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057_継ぎ接ぎ男


「さて、帰りましょうか」


 最期のひと時を見守っていたブレッグの方へとフィオラは近づく。


 背筋を曲げてゆっくりと歩く彼女は疲れ切った様子だった。


「終わった……ってことでいいんだよな?」


「ええ、ひとまずは。今後についていろいろと話したいことはあるんだけど――」


 何かを言いかけていたフィオラは転び、草原に伏す。


「お、おい!」


 急いで駆け寄ったブレッグの瞳に映ったのは、弱り切ったフィオラの姿だ。


「ごめんなさい……魔力、使い切っちゃった」


 顔を上げることすらできず、うつ伏せになったまま話し続ける彼女は痛々しいほどに衰弱していた。


「そうだ! 薬! 確か、フィオラのポケットに入っていたはずだけど、何かない?」


「ないわ……だけど、大丈夫。休めば、回復……するから」


「でも……」


「……悪いけど、私を村まで運んでもらえる?」


 そのとき、冷たい風に吹かれたブレッグは身震いする。


 空を見上げると陽は完全に落ちており、すっかり夜となっていた。


 一刻でも早くこの場からフィオラを連れ出し、身体が冷えないようにすることがブレッグの次の使命である。


 胸のどっかの骨が折れているとか、右腕が使い物にならないとか、そんな事情は関係なかった。


「私、重いかも」


 今更些末なことを気にしだしたフィオラにブレッグの緊張は解れる。


「重くないさ。むしろ、今まで運んでいた丸太や水の溜まった桶と比べれば軽いくらい」


「丸太と比べられるのは……複雑な気分」


「ははは。それもそうか」


 ブレッグがフィオラに手を伸ばしたとき、視線を感じたブレッグは振り向いた。


「おやおや? もう一人いた気がしたけど、俺の気のせいだったか?」


 そこにいたのは、月明かりに照らされた不気味な大男だ。


 身長はブレッグよりも頭二つ分は大きく、深く被った帽子の隙間から二人をじっと見つめて観察している。


 バラバラになった数人分の指を縫い付け合わせたような歪な手で顎を撫でる。


「お前たち二人が争っていたわけじゃあないだろ。だとすれば死体の一つでも転がっているはずだが」


 きょろきょろと周囲を見渡していた継ぎ接ぎ男はシオンの灰を見つける。


「まさか……はぁ。それならもっと早く来るべきだった。殺し合いが終わるのを待ったのは悪手だったか」


「……なんの用だ」


 突如として現れた謎の多い男をブレッグは睨みつける。


「用? そんなもの決まっているだろう。死体を回収しに来たんだよ。一つは灰になっちまったが、もう一つはまだ使えるみたいだ」


 うつ伏せになって倒れているフィオラが指さされる。


「虫の息だけど生きているようだし、こりゃぁいい死体になるぜ。あ、ついでにお前も死体になっとくか?」


「ふざけるな!!」


「おいおい、俺が冗談でも言ってるように見えるのか? というか考えてもみろよ。あれだけ派手に暴れていたら、俺みたいな人間が集まってきてもおかしくないだろうが」


 つまり漁夫の利を狙いに来たと言いたいのだろう。


 そして、フィオラとシオンの戦闘を見ても怯えない程度には実力者であり、満身創痍のブレッグが勝利できる可能性はない。


「今は……逃げ、よう」


 消え入りそうなフィオラの弱い声がブレッグの耳に届く。


 状況を冷静に分析した彼女の判断は正しく、怒りに支配されていたブレッグも少しは落ち着きを取り戻す。


「……わかった」


「二人、なら……なんとか、なる」


 『ブレッグなら』でも『私なら』でもない。


 『二人なら』という発言はブレッグを心の底から嬉しくさせた。


「だな。絶対に逃げて、生き延びよう」


 心が通じ合っている二人に対し、男は申し訳なさそうに割り込む。


「あー、その、言いにくいことなんだが、逃がすわけないだろ。俺を誰だと思っているんだ?」


「知るかよ。継ぎ接ぎ男!」


 ブレッグの叫び声と同時に男の足元から蔦が伸び、脚に絡まり拘束する。


「なんだ? この細くて弱そうなもんは。これで動きを止めたつもりか?」


 男は脚を動かしてぶちぶちと引き千切る。


「いいや。ほんの少し、俺たちから目を離すだけでいいんだ」


「は? 何を――」


 顔を上げた男は驚愕する。


 山火事が起こっており、辺り一面が業火に包まれていた。


「うぉわ!」


 半歩後退るが、すぐに違和感に気付き口にする。


「――いや、熱くない。それに一瞬で山が全て燃えるなんてありえない」


 ブレッグの言葉の意図を理解したのか男は走り出すが、既に二人の姿は消えていた。


「いないってことは逃げたのか。この絶望的な視程で知らない森を走り回るのは……不可能だよな」


 大きな溜息は継ぎ接ぎ男の敗北を告げた。


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