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054_力を持たない弱者


 ブレッグとシオンは恋人同士が手を手を繋ぐように握り合う。


「なっ……!」


 当然、間に挟まれている火球は暴発し、二人の手は炎に包まれた。


 轟音とともにブレッグの顔を熱波が襲う。


「がぁっ!!あああああぁあ!!!!」


 意識が朦朧とする激痛の中、辛うじて目に入ったのは焼け爛れた右腕だ。


 真皮らしき白いものが所々露出しており、自分の腕とは思えない。


 絶叫するも肺の空気は全て出きっており、それでも声にならない叫び声を上げ続ける。


「いい叫びね。なんだか、変な趣味に目覚めてしまいそうだわ」


「あ、あつ……い……」


 シオンの戯言なんか耳に入っていないブレッグは俯いて痛みに堪える。


 そんな彼の顎に手の甲で触れたシオンは、無理やり顔を上げさせた。


 視界に入ったのは重度の火傷を負った腕。


「目を逸らしてはだめよ。まだ終わりではないのだから」


 心の底から感じる恐怖心に歯が震えてカチカチと音が鳴った。


 そして、平地に響き渡ったのは複数の骨が折れる音。


「ぐあああぁああぁぁ!!!!」


 あまりの激痛に思わず涙が零れる。


 ブレッグの右手は人差し指から小指までが手の甲にぺったりとくっついていた。


 伸縮の限界を超えた手のひらの皮膚は裂け、傷口からは砕けた骨の一部が露出している。


「うふふ。痛い?」


 再び俯いてしまったブレッグに対し、わかりきっている質問を投げかける。


 額から尋常ではない量を汗を流し、歯を強く食いしばっているブレッグはなんとか意識を保っている状態だ。


 質問に答える余裕などあるはずもない。


「あら? 聞こえてないのかしら?」


 ドスっという重い音。


 ブレッグの胸にシオンの半分しか握れていない拳が食い込む。


「がはっ……!」


 走るだけで激痛に苦しんだ傷を直接殴られ、激痛に襲われると同時に息苦しさを覚えた。


 ぐりぐりと深く食い込み続けるシオンの腕をブレッグは掴む。


「どう……して……こんなことを」


 一思いに殺すことは簡単なはずだった。


 シオンの理を使えば人を一人くらい消し去ることは容易であるし、怪力を使って首をへし折ることだってできる。


「どうして?」


 不意を突かれたかのように、きょとんとしたシオンは考え込む。


 胸に食い込んでいた腕の動きが止まり、ブレッグも手を離した。


 そして、腰の後ろ側に隠していた短剣へと左手を伸ばす。


「人を痛み付けて……楽しいのか……?」


「楽しくないわ。でも、不思議だけど、あなたが叫び声を上げるたびに気が晴れていくの。言ってみればストレス発散?」


「妬んでるんだな、俺のことを」


「はぁ?」


 眉をひそめたシオンは明らかに不機嫌になっていた。


 この時点で、ブレッグは肉体的に不利ではあるが、精神的には対等な立場にいた。


「面白いことを言うわね。褪色者ですらない、なんの力も持たない弱者が!」


 シオンの右手はブレッグの首を掴む。


 親指と薬指と小指のたった三本しかない指で、ブレッグの首を折ろうと締め上げる。


 骨はミシミシと鳴り圧迫により骨折してしまいそうだ。


 しかし、指が足りていないおかげで血管と気道には隙間があり、即座に気絶することはなかった。


「枯れ枝のように脆い骨。私があと少し、ほんの少し力を込めれば簡単に折れてしまいそうね。それで、さっきの発言を取り消すつもりはないの?」


「取り消した……ところで……事実は……変わらない……」


「強情な人。一応聞いてみるけど、なんでそう思うのかしら?」


「フィオラから……信頼されている……俺が……羨ましいんだ」


「ふふ……あははははは!!」


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