059_覚束ない足取り
赤髪の騎士ダールは何かを思い出そうとしているのか、フィオラを見つめている。
すると、ダールは次第に心配そうな表情をへと変貌していった。
「その、彼女は体調が悪いのか? 顔色も悪そうだ」
「本人が言うには魔力を使いすぎただけらしいけど、どこか休める場所を用意してくれると助かるかな」
「承知した」
赤髪の騎士ダールは数名の部下に対し手短に指示を出すと、彼らも走り出していく。
――いいやつっぽいな。
少なくともブレッグたちの敵ではないだろう。
というより、ここまでのやり取りを通じて、ブレッグは騎士の正体を何となく理解していた。
「もう少しこの場で待機してくれ。違うとは思うが、貴殿らが標的ではないことを明らかにしなければならない」
「そっちの事情もわかっているつもりだよ。待っているさ」
「理解が早くて助かる」
ただの庶民であるブレッグに頭を下げて礼を伝えるダール。
騎士の教訓がそうさせただけなのかもしれないが、少なくとも立場を気にしない誠実な人物であることは確かだった。
ブレッグは思考する。
自分たちの情報を開示することで余計な危険に巻き込まれる可能性を。
それでも、ダールという男の前では誠実な自分でありたいと思うのだった。
「標的っていうのはシオンのことか?」
「何か知っているのか? いや、知っていることを全て教えてくれ!」
態度が豹変したダールにブレッグが怯んでいると、威圧感のある低い声の主が騎士たちの間をかき分けて入ってきた。
「ダールよ。何があった」
強い存在感を放つ白髪の老兵は動じた様子がなかった。
齢は五十に近い見た目をしているが、ダールよりも背丈が高くて筋肉質な体格は強者そのものを体現しているようだ。
何よりも力強い瞳からは衰えという言葉を全く感じさせない。
「デルセクタ総帥!」
ダールはもとから真っ直ぐだった背筋をさらに正し、鉄の棒のように身体を硬直させた。
胸を張り、口をめいいっぱい開いて叫んでいるのではないかと思えるほど大きな声で報告する。
「山道から民間人と思わしき二名が現れました! 一名は体調が優れないため、休息が取れる場所の確保を部下二名に……命じて…………デルセクタ総帥?」
報告を中断したダールはデルセクタの全く似つかわしくない姿に戸惑っている。
先程までいた古強者の姿はなく、代わりに口を半開きにして痴呆の老人のようになっていた。
よろよろと覚束ない足取りでフィオラへと近づく。
そして、白い髭を蓄えた口が発した言葉によって、彼らの戸惑いはさらに大きくなるのだった。
「……フィオライン様」
誰もが動けないでいる中、デルセクタは騎士たちの方を振り返ると、彼は威厳のある老兵の姿へと戻っていた。
「この御方だけは死なせてはならぬ!! 至急レームを呼び、治療に当たらせろ!」
「「「はっ!!!」」」




