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056_妹と姉


「あぁ……そういうことね。また、騙された」


 視線を戻したシオンが森の奥で樹木にもたれ掛かっているフィオラの幻影を見つめると、それは靄のように消え去っていく。


「はぁ、この私が敗北するなんてね。そんな日が訪れるなんて思ってなかった」


「俺たちだって、勝てるとは思っていなかったさ」


「それなら、どうして負けたのかしら。ねぇ、フィオラ?」


「……わからない」


 顔を背中に圧しつけながら籠った声で答えるフィオラは憎しみや嫌悪といった感情が消えているようだった。


「なによ、それ。まぁでも――」


 シオンはフィオラの腕を優しく撫でる。


「ふふふ、最後にこうやって抱き着いてもらえるなら悪くないわね……もう十分満足したわ。手を離して」


 背後から抱き着いていたフィオラは手を緩め、崩れ落ちるようにシオンは倒れる。


 枯草の上で仰向けになったシオンはとても大人しかった。


 最期の力で道連れにされるのではないかと警戒していたブレッグだったが、その心配は必要なかった。


 夜が訪れるかけている空をシオンは静かに見つめる。


 輝きの強い星から順々に姿を現し、夕陽は弱まっていく。


「ごほっ……ごほっ……」


 咳と一緒に血を吐き出したシオンは自分の胸に突き刺さった短剣へと手を伸ばす。


 そして、勢いよく引き抜くと、眼前に持ってきてまじまじと見つめた。


 傷口からおびただしい量の血液が溢れ出すが、そんなことは気にしていない様子だ。


「どうして……こんなものをブレッグが……」


 柄頭に埋め込まれた琥珀が夕陽に照らされて輝きを放つ。


 それは、シオンからフィオラへと渡された短剣だ。


 細部にまで手入れが施されており、当時より状態が良いようにも見える。


「そんなに驚くほどのものではないでしょ。あなたが私に渡したのだから」


 持ち主であるフィオラが答えると、シオンは儚げに笑った。


「とっくに捨てられたと思ってた」


「……ばか」


 俯いたフィオラは素っ気なく言い返す。


「嫌いな人から受け取ったものを、普通はこんな大切に保管しておかないわ。本当に私のことが嫌いなの?」


「大嫌い。……でも、現在のあなたがどうなっていようとも、私の記憶に残っている姉の姿は変わらないわ。思い出が色褪せることはないの」


 鋭利な刃で怪我をしないよう、親指と人差し指で刀身を摘まんだフィオラはそっと取り上げる。


「だから、これは私にとって大切なものなのよ。返してもらうわね」


 フィオラの手に短剣が戻っていったのを見届けたシオンは満足げな表情を浮かべる。


「……最後に、これだけは言わせて。お願いだから、長生きして。フィオラには……もっと幸せな人生を歩んで欲しかった」


「それは……約束できないわ。出来るだけのことはするけどね」


「……そっか」


「悲しそうな顔をしないの。もしも私がすぐに死んだら、二人とも同じ世界で生まれ変わって、今度は本物の姉妹になればいいだけなんだから」


「ふふ……それは、すごく、楽しそう……」


「そうでしょ。でも、次は私が姉になった方がいいかもしれないわ」


「そんなの……ダメよ……フィオラは、私の、妹なんだから」


 ゆっくりと瞳が閉じられ、動かなくなる。


「おやすみなさい。お姉ちゃん」


 返事はない。


 その代わりに、シオンの死に顔は柔らかい表情をしていた。


 これが本当の表情なのだとブレッグは思う。


 そのとき、シオンの肉体が崩壊し始める。


 指先から灰へと変わっていき、瞬く間にシオンは姿を消した。


 残ったのは服と灰だけ。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

まだ途中ではありますが、なんとか物語に一区切りつけることが出来ました。

これからも物語は続きますので、楽しんでいただけると嬉しいです。

もしよろしければ、感想やレビューをお願いします。私自身、執筆経験が乏しいので、今後の参考にさせて貰いたいです。

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