて磨り潰している。


 ブレッグがその作業をじっと見つめていると、レームが視線に気付いたようだ。


「珍しい?」


「あー、医者の仕事って見たことがないから」


「そうなんだ。私は医者じゃなくて薬学師だけどね。まぁ、医者のようなこともするんだけど」


「……薬学師?」


「あまり聞かない職業よね。魔物や魔草を使って薬を作るの。ほら、毒は薬にもなるでしょ」


「ふーん……ん?」


 ブレッグはあることを思い出す。


 お昼ごろ、魔物の肉をステーキにしてフィオラに食べさせていたのだ。


 レームの話を要約すると魔物の素材は毒素を含んでいるということである。


 大きな間違いを犯してしまったのではないかと、ブレッグの内心は焦り出す。


「もしかして、魔物の肉を食べたりした?」


 思考を見透かされているかのように言い当てられ、驚きからびくりと身体を震わせる。


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